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第百二十五話 迷宮発見

 大和元年五月三日


 すでにクレンコフ村から帰還した。

 領都へ戻ってからは、コンチンとホフマン家の攻め方についての議論を重ねている。

 そして、俺は今日も同じように会議室いた。


 そんな中、ウラディミーラが突然会議室へと入ってきた。

 わざわざ身重の体で駆けつけるということは、何か大事でもあったのだろうか。

 

「どうした、何かあったのか」


 ウラディミーラは安定期に入ったためか、このところ腹が幾分でてきた感じがする。

 

「聞いてください! チェルニー領の南方の森で迷宮が発見されましたわ! 秀雄様から頂いた資金で、南の森を開発し農地を増やしていたら、手付かずの迷宮が見つかりましたの!」


 ほう……、迷宮ね。

 俺としては、迷宮に潜ってヒャッハーする気は全くないが、金にはなりそうだ。

 事実、南のファイアージンガー家やボーデ家は迷宮でかなり潤っているらしい。


「迷宮か、これはいい。これで、冒険者を呼び込めるな。温泉街への集客も見込めそうだ。実にいい」


 地図で見ても、南の森はなんとなく気になってはいたが、そういうことだったのか。


「そうですわ! もちろん迷宮の権益は秀雄様に差し上げますわ。これで、石高も増えますわね!」


 ウラディは健気にも、迷宮の権益はくれるという。

 それは流石に悪い。

 チェルニー家は、実質松永家の一部だが、ここは折衷案を考えよう。


「全ての権益を松永家が頂くのは忍びない。ここは、権益を折半といこう。迷宮周辺の開発費は俺が払うから、その分け前ってことだ」


 秀吉が、全国の金山銀山や堺などの主要都市を直轄地にし、その資金源にしたのを踏襲してもいいのだが、後々反感を買う可能性があるのでやめておこう。

 まあ、ウラディに限ってそれはないだろうが、代重ねしてからが心配だ。


「半分は多すぎですわ。ボーデ家が迷宮により潤っている効果は、計算によっては一万石近くともされています。私たちのケースも、もしかしたらそれに近いものを得られるかもしれません。だから、半分は取り過ぎなのですわ。そんなにとったらエゴールさんに申し訳ないですもの。私たちは一割も頂ければ十分ですわよ」


 ウラディは、早口にまくし立ててきた。

 ふむ、一万石か。

 金貨換算で年間七万枚の経済効果か……。

 計算すると一日あたり、金貨二百枚弱の金が、新たに回ることになる。

 宿や食事さらには武器などで、一人あたり一日小金貨二枚を使うと仮定すると、千人程の冒険者やそれに関わる者の流入があるわけか。

 まあそれなりに現実的は数字だ。

 迷宮都市を一つ作れば、大方それくらいの規模になりそうだな。


 そして、金貨七万枚を税収で換算すると、松永家の税率は、来期から四割へとさらに五分下げるので、約二万八千枚か……。

 かなりの収入になるな。

 ただしこれは、従来の石高制でである。


 迷宮となると、冒険者の上前をはねた分や、迷宮使用料、また人が多く訪れることで商取引が活発になることによるギルドや商店の増収分、が課税対象になる。

 そのため、計算どおりの数字にはならないかもしれない。


 まあいい。 

 細かいところは、他家の迷宮を調べてから決めよう。

 ボーデ家やファイアージンガー家の大森林迷宮は、数も多いし規模も大きい。

 今回俺たちが発見した迷宮とは比較はできないだろうが、ピンハネ率などの、搾取構造は一見すべきものがあるだろう。

 それを調査し参考にすればいい。

  

 ただし、先の二家、特にファイアージンガー家とは先々組みたい相手ではある。

 低すぎるピンハネ率を設定して、大森林迷宮の冒険者を、大量に奪わないようにしないとな。

 

「秀雄様ー! 聞いてますのー!? 私は一割でいいですわよー!」


 おっと、ついつい考え込んでしまったようだ。

 当主になってからは、金の話になると、目の前のことはそっちのけで考え込んでしまうな。

 嫌な癖ができたもんだ。

 ある意味、職業病だな。


「ああ、悪いな。一割、それは少なすぎだろう。せめて三割はやるよ」

「いいえ、それで十分です。秀雄様がどうしてもというなら、その分をロマノフ家や、チュルノフ家やシュトッカー家に回してあげてくださいな」


 ウラディは側室という立場から、迷宮が松永家の火種にならないように、気を使っているのだろう。

 可愛い奴である。

 これは、二人目も考えてやらねばいかんな。

 だが、彼女の言葉にアキモフ家の名が無いのは笑えてくる。


「ふむ、そこまでいうのならばそうしよう。権益の割合については、あとで考える」

「はい、それでお願いしますわ」

「また迷宮開発については、冒険者ギルドに話を通そう。彼らならノウハウの蓄積があるはずだ」

「そうですわね。私は素人なので何も分かりませんから」

「では、早速ギルドに行こう。お前は安静にしていなさい。ややこに触るからな」

「はい、分かりましたわ」


 こうして、俺は、マツガナグラードの冒険者ギルドへと足を運ぶ。

 建物へと入り、いつもの応接室へと通される。

 しばし待つと、例の如くギルドマスターが、額に汗を垂らしながら駆け足で入ってきた。

 

「松永様、ようこそいらっしゃいました。あなた様自ら出向かれるとは、何か重大な事案でもありましたでしょうか?」


 マスターは相変わらず、慇懃無礼な態度で話しかけてくる。


「実はな、チュルニー領南方の森で迷宮が見つかったらしい」


 俺がそういうと、彼は驚愕の顔つきとなる。


「なっ、なんですと! 迷宮といいましたね! 迷宮と!」

「おっ、おう」


 彼がものすごい勢いで聞いてきたので、俺は気おされ気味で言葉を返す。


「それは、素晴らしい! ぜひ開発しましょう!」

「ああ、無論そのつもりだ。もちろん、迷宮から派生する収益は税として納めてもらうぞ」

「はい、もちろんそうさせて頂きます。税率はこれまでどおり、利益の四割でよろしいでしょうか」

 

 ふむ、これなら悪くないな。

 冒険者ギルドには、法人税という形で利益の四割を納めさせている。

 それに迷宮使用料も加えれば、かなりの収入源になるだろう。


「それで問題ない。ただし、一つ俺から要望がある。ギルドが冒険者から取る手数料について、こちらからある程度コントロールさせてくれ」

「そっ、それはどういったわけでしょうか?」


 マスターは不安気な表情で、理由を問うてきた。


「それは秘密だ。当家の戦略上外部に漏らすことはできん。ただし、過剰に手数料を下げることはない、そこは安心しろ。まあ、具体的な数値を出すのはしばらくあとになる。詳細はそのとき詰めるとしよう。そちらの言い分は聞いてやるから、身構えることはない」


 俺はそういうと、マスターの顔色を窺う。

 すると、彼も、過剰な手数料引き下げはないという発言に安心したのが、幾分顔付きも穏やかになった。


「それを聞いて安心しました。私としても、松永様のお言葉による担保がなされましたので、これ以上の詮索はいたしません」

「悪いな。そうしてくれると助かる」

「松永家には大変お世話になっておりますので、問題ありません。では、早速当方から調査員と冒険者を派遣しましょう。松永家からはいかがなさいますか」


 ギルドから人員を派遣してくれれば心強い。

 こちらは、資金は出すのは当たり前として、普請奉行はウラディだな。

 しかし、彼女は身重だ。

 なので、形だけにして、亜人との交渉も一段落したことだし、ノブユキを送るか。

 本当はレフが適任だが、彼はナターリャさんの副官として、ホフマン家に目を向けているからな。

 また足りない人員は、松永家の内政官と武官を適宜派遣するとしよう。


「こちらの責任者は、俺の側室でありチェルニー家当主のウラディミーラだ。しかし、彼女は俺の子を身ごもっているため、代わりの者を送ろう。もちろん資金はこちらが出す。ギルドは迷宮運営のノウハウを教えてくれれば十分だ。どうだ? 俺は優しいだろ」


 ギルドに開発費を出させる、という愚かなことはしない。

 後々権益を主張されても面倒だしな。

 ファイアージンガー家は、おそらく教会にも出資させて迷宮開発を行ったのだろう。

 そのため、取り分で揉めた結果、破門され争っているのだろうよ。


「はい。流石は松永様です。こちらは、ギルドの本分に専念いたします」

「うむ、では早速向ってくれ。こちらからの人員は、追って派遣するからな」

「かしこまりました」


 マスターとの話もまとめ、俺は建物を出て城へと戻った。


 んん、俺が迷宮に潜って、俺Tueeeしないのかって?

 するかよ、そんなの。

 あんな薄汚いところに入って、魔獣と戦って何が楽しいんだ。

 行っても観光程度だよ。

 そっちは、そっちの人に任せるわ。

 俺が興味があるのは、迷宮から上がってくる金だけだよ。

 

 そういうことだから、今後上手く迷宮経営ができるようにコンチンと相談しよう。

 俺は、そう考えるとすぐにジュンケーを飛ばし、コンチンを連れてこさせた。

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