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第百十七話 戦後処理

 ダミアン=ピアジンスキーは、松永軍と停戦協定を結び領境を確定させたのち、領都ホルシャへと帰還した。

 

「松永の真意はなんだ……」


 ダミアンは、秀雄が停戦に応じるとは思っていもいなかった。

 彼の目的は、ただ一つ時間稼ぎの一点に集約されていた。

 なぜならば、隠し玉が戦場に訪れるまで日数を要するためだ。


 しかし、停戦交渉における秀雄の反応は、思いのほか好感触だった。

 ダミアンにとって許容範囲内の条件で、サクサクと交渉は進み、気付いたら停戦期間一年六ヶ月という、半同盟といっても差し支えない協約が成立したのだ。

 あまりの順調さに、『傘下に入れば所領は安堵する』という秀雄の一言は、もしや真意なのではないか。

 ダミアンはそう考えさえもした。 


「だが、困ったな……」


 しかし彼は、停戦が決まったことで、隠し玉の処理について悩むこととなる。

 そして、結論がでないまま領都ホルシャへと帰還した。

 

 それからしばしの間を置いて、ミスリルの全身鎧に身を固めた重装歩兵五十人と、そのパートナーである五十人の美少年魔法兵の、計百人が到着した。

 

 この集団がダミアンの隠し玉である、神聖組だ。 

 神聖組は、神聖騎士団の遊撃部隊として位置されており、教皇軍の精鋭が集結している。

 その精強さは、教皇も一目置いているほどだ。


 また神聖組の人員には、明らかな特徴がある。

 それは、重装歩兵とそのパートナーであるが恋人同士であることだ。

 また、恋人の二人は普通の男女ではなく、両方男性という点に特徴がある。

 これは戦場において、恋人の前で無様な姿を見せることはできないと思い、互いに刺激しあい戦うことで相乗効果を見出すためだ。

 教会内では原則一夫多妻制が禁止されているため、騎士の嗜みとして将来有望な少年を囲う習慣がある。

 神聖組はその慣習を上手く利用し、結成された部隊なのだ。


「これはこれは、遠路遥々ご足労いただきまして、ありがとうございます。私がダミアン=ピジンスキーです」

 

 ダミアンは、慇懃な態度で神聖組の指揮官へ挨拶をした。

 そして、彼らを怒らせないよう腐心することとなる。



---



 大和元年三月十九日


 俺たちは、奪取したヴィージンガー領とクリコフ領に兵五百をそのまま残しマツナガグラードへと帰還した。

 ヒルダも論功行賞があるので、領都へと連れていくことにした。

 

 代わりにバレスを呼びつけ、ここ一帯を守らせホフマン家の動きに備えることにした。

 アニータさん率いる獣人部隊も残しているので、守りは問題ないはずだ。

 また、レフにはピアジンスキー領境の砦群に詰めさせ、事が落ち着くまで警戒に当たらせている。


 さて、ピアジンスキー家と長期停戦をしたことで、今後松永家の方向性は大きく変わる。

 

「では、戦後処理も含めて、これからの戦略について詰めましょう」

 

 コンチンが告げる。


 これからコンチンにナターリャさんとヒルダを加え、会議を始めるところだ。

 マツナガグラードにいる知力の高い面子は、この三人しかいないので仕方ない。

 ジュンケーは側仕えなので、もちろん控えている。

 マルティナ、ビアンカ、ウラディミーラは身重なので、安静にしてもらっている。

 リリとクラリスは訓練中だ。


「ああ、まずは領地配分からだな」


 俺は、バサリと地図は広げる。


挿絵(By みてみん)


「黄色で塗りつぶされた部分が、新たに松永家へと編入された土地になる」


 クリコフ領の六千石に、ヴィージンガー領の七千石、ピアジンスキー家から割譲された三千石に、ザマー盗賊団の三千石だ。

 合計一万九千石、かなりの石高が一気に加算された。

    

「随分と増えましたね……」

「ああ。今回は気前よく振り分けられそうだ」

「ええ、八千石くらいならば、知行地として与えても問題ないでしょう」


 ザマー盗賊団の三千石を差し引いた、値の半数だな。


「うむ、では始めるとしよう」


 俺はペンを取り、地図に直接将の名を書き込むつもりだ


「まずはホフマン領と接する、旧クリコフ領と旧ヴィージンガー領だ。ここは古参の者に預けよう」

「となると、バレス殿か、ナターリャ様でしょうか」

「ここは、ナータリャさんに任せようと思う。レフも付けますので、引き受けてもらえませんか?」


 俺は、隣でヒルダとなにやらこそこそと話こんでいる、ナターリャさんに声をかける。

  

「バレスは手一杯だし、ここは私かしらねー。いいわ、やりましょう。秀雄ちゃんのためになるなら、喜んで引き受けるわ。でも分かってるわよね……」


 ありがとうナターリャさん。

 今夜は、お付き合いさせていただきます。


「感謝します。ナターリャさんには旧ヴィージンガー領に移ってもらいましょう。知行地は五千石になります。実質二千石の加増になります」

「了解よー。でも、そんなに領地が増えちゃうと、少し人が足りないわねー。これから採用する子たちを何人か付けてくれるかしらー?」


 最前線に配置したら、流石に頼りになる家臣は欲しいだろう。

 誰か、与騎としてつけてやりたいな。


「もちろん構いませんよ。まずはアルバロ、アニータさんに千石を与え、ナターリャさんが移転先の隣につけましょう。アニータさんは内政面でも役立ってくれるはずです。その他にも希望があれば、お聞きしますよ」

「アニータちゃんがいれば大丈夫よー。あとは、レフとヒルダちゃんが助けてくれるわー」

「ではそれでお願いします。不足がありましたら遠慮せずに言ってくださいね」

「ええ、そうさせてもらうわねー」


 これで、ホフマン家への備えはよしと……。


 次はコンチンだな。

 今回の一番手柄だ。

 彼には俺の側にいて欲しいので、前線配置はやめよう。

 クリコフ領のほとんどを与えるとしよう。

 

「続いてはコンチン、お前だ。今回の少数精鋭での活躍ぶりは見事。よって旧クリコフ領に五千石を与えよう。悪いが、現在の土地から転封だ。迷惑料として金貨一万枚もつけよう」

「それは多すぎます。半分で十分です」

「いや、お前にやらなければ、土地がだぶつく。もらってくれ」

「そう言われては断ることができませんね……。拝領いたします」

「うむ。頼む」


 コンチンは相変わらず控えめだが、嬉しそうだ。

 これで、バレス、ナターリャさん、コンチンの三羽ガラスが揃って五千石の土地もちになったな。

 他の家臣は、彼らを目標に頑張って欲しいものだ。


 今度はヒルダか。

 彼女は、アルバロが暴走するなかで好采配を振るい、無傷でのクリコフ城奪取に貢献した。

 また、ヴィージンガー領攻略においても、先頭に立ち槍を振るい活躍したとのことだ。


「次はヒルダだな。あなたには千石を加増しよう。これでナターリャさんを助け、ホフマンに睨みをきかせてくれ」

「ええっ、それは恐れ多いよ。五百石でいいって。あたいみたいな新参者がでかい顔したら、周りの目が怖いよ」


 ヒルダは、控えめに五百石の加増でよいと言った。

 

「ふむ、それもそうか……。ならば、もう五百石の代わりに金貨一万枚をやろう。好きに使え」


 これはクリコフ家の金蔵から取った金の半分だ。

 ヒルダに流してやろう。

 

「いっ、一万枚も! いいのかい? これで盗賊紛いのことをしなくても済むから、あたいとしてはありがたいけど……」

「遠慮するな。だが盗賊活動は今後も続けてくれ。ホフマンに嫌がらせはしないとな」

「秀雄様がいうなら、そうするよ。金貨一万枚も……ありがとう。今日はサービスするからね!」


 ヒルダはそういうと、ナターリャさんと顔を合わせて意味深な笑顔を浮かべた。

 

「ははっ、お手柔らかにな。ナターリャさんも……」

「んふふ、それは秀雄ちゃん次第かしらね」

「ははは」


 今日は激しそうだな……。

 覚悟を決めるか。


 ところでヒルダのことは、ちゃんとシフト表に組み込んでいるのだろうか。

 後で、それとなく正妻にお伺いを立てるとするか。

 そのうちばれるんだ、素直に白状しておこう。

 俺は当主なんだから、堂々としていればいいはずだ……よね。 


「ふう、話を戻そう。領地分配だ……」

「はい。新たな加増対象は、これまでの実績を考えてアニータ、ウルフ、ニコライ、ヒョードル、それに忍衆あたりでしょうか」

「うむ、そんなところか……」


 アルバロではなくアニータさんというところが笑えるな。

 二人には千石加増することになっている。

 亜人領域からの参加者では、出世頭だな。

 彼らには、なるべく亜人差別が少ない土地を選ばないといけないから、加増できる範囲が限られるのが難点だ。

 今後は、何か宗教的なものでも興し、領民の考えを改めさせることも考えねばならんな。

 

 ウルフたち大鷹族は、今回の戦で広範囲に置ける索敵兼連絡役になってくれた。

 この功績は目を見張るものがある。

 五百石の加増だな。


 ニコライとヒョードルにもこれまでの実績を認め、セイニ砦周辺を加増しよう。

 二人で千百石ほどだな。

 

 あとは忍衆か。

 これから人数も増えることだし、五百石加増しよう。

 

 これに加え、もう二千石は、内通した騎士十名に分配せねばならない。

 クリコフ騎士五名に、ヴィージンガー騎士五名である。

 松永家は寝返り者も厚遇すると、ホフマン家に喧伝すれば、効果はあるだろうからな。


 これで加増する土地の合計は、一万石。

 予定より二千石多くなったが、まあいいだろう。

 大した誤差ではない。


 俺は、これらの情報を紙に書き込み、コンチンに見せる。


「――こんな感じだな。どうだ?」

「特に問題はないかと思います。私の知行地がいささか多い気がしますがね」


 コンチンは、紙に記載された内容を一通り確認し、肯定した。

 よし、加増に関してはこれでいいだろう。

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