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第百十六話 クリコフ・ヴィージンガー領攻略戦⑤

 俺の要求を受けて、ダミアンは考え込む。

 しばらく熟考ののち、重い口を開いた。


「エミーリアは当家にとって、なくてはならぬ存在。簡単に出すことはできぬ。しかし、折角の松永殿の申し出を無碍に断ることはできん。エミーリアの代わりにフローラを送ろう。ただし、停戦期間をもう半年延ばしてくれ」


 やはりエミーリアはだめか。

 それに、はっきり言ってフローラはいらんのだが……。

 フローラで半年延ばすとか……、ダミアンにとっては可愛い娘だが、俺にとってはただの煩い女だ。

  

「なるほど……、そちらの要望は分かりました。しかし、正直言ってフローラの場合は、逆にこちらが教育費をもらいたいくらいです」

「ははは、そうだな……」


 図星を突かれたのか、ダミアンは苦笑いを浮かべることしかできないようだ。


「ならば、こちらからフローラの教育費を支払おう。また、クリコフ家一族の身柄はこちらで引き受けたい。それらの代金として、騎馬五十騎と金貨二万枚をお渡ししよう」


 騎馬五十騎は、クリコフ家とヴィージンガー家へ回す分だな。

 クリコフ家の税収は、金貨二万五千枚程度。

 それを鑑みると、ダミアンの提示した条件は悪くない。

 フローラの教育費は半ば冗談だったのだが、生真面目に上乗せしたようだ。

 思い通り停戦期間も延ばせたし、よしとするか。 


「そこまでされては断ることはできません。この条件で飲みましょう」


 俺は、そうダミアンに告げ、手を差し出した。


「つかの間の平和かもしれんが、感謝する」

「いえいえ、我らの軍門に下るのならば所領は安堵しましょう。まあ、一年半じっくりと考えてください」


 ダミアンの手を握りながら、最後に意味深な発言を加えておいた。

 これを良い意味で受け取ってくれればよいのだが。


「それを考えるのは時期尚早よ。ただ松永殿の心遣い、胸に留めておこう」


 ダミアンも感じるところがあったのだろう。

 軽く口元に笑みを作りながら、手を離した。


 ただ、一つ気になることがある。

 ドン家は、停戦についてどう思っているのだろう。

 反対ならば、付け入る隙が出てくるのだが。


「ええ、お願いします。ところで、これについてドン家の対応は?」

「……それは、わからん。ただドン家は停戦には反対はしなかった」


 ダミアンは余計な情報は与えまいと、言葉少なめで切り上げる。


 ふむ、ドン家はナヴァールにかまけていられないのかな。

 東にコトブス三国同盟、西にヴァンダイク家、南にファイアージンガー家、北にホフマン家と領土を接している。

 その四勢力を警戒しながら、ピアジンスキー家のケツを拭くのは正直面倒なのだろう。

 援軍を出しても、領地を得られなければ意味が無いからな。

 ならば、松永家とピアジンスキー家を停戦させ、松永家の伸張を食い止めつつ、自身は他に目を向けたほうが建設的ではある。

 

 ダミアンとドン家、意見の食い違いはないようだ。

 ならば、両家の不和は望めないか。

 

「分かりました。では、我々は兵を引くとしましょう。では失礼します」

「私も領都に戻るとしよう。さらばだ」


 これで交渉は終わった。

 戦も終わりだ。

 俺は、ウルフを飛ばし、コンチンに攻撃を止めるよう伝える。

 そして、俺自身もこれからコンチンと顔を合わせに、ヴィージンガー領へと向うか。

 ビキニアーマーちゃんこと、ヒルダとの約束も果たさねばならんしな。

 

 

---



 事が落ち着くまで、レフと兵二百をセイニ砦へ残し、全軍を退却させた。

 退却の指揮はバレスに任せ、俺とリリは森を抜けてショートカットをし、ヴィージンガー領へとひた走り夜には無事にコンチン、ヒルダらと合流を果たした。

 

 そして、これから戦勝祝いに、三人で酒を入れながら話し合いをする運びとなる。

 

「二人共お疲れ様。すでに話はいっていると思うが、先程ピアジンスキー家と停戦を結ぶことにした。期間は一年半だ」

「ウルフからの手紙を拝読しました。なかなかの好条件で停戦を結んだようですね。それにピアジンスキー家とドン家という精強な二家を相手するよりも、当主が暗愚なホフマン家を攻めるほうが、理に敵っています」

「あたいにはよく分からないけど、これからホフマンを叩くんだろう。先鋒は任せておくれよ!」


 コンチンは、順調にヴィージンガー領を落としていたため、不満をもっているかと思ったが、停戦条件とその理由を付け加えた内容の手紙を読み、すでに納得がいっているようだ。

 ヒルダは、知力がそこまで高くないので、完璧には理解していないが、ホフマン家に攻め入ることが分かると、俄然やる気を見せる。


「ああ、お前たちがヴィージンガー領まで素早く出張ったお陰で、こうすることができた。これは将来的に、ピアジンスキー家を丸々取り込むための布石でもある。ホフマン領を取り込めれば、松永家は一気に飛躍するからな。さすればダミアンも尻尾を振るはずだ」


 ホフマン領にピピン領とポポフ領を加えれば、松永家は単体で十万石を超す大大名となる。

 連合全体でも、二十万石近くまで国力が上昇するだろう。

 となると我々に敵うのは、南方諸国北東部だと、ファイアジンガー家かアホライネン家くらいだ。


「ピアジンスキー家の人材は豊富ですからね。ぜひ手に入れたいところです。それにしても、ダミアンは絶好のタイミングで停戦交渉をしてくれましたね」

「ああ、俺も最初は停戦などするかと思ったが、ヴィージンガー方面軍の状況を鑑みると、これは絶好のタイミングではないかと心変わりしたよ」

「私もそれで正解だと思いますよ」

「まあ、この判断が正しいかどうかは時間が経たないと分からないが、俺たちはやれることをやるだけだ」

「ですね、私をお手伝いしますよ」

「ありがとよ」


 俺とコンチンはニヤリと笑い酒を酌み交わす。

 

「おいおい、あたいも忘れないでおくれよ」


 ヒルダは仲間はずれにされたと思ったようで、あついあついとコートを脱ぎ捨て、ビキニアーマー全開で俺に体を寄せてきた。


「もっ、もちろんだ」


 おっほー、これだよこれ。俺が求めていたものはこれなんだ。

 …………おほん。

 コンチンとリリの前だ。

 ここは冷静にならなくてはいかん。


「ははは、秀雄様も元気ですね。マルティナ様に見つからないようにしてくださいよ」

「マルちゃんにはだまっててあげるから、帰ったら二人で蜂蜜取りに行こうねー」


 コンチンはいつものように苦笑いを浮かべている。

 

 リリもここ最近お馴染みの、弱みを握っては交換条件を出すという、悪知恵を駆使してきた。

 とはいっても、その目的は俺と一緒にお出かけという、可愛いものなのだがな。


「わかったわかった。蜂蜜な、帰ったら二人で行こうな、約束だ」

「わーい! やったねー! みんなには内緒にするから安心してねー」


 リリは移動の疲れなどなんのその、俺の周囲を飛び回り喜びを表している。


「妖精さんの許可も下りたことだし……ね」


 ヒルダは俺の耳元で、息を吹きかけながらささやいてきた。

 

「あっ、ああ」


 俺は、ついビクンと反応しながら、ヒルダに同意してしまった。

 マルティナ……、妊娠中なのにごめん。

 ビキニアーマーが悪いんだ。

 俺は、鉄の心で耐える決意はしてたんだよ。

 

「秀雄様……、一応報告させて下さい」


 ヒルダが腕を絡ませしなだれかかっているところ、コンチンが申し訳なさそうに、地図を広げてきた。


「あっ、ああ。まだ戦果を聞いてなかったな。すまんかった、話してくれ」

「では報告します。我々はヴィージンガー領北部に加え、南部の三分の一を奪取することに成功しました。石高で言いますと七千石になります。クリコフ領六千石も支配下に置きましたので、計一万三千石を手に入れたことになります」


 ヴィージンガー領の六割以上を切り取ったのか、流石だな。

 停戦交渉で、セイニ砦とルルラン砦周辺の三千石も手に入れたので、計一万六千石も領土が増えたことになる。

 これで松永家は六万四千石かな。

 いいぞ、着々と勢力を拡大している。


「おお、二人共頑張ったんだな。これで、一気に国力が上がったな」

「はい、報告は以上です。失礼しました」


 コンチンは手短に報告をし、空いたグラスに酒を注いでくれた。

 なんか気を使わせて悪いな。


「いや、気にするな。まあ、詳しい話は明日にして、今日は戦勝祝いを楽しもう。リリ、高級ワインをじゃんじゃん出してくれ」

「うん! お菓子もねー」

「ああ、好きなだけ食べなさい」

「やったー!」


 リリは嬉々として、アイテムボックスから宴会セットを取り出した。


「アルバロにも差し入れしてやろうか……」

「とりあえず、アニータさんに渡しておきましょう……」

「それが無難だな、リリ、悪いが運んでくれ」


 アルバロの姿を見たら、居たたまれない気持ちになるのでリリにお願いした。


「うん!」


 リリは、機嫌そのままにギューンと獣人部隊の天幕へと飛んで行った。


「俺たちは改めて乾杯といこう」

「はい」

「あたいもよ……」


 俺はヒルダに絡みつかれたまま、はやる気持ちを抑えながら酒を呷る。

 

 そして二時間後、天幕には俺とヒルダの二人きりとなった。

 リリとコンチンは、適当なところで空気を読み出ていったみたいだ。


 俺は、辛抱堪らず、ビキニアーマーに手を掛ける。

 そして、リリが気を利かせて敷いてくれた布団の上へと、ヒルダと共に倒れこんだ。

 あとはご想像にお任せしよう。

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