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第百八話 人材登用 

 大和元年一月三十日


 あれから、才蔵ら新規加入の忍びたちには、すでに任務に就いてもらっている。

 ピアジンスキー家への諜報活動が中心だ。

 

 また、ザマー盗賊団についてもコンタクトを取り、近日会談を設ける運びとなった。

 

 そして、遂に昨日、エゴールとマリアの結婚式が執り行われた。

 もちろん俺も出席し、二人の門出を祝ってやった。

 

 また式の最中で、エゴールがマリアに口付けする際の狼狽っぷりたるや最高だった。

 思わず、ぷぷぷ、とふき出しそうになっちまっぜ。

 ただ、これでロマノフ家とは婚姻関係になれた。

 松永家とロマノフ家との結束力は、磐石に近くなったといえるだろう。

 

 それと式の最中で、ツツーイ家からぜひ会って欲しいという人物を紹介された。

 なんでも一族の男児で、齢七にして、計算や読み書きが大人顔負けのレベルらしい。

 よかったら、俺の側仕えとして、教育して欲しいそうだ。


 ふむ、ビアンカが妊娠して雑用をこなす者がいないので、小姓を受け入れるのは丁度よいかもしれん。


 結婚式の翌日、俺は正式にその男児と顔合わせをすることになる。

 そして現在、執務室で雑務をこなしながら、その子の来訪を待っているところだ。

 

 三十分後。 

 扉がノックされる。

 ご到着のようだ。

 

「入れ」

「……失礼します」


 カチャ、と遠慮気味に開かれた扉の隙間から入ってきたのは、坊主頭の童だ。

 まるで一休さんみたいだな。


 俺が童のほうへ体を向けると、彼は姿勢を正し自己紹介を始める。


「初めまして秀雄様。僕はジュンケー=ツツーイと申します。ツツーイ家当主の孫になります」


 ジュンケーね。

 なるほどなるほど。

 偶然ってあるよね。

 松永にジュンケー、この世界では仲良くやろう。

 

「君がツツーイで噂の童か」

「一応、そう言われてます……」

「ふむ。いきなりで悪いが、早速試させてもらうぞ」


 俺は、ノブユキの採用面接のように、計算問題を出すことにした。

 また、それに加え、近辺の情勢についての解説も求めた。


 十分後。


「――となります。どうでしたか?」


 ジュンケーは、俺が出した質問に、ほとんど満足のいく回答をした。

 七歳にして、ここまでできるとは驚きだ。

 俺とコンチンの下で鍛えてやれば、この子は、将来松永家を支える一員となるだろう。


「いいぞ、いいぞ。これから俺の小姓として仕えよ。親父には俺から話をしておく」

「ほうとうですか! やったー! ありがとうございます!」

「うむ、とりあえず、お前に部屋を宛がうから、用意ができ次第ここへこい」

「はいっ!」


 ジュンケーは嬉しそうに一礼すると、トタトタと部屋から出ていった。


 

---



 大和元年一月三十一日


 本日、第二回目の採用面接を開催した。

 参加者は前回を大幅に上回り、百を優に超えた。

 ウラールを統一した効果が現れたのだろう。

 

 今回はこのなかから内政官を中心に採用をした。

 その数二十人。

 政治力でいったら、並程度。

 わざわざ高めの給金を支払ってまで、採用するかは疑問が残るが、背に腹は代えられない。

 もちろんリリに人となりを、コンチンや三太夫にその人物の背後関係を洗わせてからの採用である。


 それ以外には、亜人領域からきた鬼族・鰐族・熊族の若者たちを各十人ずつ、計三十人を登用した。

 彼らは、ノブユキとの交渉がまとまるのを待ちきれず、採用面接があることを聞きつけ、前乗りしてきたらしい。

 気合が入っていて、よろしいことだ。

 戦力になるのは間違いないので、もちろん即採用である。


 あとは兎族を五人採用した。

 全員コンパニオン用だ。

 兎族には、回復魔法を使える衛生兵を希望しているが、そちらはまだ人数を調整している段階だ。


 採用は以上になる。 

 これで、内政官不足もそれなりに解消されるだろう。

 

 今回の一括採用で、支出することになる人件費は、年間で金貨八千枚になった。

 結構な金額である。

 ちなみに、現在の松永家の金庫には金貨八万枚近くはあるので、まだ金に余裕はある。  

 もちろん、これは予算を差し引いたあとの金額だ。


 それに加え、今年からは家臣と従属勢力から、上納金として税収の五パーセントを頂くことになった。

 金貨でいうと、一万枚ほど。

 悪くない額だ。

 

 上納金の割合は、将来的にもこの程度で抑えたい。

 家臣から金を取り上げるのは気が引けるが、主従関係を明確にする必要はある。

 五パーセントなら、支払う側もそれほど負担にはならないだろうし、適切なはずだ。

 その金を人材登用に回すので、まだ人件費として使える金はある。


 採用面接についての概要はこんな感じだ。

 


---



 大和元年二月十日


 イベント目白押しの一月を終え、ようやく落ち着くことができた。

 懐妊した嫁たちの見舞いにも、ちょくちょく顔を出せそうだ。

 また、夜のペースも落ち、腰痛も解消された。

 これで体調をととのえて次回の作戦に望むことができる。


 さて、現在ピアジンスキー家を中心とした諜報活動はどうなっているか。

 昨日、三太夫より報告が入ったのでまとめてみよう。


 まずは、『埋伏の毒』として潜入させているバロシュ一族について。

 彼らは現在、ダミアン=ピアジンスキーから三百石を拝領され、厚遇を受けているそうだ。

 そこまでされたらミイラ取りがミイラになるかも、と思い三太夫にその点を聞いてみた。

 三太夫が言うには、今のところは問題ないとのことだ。

 しっかりと、ピアジンスキー家の内情を、定期的に報告しているらしい。

 ミラノ=バロシュという人質の効果か、松永家とピジンスキー家を天秤にかけた上での判断かどうかは分からないが、こちらの命に従っているようなので一安心だ。


 次は寝返り工作。

 ピアジンスキー連合内で不満をもつものは、クリコフ家の末端騎士に複数いるらしい。

 彼らは、松永家との戦により手痛い被害を被った騎馬隊の一員だ。

 騎馬を失い、人も失った。

 しかし、ピアジンスキー家からの補償は、本家のクリコフ家が優先的に受け取った。

 そのため、彼らのような知行地が百石に満たない末端の騎士には、満足のいく補償が行き届いていないそうだ。


 すでに彼らには、松永家から接触を図っており、色気を見せている騎士も何人かいる。  

 またクリコフ本家にも、接触を企てたが、そこはダミアン=ピアジンスキーが上手くとりなしたようで、今のところ寝返る気配は見せていない。

 

 そして、ヴィージンガー家、アラバ家にも忍を送っている。

 アラバ家については、これまでホフマン家の押さえとして、松永家との戦には参加していないので、寝返る気配は全くない。

 ドン家という後ろ盾が、背後に控えているのだから、なおさらである。

 一方ヴィージンガー家においては、一定の成果がみられた。

 クリコフ家との領境に近い位置にある、騎士連中が松永家との接触に色気を見せている。

 その騎士たちは、ガチンスキー領攻略戦で援軍として送られた騎兵で、エゴールとバレスにより多大な被害を受けた。

 彼らも、先と同様に満足のいく補償がないためか、金貨をちらつかせたら、いい反応が返ってきたらしい。


 ピアジンスキー連合も度重なる負け戦で、余裕がなくなってきているのか。

 逆に松永家は連戦連勝で、領地は増え、敵が溜め込んでいた金貨も奪取し、それを家臣の満遍なく振り分けているので不平不満が出るはずがない。

 問題はボリスくらいだ。

 奴には一万石分の働きはしてもらわないと、家中から不満が噴出してくるだろう。  


 寝返り工作はこんな感じだ。


 またそれ以外にも、まだまだやれることはある。

 現在敵領には、忍を二十人近く常に潜入させている。

 その内、寝返り工作には十人を割いている。

 残りの十人は、半分が情報収集で、もう半分が、流言・破壊活動に勤しんでいる。

 具体的には、松永家の税金は安いとか、ピアジンスキー軍は先の戦で松永軍にボコボコにされたなどの流言や、警備の薄い麦蔵を焼いたりしている。

 どれくらいの効果があるかは分からないが、敵も頭を痛めることだろう。

 

 ここまでの諜報活動の成果を考えると、次はクリコフ家から切り崩すのがベターだな。

 徐々に鎧を削ぎ取り、ピアジンスキー家を丸裸にさせよう。


 さて、これから俺はザマー盗賊団との会談がある。

 思想信条が合うので、こちらからコントクトを取った。

 場所は旧ガチンスキー領。

 そろそろ出るとしよう。

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