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第百十一話 ボリスに最後通告

「コンチンが、連れて行きたい奴は誰だ」


 三百人で攻め込むので、なるべく希望は聞いてやろう。


「要望ですか……。ならば大鷹族を何名かお願いします。あとは、速度を重視したいので、足の速い者を希望します」


 足の速い奴か。

 とはいっても、アルバロら猫族と犬狼族の七十名ほどは、闇夜に紛らせザマー盗賊団の根城に派遣するつもりだ。

 ちなみに、猫族と犬狼族の数も以前と比べ増加している。仕官を希望する者が、交易路を通り定期的に訪れるからだ。

 ならば、新参の亜人たちをコンチンに付けるか。

 飛行ユニットも、亜人代表との会合から増員されて、今では十二人に倍増している。

 ここでウルフに手柄をつけさせて、領地持ちにしてやりたいな。


「わかった。そっちには、松永軍古参の精鋭を付けよう。また鬼族・鰐族・熊族ら亜人部隊も回そう。もちろん大鷹族も、五名を与えよう」


 俺はこれでどうだと思い、コンチンの表情を覗き込む。


「これは十分過ぎます。鬼族や亜人部隊については、本隊へ回してください。古参の精鋭で十分です。あとは私の手勢で賄いますから」


 ふむ、裏からアルバロもとい、アニータさんとヒルダが背後から突くのだから、コンチンの言うことはもっともか。

 

「ならば、そうしよう。出陣は二週間後だ。明日にでも皆に使者を送るとしよう」

「では、手配しますね」

「うむ。あとは細かな詰めだな」

「はい、お付き合いします」


 それから、俺とコンチンは夜遅くまで、将の配置や進軍ルートなどについて協議を重ねた。

 


---



 大和元年三月十五日


 コンチン率いる、クリコフ方面軍三百は、すでに行軍を開始してる。

 そして、俺が率いる松永連合は、バレスの知行地に集結している。

 そこから直轄領をとおり、ピアジンスキー領へと進軍を開始する。


「まだかな……」


 俺は、少し前にボリスを呼び寄せた。

 軍議を前に、先鋒のお願いをするためだ。


 ちなみに、ボリスには前にも触れたように、段蔵に付きっ切りで監視をさせている。

 寝返りの兆候が見られれば、それを理由に糾弾するだめだ。


 長期にわたり監視した結果、ボリスはシロかクロのどちらかというと……、ギリギリシロだった。

 奴は、他家との使者から話しは聞くものの、松永家の実力は評価しているようで、最終的には全て断ってはいるらしい。

 ただ、他家の者を、ホイホイと館に入れて話をしているだけで、俺としては気分は良くない。

 フットワークが軽すぎるんだ。  

 教会のような大勢力が本腰できたら、さくっと裏切られそうな気もする。 


 なので、ここでけじめをつけるべきと考えた。

 アキモフ軍が先鋒を引き受け奮闘を約束しなければ、他家との接触の証拠をすべて提示して、内通罪として身柄を拘束する予定だ。


「秀雄様、ボリス殿がきたみたいです」


 小姓を務めているジュンケーが、報告してくれた。


「遅いのじゃ!」

「だよねー。首を絞めてやろうよー」


 とは、クラリスとリリ。


 何故クラリスが戦場にいるのだ、と思うだろう。

 仕方ないんだ、同じ年のジュンケーを小姓にしてから、クラリスがライバル心を燃やし、妾も妾もとダダをこね、最後は泣き出したのだから、連れていくしかなかった。

 なので、現在クラリスも小姓として側仕えさせている。

 リリと遊んでばかりで、あまり働かないが……。


「二人は静かにしてなさい。これから大事な話があるんだから」

「はーい、なのじゃ」

「わかりましたー」


 二人はそういうと、天幕の裏から抜け出し外へ遊びにいった。

 

「ではジュンケー、通してくれ」

「はい!」


 ジュンケーが子供らしく、元気よく返事をすると、トタトタと天幕の入口から出て、ボリスを招き入れる。


「失礼する」


 ボリスが、飄々とした風に入ってきた。

 

「エゴール殿の式以来ですね。まあ、お座り下さい」

「すまんな」


 彼は、俺が促すと、ドカリと椅子に腰掛けた。

 そして、ジュンケーが注いだ茶をすする。


「さて、何故私がボリス殿をお呼びしたかといいますと、実は此度の戦で先鋒をお願いしたいがためなのです」

「なっ、なに。もう一度言ってくれ」


 ボリスが焦っている。

 これまで、後方が多かったので、今回もそうだと思っていたのだろう。

 ははははは。


「では、大事なことなので二回いいます。ボリス殿率いるアキモフ軍は、兵三百を率い、隊列の先頭に立ちピアジンスキー領へと進軍してください。攻撃や会戦の際も、もちろん真っ先に、敵と戦っていただきます」


 ご要望どおり二回いってやったぞ。

 さて、どう出る、ボリスよ。


「なふん! それは、唐突過ぎるだろう。これまでの我々の貢献も考えれば、そのような役回りはせんでもよいはずだ」


 やはり、二つ返事で『はい』とは言わないよな。

 

「しかし、アキモフ家と同じく最古参のロマノフ家は、これまで最前線で何度も体を張っています。そろそろボリス殿にもご活躍を願いたいかと……」


 エゴールは、ガチンスキー領とマリアを手に入れるために、命を懸けて戦い抜いた。

 しかし、ボリスは松永家の置かれた不安定な立場を利用して、まんまとロマノフ家と同じ領土を得た。

 誰の目から見ても不公平だ。

 ここで働いてもらわなければ、他家の不信が募る。

 

 と、本当はぶっちゃけたいのだが、ここは角が立たないように、優しく言ったつもりだ。


「ぬぬ、だが我らは何度も体を張ったではないか。バロシュ軍の足止めもしたし、先の戦でも死力を尽くした。松永殿にそう思われるのは心外だ!」


 立場が悪くなったら切れるとか、子供かお前は。


「いえいえ、もちろんアキモフ家の働きは評価しています。その結果、こうして加増してるじゃないですか。しかし、周囲はロマノフ家と比べると見劣りする、と口うるさく言うのです。そのため、今回はアキモフ家に手柄を立ててもらい、外野の騒音を掻き消して欲しいのですよ。これは友であるボリス殿へ対する、私からのお願いなのです。聞いてくださいますね」


 ここまで、ボリスを立てたお願いをして断れれたら、あれを見せるしかないな。

 そうはさせないでくれよ。


「ぬぬぬ、わかった、松永殿がここまでいうのなら断れまい。ただし、バレス殿かナターリャ殿に加え、どちらかの手勢を貸してくれ、さすればその願いを飲もう」


 ……こいつやる気ないだろ。

 バレスかナターリャさんに押し付けて、自分はおいしいところだけかっぱらう気だな。

 こいつには、最後通告しかない。

 これで駄目なら、粛清だ。


「いい加減にしてくれ。これを見ろ」


 俺は、段蔵がメモした、他家との会話の内容が書かれた紙を、ボリスへ見せる。


「なんだこれは……、ななっ」


 彼は、俺から受け取った紙に目を通すと、顔が真っ青になり、ブルブルと震えながら、冷や汗がだくだく流れ落ちる。

 

「まっ、松永殿っ、これは違う!」


 必死に取り繕うが、もう遅い。


「ピアジンスキー家・ドン家・ホフマン家・そして教会。随分とお友達が多いんだな、ボリスさんは」


 俺はなんでも分かってるんだぞ、という風ないい笑顔でボリスへ近づく。

 

「これは嘘だ。嵌められたんだよ。私が松永殿を裏切るわけないじゃないか!」

「それは分かってます。ただ、浮気性な女とは別れたほうがいいですよね。でも、俺は女には優しいつもりです」

「な……、なんだ?」

「ボリスさん、許して欲しければ、死力を尽くしてピアジンスキー軍と戦い、自身の正しさ、そして松永家への忠誠を示して下さい。でなければ……分かりますね」


 俺はさらにいい笑顔をボリスへ向ける。


「分かった! やる、やるよ。やらせて下さい!」


 彼は、ここで断れば殺されると思ったのは、半泣きで懇願してきた。


「ならば、お願いします。もし何かあれば、いつでも後ろにいますから、安心してください。そして、段蔵を護衛につけましょう」


 不穏な動きをすれば、後ろからグサリ。

 と同時に段蔵が、ボリスの首を刈るということだ。


「うん、うん」


 彼は、ただただ首を振り続けている。

 

「では、退出して結構です。作戦はこのあとの軍議でお伝えします」

「ボリス様、こちらへ」


 固まっているボリスを、ジュンケーが天幕の外へと連れていった。

 ひとまずボリスについては、これでよしとしよう。


 俺も甘いかもしれん。

 ただこいつも一応は身内、裏切ったわけではないので、チャンスは与えてやろう。

 これでボリスが心を入れ替えるならば良し。

 今後も、他家と接触するならば、問答無用で粛清だ。

 だが、忠誠を誓い戦うならば、助けてやるとしよう。

 さて、どうなるだろうか。

 全てはあいつ次第だ。

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