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第八十二話 ピアジンスキーの悪あがき 戦後処理(地図)

 俺は今、奪取したばかりのカラフ城にいる。

 バロシュ家の一族は、小船で川を下りピアジンスキー領へと逃げ込んだようだ。

 はっきり言って一族の命は、それほど気に掛けていない。

 

 それよりも明後日に襲来する、ピアジンスキー軍に対しての防衛態勢を整えることに集中したい。

 そのため、今から、皆を集めて指示を出す予定だ。


 三十分後、カラフ城の一室で作戦会議を開始する。


「皆も聞いていると思うが、おそらく明後日に、ピアジンスキー軍が姿を現わす。それにバロシュ軍の残党も加わるだろうから、結構な兵力が膨れ上がる可能性がある。なので緊急に防衛態勢を整える。いいな」


 視線を回すと、皆が頷いたので話を続けよう。

 

「まずはサーラが作った足場を破壊する。これは俺の火魔法で壊す。あとは城門・城壁の補修に補強だ。これはサーラにやってもらう。それが済めばこの城の守りは完璧だ。敵の主力である騎兵は、攻城戦には向かないからな。三千を超すような大軍でこない限り落ちることはないだろう」


 カラフ城には俺やリリを初めとする、七百近い兵が詰めているのだから、恐れる必要はない。

   

「俺からは以上だ。何か質問はあるか」


 特に何もないようなので、これで会議はお開きとした。


 それからすぐに、俺はファイアーボールを連発してサーラが作った足場を破壊した。

 実際にやってみると、壊すだけでも結構しんどい。

 これを嫌な顔一つせずにこなしてくれた、サーラとリリには感謝しないといけないな。

 またサーラにも、攻城戦で破壊された城壁や門を急遽補修させた。

 これで、一応は問題ないだろう。


 そして二日後、ようやくピアジンスキー軍が到着した。

 さあ、どうする。

 沼地に騎兵は入ることはできないぞ。


 すると、敵騎兵は下馬をし、城の西側へと回って行った。

 そっちは、城までの距離は遠いが、水深は一メートルほどなのでそちらから攻めるのだろう。


 ピアジンスキー軍も本音は撤退したいのだろうが、ここで盟主として相応しい行動を見せなければ、連合の信頼関係が崩れるため、攻撃せざるを得ないのだろうな。


 一時間後、ピアジンスキー軍は沼地に入り進軍を開始した。

 

「ぷぷぷ、馬がなけりゃただの雑兵だな。リリ、マルティナ、やっておしまい!」


 俺は余裕綽々で命令を下す。


「はーい!」

「では行ってくる」


 マルティナは小船に乗って、前進するのがやっとの敵兵へと近づく。

 そして、敵軍に向けて魔法を放つ。


「いけ、『フラッド!』」


 彼女が放ったのは、洪水を引き起こす魔法だ。 

 ナターリャがナコルル丘の戦いで放った魔法の劣化版である。

 さらに、マルティナの後ろを飛ぶリリが、『ガストウインド』という突風を引き起こす魔法を放ち、『フラッド』の威力を増幅させる。

 

 ゴゴゴゴゴ、と轟音をたてて発生した洪水は、身動きが取れないピアジンスキー兵を瞬く間に飲み込んだ。

 今の一撃で、約二十人近くの敵兵を飲み込んだ。

 

 間髪入れずにマルティナは、二発目の洪水を放たんと魔力を溜める。

 そして一分後、再び洪水が敵軍を襲い、さらに約二十人の敵兵を水に沈めた。

 僅か数分で四十人の被害を出したピアジンスキー軍は、これは敵わんと思ったのだろう、早々に退却を開始した。

 その後も敵が沼から出るまでに、マルティナが、ついでに三発『フラッド』を叩き込む嫌がられをして、敵の被害を拡大させた。


 散々な目に会いながら沼から脱出したピアジンスキー軍は、これ以上の力攻めは不可能と判断したのか、カラフ奪還を諦めて退却していった。


 これで、バロシュ家の力を半減させることができた。

 あとは敵の手が及ばない位置にある村落を、傘下に加えるとしよう。



---



 ピアジンスキー軍が退却してから十日が経過した。

 俺はすでにマツナガグラードへと帰還している。

 そして各方面軍の将兵も、見事に役目を果たし、己が土地へと帰還を果たした。

 

 コンチン率いるエロシン方面軍も、チュルノフ軍と協力し、敵を引きつけてくれたようだ。

 ピアジンスキー軍がきたところで、さっさと退却したので、彼等の被害はゼロだった。

 期待通りの働きをしてくれたな。

 あとでチュルノフ家には礼を言っておこう。 


 そして、早速だが、今回の電撃戦の成果を確認してみよう。

 

挿絵(By みてみん)



 黄色く塗られた部分が、新たに獲得した土地だ。

 国力的には、およぞ一万石強といったところだろうか。


 その中の、旧ガチンスキー領にあたる部分は、約束通りロマノフ家に与えることになっている。

 しかし、バロシュ家から切り取った部分はアキモフ家との約定が変わったため、松永家に編入されることになった。

 

 これで松永連合の国力も、ピアジンスキー連合と互角に渡り合えるまでに伸張しただろう。

 あとはエロシン家にバロシュ家を滅ぼせばウラールは統一だな。


 今回の奇襲を受けて、ピアジンスキー家は、騎兵をバロシュ領とエロシン領に、常駐させることにしたらしい。

 そのため、次回からは、これまでのように、ピアジンスキー家からの援軍を足止めする作戦は、通用しないだろう。

 次の戦は、ピアジンスキー家との雌雄を決する、一大決戦になるだろう。

 その時までに、少しでも動員兵力があげられるように頑張るとするか。

 

 さて、今回の戦の総括に関してはこのくらいにして、あとは論功行賞だな。

 それについては、これからコンチンと食事をしながら話し合うことになっている。 

 さあ、そろそろ約束の時間がきたので、食堂へ向うとしよう。

 

 俺は自室を抜け、食堂へ入ると、その中にある個室の扉を開く。

 論功行賞の話を、皆の前でするわけにはいかないからな。


「お待ちしてました」


 先にコンチンが到着していたようだ。

 

「遅くなってすまんな。さっそく話すとしよう」

「そうですね」


 俺は、給仕の女性に料理を持ってくるよう告げると、先程の地図を広げる。

 

「今回の戦で松永家が獲得した土地は、およそ五千石だ。しかし、今後エロシン領全土とバロシュ領の大部分を、アキモフ家に差し出すことを考えると、領土配分はそれを見据えて少し控えめにするべきだな」


 アキモフ領は、亜人との交易のために、直轄地にすることはすでに決まっているので、新たに家臣に分配できるのは五千石程度だ。

 そして、次回の戦で当家に編入されるのは、約二千石。

 この計七千石を、今回と、次回の戦との二回に分けて分配することを、考えねばならない。

   

 これ以上の加増は、知行地が直轄地を上回る可能性が出てくる。

 俺としては、直轄地は最低全体の四割以上、できれば五割は確保しておきたい。

 今のところ、裏切られる可能性はゼロに近いと思うが、将来的に家臣が増えた場合はどうなるかは分からないからだ。

 自前の兵力はしっかり確保することは必要だろう。

 

「ええ、これ以上直轄地を削るのは得策ではないかと。また、今回はロマノフ家から、私に千石ほどの土地と、松永家に金貨二万枚の礼金が支払われることになっています。そこから工面致しましょう」


 以前エゴールとの約束で、ガチンスキー領を割譲した際には、コンチンに幾許かを与えるとあった。

 エゴールはしっかりと守ってくれたようだな。


「金貨二万枚とはえらい太っ腹だな。ロマノフ家の税収は金貨三万五千枚程度だろうに」

「ええ、ロマノフ家にとっての悲願であったガチンスキー家を、滅ぼしたのですからね。父とエゴールの喜びようは、凄いものでした。そんな彼等にとっては、金蔵を開く程度は造作もないですよ。それにガチンスキーの財産を押さえましたので、それでも釣りが出るんじゃないですかね。なので、秀雄様が気にする必要はありませんよ」

 

 ガチンスキー家の権益は全てロマノフ家に渡したからな。

 だがエゴールも気を使ってくれて、いくらか金を回してくれたみたいだな。


「それは助かるな。だがコンチン、お前の分は素直にもらっておけ。これから家臣が増えて、しばらくお前には加増できんかもしれんから、前払いとしておくよ」


 家臣に与えられた領地を、別の奴に再分配するのは格好悪いからな。

 

「別に、私としては領地は十分なのですけどね。もう命も狙われることは無いでしょうし。でも秀雄様が言われるのならば、素直に受け取るとします」

「そうしてくれ」


 コンチンは、口ではそう言ってはいたが、嬉しそうな素振りは見せていたので、満足はしてるのだろう。


「そうしますと、あとは領地と金子の配分ですね」

「ああ、今回、目立った手柄を挙げた者は、バレスにナターリャさんにサーラ、……あとは、アルバロとウラディミーラくらいか。そういえば、ボリスには最高に笑えたな」

 

 ボリスはバロシュ兵の、突撃を喰らい重傷を負った。

 利き腕の骨をぽっきりと折られてしまい、生活に不自由しているらしい。


「ははは、そうですね。たまにはアキモフ家にも働いてもらいませんとね」


 皆、ボリスの失態を聞いたときは、思わず失笑していたもんな。

 チカなんか腹を抱えて笑っていたしな。

 マルティナだけは、なんともいえない表情だったがな。

 

「その通りだ。でも一応盟友ではあるので、見舞い金くらいは送ってやるとしよう」

「それが無難でしょう。あとは領地配分ですね」

「だな。これに関しては、じっくり考えるとしよう」

「はい」


 それから俺達は、運ばれてきた食事をつまみながら、誰にどこを預けるか、誰に幾ら褒美を渡すか、についてしばらく話し込んだ。

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