第百十八話 戦後処理とホフマン家への戦略会議
「続いては、ホフマン家の攻め方だ」
領地配分も決まり、次は対ホフマンの戦略だ。
「秀雄ちゃん。その前に、ボリスの落とし前はどうするか決めましょ」
ナターリャさんが無表情になり、ボリスの処遇を要求してきた。
ボリスの件に関しては、彼女が一番怒っている感じなんだよな。
ナターリャさんとボリスの付き合いは長いみたいだから、因縁めいたものがあるのかもな。
「そうですね。俺としては……まあ、彼にしては頑張ったんじゃないかと。次の戦もアキモフ軍を前線に投入し、心を入れ替えたかどうか見てみようと思ってます」
ゴロフキンと対峙しても、すぐに逃げ出さずに、根性を見せたところは褒めてもいい。
そうしなければ少なくとも減封、最悪改易だったから、彼としては戦うしかなかったのだけどな。
そのあたりの嗅覚を流石だ。
まあ、今回はその奮闘を多少は評価して、特別にこれまでの言動と相殺してやろう。
もちろん、加増は無しに決まっているがな。
「そう……。私としては鞭打ち百回くらいは問題ないと思うのよね。でも秀雄ちゃんがそう言うのなら、仕方ないわね」
むっ、鞭打ち……。
百回も叩いたら、ボリスが死んじゃう。
「ははは……」
俺は、苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「まあいいわ。でも鞭打ち無しなら減封してもいいはずよね。その分を、ウラディちゃんやエゴールちゃんに回したほうがいいんじゃないかしら。でも、ここで簡単に減らしたらボリスのことだから、善からぬことを企みそうね。やっぱりここは秀雄ちゃんの言うとおり、一旦保留にしましょ。さあ、話を続けて頂戴」
ナターリャさんの白い肌が、赤くなってきた……。
これはかなりイラついているな……。
夜が怖い……。
「わっ、分かりました。では、ホフマン家についてですね」
さあ惨事になる前に、話題を変えよう。
「秀雄様、あたいから提案があるんだ。よかったら聞いてくれないかい?」
んん、ヒルダか。
彼女は、元はホフマン家の騎士だ。
ならばホフマンの内部に精通しているに違いない。
ここは、ぜひとも話を聞くとしよう。
「おおっ、ヒルダならホフマン家には詳しそうだ。なんだなんだ、言ってみろ」
「うん。実はホフマン家の重臣が、あたいの家と何代も前から仲良くしているのさ。ザマー盗賊団は、その繋がりをいかして、これまで影からその重臣の支援を受けてきたんだ。でだ、あたいがそのツテを使ってその人に話をとおすから、秀雄様が直接会ってみたらどうかな?」
おおう、いきなり重臣とは、なかなかの位の人物だ。
ヒルダも流石に元は騎士の出だけあり、それなりのツテはあるのだな。
このコネを活用しない手はないな。
「ほう。それは面白そうだ。だだ、その重臣のホフマン家に対するスタンスが気になる」
もし、そいつがちくりでもしたら、こちらの情報が筒抜けになる可能性が高まる。
それは絶対に避けたい。
「それは大丈夫だよ。その人はホフマン家でも冷遇されているんだ。じゃなきゃ、あたいを支援してはくれないさ。でも実力はあるもんだがら、主家もそう簡単に排除はできないのさ」
ホフマン家当主は暗愚だと聞くからな。
その重臣は理不尽な扱いを受けて、不満を溜めているのだろうか。
「ふむ、ヒルダがそう言うのなら間違いないな。会ってみよう。調整は任せるぞ」
「ああ、もちろんだよ」
よし、早くも攻略の糸口が掴めたな。
これは予想だが、ホフマン家には、その重臣以外にも冷や飯食いがいるだろう。
これについてもヒルダに聞いてみるとしよう。
「なあ、ヒルダ。今挙げた重臣以外にも、冷遇されている奴はいないのか?」
「流石は秀雄様、抜かりがないね。ええ、あたいが世話になっている人の他にも、何人かいるはずだよ。主家は、ピピン家やポポフ家といった新参者を厚遇してるくらいだから、不満は溜まっているだろうね」
やはりそうか。
ならば、そいつらとも話をつけたいな。
金や領地をちらつかせてみよう。
結果として、寝返りとはいかなくとも、日和見してくれれば十分だ。
「そうか! ヒルダはそいつらとも面識はあるのか?」
「すまない……。私がコンタクトを取れるのは、さっきの人だけなんだよ。それ以外の騎士は、才蔵さんたちにお願いしてもらうしかないよ」
直接コンタクトは取れんか。
まあいい、最初の重臣を会えるだけで十分だ。
これから再軍備を整えるあいだ、三太夫らにはホフマン領を駆け回ってもらうとしよう。
「いや、それで十分だ。あとは忍衆の仕事だ。ヒルダは、自身の兵を鍛え、次回のホフマン戦で活躍してくれればいい」
「ありがとね、そういってもらえると助かるよ。じゃあ、次のホフマン戦ではあたいに先鋒を任せておくれよ! 絶対活躍するからさ」
「ああ、無論そのつもりだ。領内の地形に明るいヒルダは必要不可欠だ」
「やった! 頼んだよ!」
ヒルダはそう言うと、ビキニアーマーから零れそうな胸をゆさゆさと揺らしながら俺の下へと近づき、胸を押し当ててきた。
「ヒルダちゃんずるーい。私もいくわよー」
続いてナターリャさんも俺の隣に座り、豊満な胸を押し当ててきた。
「おっほー。ゴホン……、これで調略目標は決まった。次はピピン家とポポフ家との交渉だな」
つい声が漏れてしまうが、俺はコンチンの方へと向き直り、気を取り直して話を続ける。
「はい、できることなら松永家に組する利を説き、味方にしたい勢力です。ただし、彼らはホフマン家の宿老、ジークフリート=アルブレヒトが直接探し出した人物です。問題は、どこまでホフマン家に対し忠誠心を持っているかですね」
話によると、ピピン家とポポフ家は元Aランク冒険者が登用されたとのこと。
ジークフリートが、金と土地を条件に口説いたらしい。
なので、彼らのホフマン家に対する忠誠心は、譜代臣ほどは強くないだろう。
まあ、その譜代臣も、心が離れている者がいるようだがな。
それはいいとして、ピピン・ポポフの二家には交渉の余地はあるだろう。
また、わざわざ外様を抜擢するということは、裏を返せば他に使える者がいないわけだ。
おそらく、ホフマン家当主は、諌言をする忠義の者は退け、イエスマンばかりを側においているのだろう。
ジークフリートも大変そうだ。
「そうだな。だがやってみる価値はあるだろう。冒険者は利にさとい者が多い。松永家の勢いを見れば、いい返事が返ってくるかもしれん。まずは領地を接するピピン家からだ。そして、次はポポフだな」
「分かりました。では、早速ピピン家に使者を送りましょう」
「うむ。任せた」
さて、調略もこれでよし、外交もこれでよし。
ドン家も、カールらコトブス三国同盟が上手く引き付けてくれている。
あとはなんだ。
「秀雄ちゃーん。もういいんじゃないのー?」
ナターリャさんは俺の胸元にしなだれかかり、乳首をクリクリしてきた。
「はうっ! ちょ、ちょっと待ってください。まだ、終わってないですよ。なっ、なあコンチン」
俺は助けを求めるように、コンチンを見る。
「申し訳ありません……。私にはお助けすることはできません」」
彼は無情な言葉を放つと、首を横に二回振り、ジュンケーを引き連れて部屋から出て行ってしまった。
ナターリャさんが怖いのはわかる、だが俺とお前の仲じゃないか! 薄情すぎるぞー。
「さあ、秀雄ちゃん。お楽しみの時間よ。ほらほらヒルダちゃん、早く服を脱がせなきゃだめよー」
「はいよ! 秀雄様。覚悟しな!」
ナターリャさんが俺のからだの自由を奪い、ヒルダが俺の衣服を剥がす。
なんて素晴らしいコンビネーション……、って突っ込んでいる場合じゃない。
まだ時間は昼なんだぞ。
夜の覚悟はきめていたが、今から始めたら……枯れ果ててしまう……。
特にナターリャさんは、ボリスの件があり気が立っている。
まずい、ここはなんとか逃げないと……。
「待て、これからマルティナにお伺いを立てに行かないと――、んー」
ナターリャさんが、唇を重ねてきた。
なんか頭が溶けそうになってくる……。
そしてヒルダがズボンを……。
スマン、これ以上は自主規制だ……。




