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第七十三話 ガチンスキー領、バロシュ領攻略戦準備

 チュルノフ家との会談も波乱もなく終了した。

 これで従属勢力がまた一つ増えたな。

 動員兵力も、千を優に超えたのではないだろうか。

 今一度確認してみるとしよう。


 松永家からは約九百人、アキモフ、ロマノフ、チェルニー、チュルノフからはそれぞれ約百五十人前後。

 合計すれば千五百人にもなる。

 ピアジンスキー連合の動員兵力については、詳しくは分からないが、いい勝負ができるのではないだろうか。


 また外交に関しては、ドン家に定期的に使者を送ることにしている。

 今回はピアジンスキー家と衝突したことを、報告することも兼ねてある。

 

 さて、来る戦までの期間は、軍を整備してから、戦の陣容を考えるとしよう。

 獣人たちの加入により、少し変えなければならないからな。



---


 

 停戦切れ一週間前となった。

 すでに戦の準備はできている。


「これより、ガチンスキー、及びバロシュ領攻略戦の臨時評定を開始します」


 コンチンが大声で一言告げた。


 ここは、マツナガグラード城の大広間。

 これから、最終確認をして本番にのぞむわけだ。

 

「今回の戦は、こちらに記載されている陣容で執り行う予定です」


 コンチンが、後ろの者にまで見えるように、でかでかとした紙を壁に貼り付ける。

 これはクレンコフ村の工場で試験的に生産された紙を使用してる。

 そこには、以下の内容が記載されている。


 ガチンスキー方面軍は、松永家からバレス、ナターリャらが率いる兵四百に加え、ロマノフ家から百五十の計五百五十人。

 バロシュ方面軍は松永家から俺自らが率いる兵四百に加え、アキモフ家からの百五十、チェルニー家からの百の計六百五十人だ。

 最後にエロシン方面軍。ここはコンチン率いる兵百五十人と、チュルノフ家からの百五十人にチェルニー家から五十人が加わり、計三百五十人となる。


 総勢千五百人の大軍である。

 今回は、ロマノフ家とアキモフ家にもしっかり働いてもらう予定なので、限界まで動員してもらった。

 

 また、全軍を一つの勢力にあてては過剰戦力となるので、三方へと分散することにした。

 同時に三箇所を攻められては、敵もどうすればよいか分からずに混乱することだろう。 

 幸運にも当家には名将が揃っているから、安心して軍を任せることができるのも強みだ。


「……皆さん、確認されましたか。何かご不明な点がありましたら、申し上げてください」


 コンチンが、評定に参加している面子に窺いを立てる。

 

「ごほん、よろしいだろうか」


 バレスが手を上げてきた。

 最近守りばかりだったので、彼はガチンスキー方面軍の大将に任命することにした。

 今回は責任重大なので、不安な点は、俺やコンチンがいるうちに解消しておきたいのだろう。


「はいどうぞ」

「一つ質問したいのだが、敵の動きと兵力は、どのような感じになると思われますかな?」


 良い質問ですね。

 俺はコンチンを制して立ち上がる。


「ここは俺が答えよう。ガチンスキー家への援軍は、バロシュ領を経由するルートと、クリコフ領を経由するルートの二つが考えられる。ここまでは大丈夫か」


 一度、バレス、セルゲイに加え、新規加入したアルバロにも目を遣る。


『はい』


 バレス達は頷き返したので、話を続けよう。


「よし、それでだ。クリコフ領からのルートは、距離的に遠いために時間がかかる。さらに、ガチンスキー領との境には、森まではいかないが、木々が所々に生い茂っているので、迅速な行軍には向かない。故に、ピアジンスキー軍は必然的にバロシュ領を経由すると思われる」


 一気に話したので、理解できているか不安になり、俺は皆の顔色を窺う。

 するとバレスが膝を叩き、したり顔で言い返してきた。


「だから殿は、バロシュ領への兵力を厚めに配置したのですな」


 最近アルバロが俺のことを殿と呼ぶので、おっさん連中もこぞって真似してる。

 悪くない気分だが、なんだか小っ恥ずかしいな。


「ああ、その通りだ。クリコフ領を通るルートからは、クリコフ軍からの百人程度の援軍を見込んでおけば大丈夫だろう。まあ多くても百五十くらいだろうよ。逆にバロシュ領からは敵の大軍がくるとみている。俺の予想だと五百くらいだな」


 敵の動員兵力は不明だが、エロシン領にも援軍を送る必要があるし、他家への押さえも考えるとこんなもものだろう。

 俺は、ふむふむと首を縦に振っているバレス達を見て、再び口を開く。


「だが、この戦は奇襲をかけることになっているからな。援軍が来る前に落とすのが最重要だ」


 ピアジンスキー家からの援軍が到着するまで四日、早くて三日。

 それまでに、ガチンスキー家を落とすのが理想だ。


「わしも何度がピアジンスキーの騎馬隊とは顔を合わせたことはありますが、奴らの強さは身をもって体験してますからな」

「ああ、奴らは厄介だ。今回は、ピアジンスキーとの戦闘を避けるために、奇襲を選択した面もあるからな。そのため、今回は隊列を整えて進軍はしない。五名単位で分隊を組み、停戦切れの前夜に現地集合とする。そして敵に見つからないように敵地へと浸透していこう」


 今回は荷駄隊の用意はしない。

 手持ちで数日分の食糧をもたせて、あとはアイテムボックスから供給する形にする。


「むむむ、もう一度よろしいですか……」


 俺はここまでかと思い、苦笑いを浮かべコンチンを見る。

 そして、彼も同様の反応を返す。


「これからその辺りのことを、皆に分かりやすく説明するから安心してくれ」


 そう言うと、俺とコンチンは、各方面軍のメンバーにつきっきりで作戦を伝えた。

 結局、皆が作戦を理解して帰っていったのは、夜の八時を過ぎた頃だった。

 そろそろ他にも、知力の高い家臣が欲しくなってきたな。



---



 臨時評定の翌日、俺はコンチンを始めとする内政官を集め、税収についての計算をしていた。

 

「昨日、今年の税収の速報値が出たらしいな。どんなもんだったんだ」


 俺が問いかけると、コンチンがさっと一枚の紙を出してくれた。


「こちらに、おおまかな値が記載されています」

「んー、なになにー、金貨十二万枚か! 予想に比べて随分と上振れしているじゃないか。何が原因だったんだ」


 過去数年間の税収を元にして、松永家の実高を計算したところ、およそ三万五千石となった。

 人口が三万六千人強なので、少し平均よりも劣る。

 理由は、旧クレンコフ領や旧シチョフ領のような生産性の低い土地のせいだろう。

 その地域の領民の年収が低いため、結果的に全体の実高を押し下げることになった。 


 それはいいとして、三万五千石の実高から税金を計算すると、一石当たり金貨七枚とするので、予想する税額は金貨十一万枚ほどだ。 

 しかし結果的には一万枚は多い。嬉しい誤算である。

 そして、俺の直轄地が約二万石なので、手元には金貨七万枚程が入ってくることになる。

 現在国庫ある金は、戦費や施しなどで随分使ったので、一時期は金貨十万枚を越えていたのが、今は金貨六万枚程度しかない。

 そのため今回の豊作は非常に助かった。


「おそらく二つの理由によるかと。一つは今年は例年に比べて日照時間が多かったため、豊作となりました。もう一つは、秀雄様が導入した成果システムの影響もあると思われます」


 豊作については運任せなので、素直に幸運を喜ぶべきだな。

 その一方、早くも農業改革の成果で表れているのは嬉しい。

 

「ほほう。細かいかもしれないが、豊作による分と、成果システムによる分の寄与度は、それぞれどの位なんだ」


 成果システムが、どれだけ生産高を押し上げたかの把握はしておきたいからな。

 

「うーん、難しい質問ですね。私の見解ですと、豊作分が金貨九千枚で、成果システムの分が金貨千枚といったところでしょうか」


 なるほど、まだ完全に浸透していなくても、金貨千枚分の効果があるか。

 内政官の話によると、生産量が上がれば取り分が増えるので、ある村では村民が一丸となり開墾をしているらしい。

 だとすると、今後右肩上がりで税収が増えていく可能性があるな。


「よしよし、金貨千枚だが着実に成果が出ているな。来年はさらに期待ができるだろう。来期の予算についてだが、力を入れる点は道路整備だ。サーラを使い、温泉地への交通の便を格段に上げる予定だ。その辺りを念頭に入れて予算を決めろ。見積もりができたら見せてくれ」

「承知しました」


 税に関してはこれくらいだな。

 あとは戦に備えて心を整えるとしよう。

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