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第百三話 エロシン家の最後 三国同盟と会談①

 翌日、すでにエミーリアは、領都マツナガグラードを出た。

 エロシン家とバロシュ家の一族を引き連れてだ。


 バロシュ一族には、ミラノが色々と吹き込んでいたようだ。

 彼らが上手くスパイとして作用すればいいのだが……。


 定期的に三太夫たちを送り、監視しないとな。

 金も与えてやり、気持ちが動かないようにせねばならない。

 

 また、エロシン家の一族についても、『埋伏の毒』させることも考えたが、バシーリエの人望の無さと、家臣のエロシン家へ対する恨みを考えると、やめておいたほうが無難だろう。

 かえって、混乱を招きかねない。

 彼には悪いが、これから死んでもらおう。


 ということで、俺はバシーリエをぶち込んでいる牢へと向う。

 

「よう、久しぶりだな」


 すると、そこには数日前とは異なる様子の少年がいた。

 随分やせたな。


「松永! お願い! 僕を助けて! なんでもするから!」


 少年は、俺の姿を認めるなり、最後と思ってか必死に命乞いをする。

 無理だ。

 これまで好き勝手やってきたのだから、受け入れなさい。

 

 俺は、好き勝手やっても、絶対受け入れないけどね。 

 

「出せ」

「ははっ」


 バシーリエを一瞥したたけで、看守にそう告げる。


「まっでー、おでがいぢますー」


 気分は良くないが、俺が責任をもって終わらせよう。

 自分が始めた戦だからな。


 バシーリエを、処刑部屋へと入れさせる。

 衆目に晒すことも考えはしたが、ならばミラノはどうした、となるので秘密裏に処刑することにした。

 

「入れろ」

「ははっ」


 看守は、泣き叫ぶバシーリエの背中を蹴飛ばす。


「いだぁ!」


 なんか可哀相になってきたが、止めるわけにはいかない。

 苦しまないように殺してやろう。


「目を瞑ってろ」


 俺は、バシーリエの首根っこを掴みあげ、一気にへし折る。


「グェ」


 ゴキッと音とたてた瞬間、奴は白目を剥く。

 苦しまないよう、それからすぐに、炎を付与させた剣で首を切断した。

 

「あとは頼んだ。丁重に葬ってやれ」


 俺は看守に金貨を数枚握らせる。


「ははっ!」


 これでエロシン家との因縁にも決着が付いたわけだ。

 ロジオンや他の一族は健在だが、奴らに兵を与える者はいないだろう。

 またエロシン家には、七難八苦を受け入れるお人もいないだろう。

 これでお終いだ。


「汚れちまったな。風呂に入ろう」


 顔に付いた返り血を拭いながら、俺は牢をあとにした。

 


---



 そして、一週間が経過した。

 もう少ししたら年も明け、新たな元号『大和』が始まる。


 だがその前にするべきことが一つある。


 それは、シュトッカー家を中心とする三国同盟との交渉だ。


 あれからすぐにコンチンが使者として赴き、三家の当主との会談を開催することに成功した。

 彼曰く、あまりにもすんなり決まったので驚いた、とのことだ。

 三国同盟側も、ドン家とピアジンスキー家が結んだことで、危機感を覚えているのだろう。  

 

 また、年が明けたらすぐに、亜人領域の各種族の代表との交渉がある。

 これについては、ノブユキの尽力により、早くも会談を行うことが決まった。

 すでに松永家の名は、亜人領域内でも知れ渡っているので、こちらもすんなりと決まった。


 さらに一月下旬には、エゴールの結婚式も予定されており、イベントが目白押しである。

  

 俺は、これから明後日に控えている三国同盟との会談に向け、領都を出発する予定だ。 


 コンコン、と扉が叩かれた。

 ビアンカだろう。


「入れ」

「失礼します。そろそろ、出立の時刻になります」

「ああ、丁度準備も終わったので、今から行くよ」


 ビアンカは、すでに旅装に着替えていた。

 俺も今しがた、着替え終えたところなので丁度いい。


 二人は部屋を出て階段を下りる。

 途中でリリを頭に乗せて、大手門前へと足を運ぶ。

 

「待たせたな。では行こう」


 そこで、コンチンら護衛の兵たちと合流し、マツナガグラードを離れた。


 

---



 二日後、一行は会談場所であるチュルノフ領とコラー領の境にある、ジャンベルク村へと到着していた。


 チュルノフ領内の案内は、パトリクが老齢のため、ウラディミーラにしてもらう。

 彼以外のチュルノフ一族には、成人男子がいないので、ウラディミーラしか適任者がいないのだ。

 

 チュルノフ家で思い出したが、来週に第一回目のお見合いパーティーを開催する予定だ。

 こちらからは、エゴールやヒョードルにボリバルなど、生きのいい若者を取り揃えた。

 俺は参加しないが、上手くカップル成立といけばめでたいことだ。


 そして、会議前日にジャンベルク村へと到着し、一夜を過ごす。

 明けて翌日、


「さて、あちらさんは到着したかな」


 俺たちは、三国同盟の当主らの到着を待っている。


「ウルフによると、あと三十分ほどで到着するようです」


 と、コンチンが答える。


 大鷹族の加入により、偵察任務は彼らに任せられるようになった。

 これで、忍を本来の諜報活動に使え、助かっている。

 飛行ユニットさまさまだ。


「あと少しだな。着いたら知らせてくれ」

「わかりました」


 コンチンは、ビアンカに俺の世話を任せ、退出した。


 俺は目を瞑り、楽にする。

 ここのところ立て続けに嫁の相手をしているので、腰が痛い。

 そろそろ、誰かが妊娠してくれないかしら。


「秀雄様、耳かきしましょうか?」

「うん、頼む」


 持参したソファーに寝転がりながら、ビアンカの膝の上で休む。

 

 そして、三十分後、三国同盟の面々が到着したようだ。


「では行くか」


 俺は、ビアンカの膝から顔を上げ、到着を知らせにきたコンチンを引き連れて、会場の集会所へと足を運ぶ。

 何もない粗末な建物だが、用が足せれば十分、と考えているので特に気にはしない。


 俺は、先に集会所の前に立ち、三家の当主を出迎える。

 第一印象は大事だからな。


「始めまして。私が松永秀雄です。三家の御当主方には、遠路からのご足労感謝します」


「あなたが松永殿ですかい。わいは、カールいうもんです。これでも一応シュトッカー家の長なんですわ。んで後ろの二人が、コラー家のイアンに、ミュラー家のゲオルクでありやす」

「イアン=コラーです」

「ゲオルク=ミュラーだ」


 個性的な男が挨拶をすると、それに後ろの二人も続く。

 カールが三十代の男盛りで、イアンのゲオルグが二十代後半だろうか。


「では御三方、中へお入りを」


 俺は三人を会場へと案内する。

 全員が席に着くのを確認し、それから少し茶を振る舞い、間を置いてから本題を切り出す。


「そろそろ話を始めましょう。おおよそは、こちらのコンチンより伺っているはず。松永家は、三家との同盟を希望する」


 俺は、単刀直入に言う。

 別に勿体つけることでもない。


「ははは、松永殿は正直なお人ですなー。わいは嫌いじゃないですぜ。ぜひこちらからも、お願いしたいくらいですわ」


 なんかフレンドリーだな。

 逆に、ここまでさくさく進むと裏があると、つい勘ぐってしまう。

 

「それは嬉しいのだが、俺は、先にドン家と話をしたんだぞ。あなた方も気分を良くないだろうに。何か条件でもあるんじゃないか」

「まあ、ドン家はでかいからねえ。逆にうちらは、三家で固まっても、こんなもんたからなあ。でも、今までそれでなんとかなっていたんだ。こっちからも積極的に行動する必要はなかったんよ」


 三家は、積極的に領土を拡張する感じではなかったらしい、

 平穏に過ごせればと思っていたようだ。


「しかし、事情が変わったと?」

「ええ、松永殿がウラールを統一してな。それでドン家が、ピアジンスキー家、さらにはホフマン家とも同盟なんてことになりやしたら、我らは窮地に立たされますからな。なんで、ぜひ松永殿と結び、安全を確保したいんですわ。確かに後回しにされたのは、いい気分じゃねえが、わいが松永殿の立場でもそうしやす。なんで、気にするこたぁないですよ」

 

 ふむ、カールのいうことに、特に不自然な点は見当たらない。

 信頼してもよさそうだ。

 段蔵調べでは、亜人差別も無いらしいので、ここは彼らの好意を素直に受け止めよう。


「なるほど。カールさんの言うことはもっともだ。だか、一つ確認するぞ。当家は、亜人に対する差別は無い。なので、将来亜人排斥を訴える教会と、敵対することが予想される。その覚悟があるかい?」

「それなんですか……、実はわいの嫁はんも、松永殿のように亜人の鬼族なんですわ。外には人族といってますがね。でも教会にはばれてますわ。地理的な要因で今は助かってますが、今後どうなるかは分かりやせん。なんで、その点でも松永殿と組みたいんですわ」


 カールおじさんも同士だったのか。

 ならこれ以上の言葉はいらんな。

 

「カールさん、それにイアンさんにゲオルグさん、末永くお付き合いしていきましょう」


「おお、よろしく頼んます!」

「こちらこそお願いします」

「ああ、望むところだ」


 俺が差し出した手を、三人が強く握り返してくれた。

 やった、簡単に同盟成立。

 まあ周辺の情勢を加味すれば、ここまで思想・信条が合えばくっつかないわけないか。


 地域を統一したことによる名声上昇が、早くも効果を表したな。

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