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混沌なる迷宮の王  作者: しいなみずき
Fランク迷宮
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迷宮レベル10 思考

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ありがとうございます!



 薄暗い石造りの非常に簡素な部屋の中に、男が一人いる。男はその部屋にある唯一の家具、ベッドに腰掛けて一人唸っていた。

 男の名前はフィラデルフィア。この部屋を中心として広がる迷宮の主である。

 フィルは現在今後の迷宮の発展の方向性について悩んでいた。その悩みは、フィルがここに召喚された日のものに比べれば非常に贅沢な悩みだろう。しかし本人からすればそんなことはどうでもいい。それによって自分自身の命運がかかっているのだから重要度は結局変わらないのだ。


 ゴードンとジェイクと呼びあっていた二人の冒険者を、第一層守護者が始末してから一週間が過ぎた。

 その間にこの迷宮を訪れたのは、まず五人組の冒険者達。

 この五人を生きて迷宮から出さなかったことに関しては幸運としか云いようがないだろう。

 五人組の冒険者パーティーがこの迷宮に入る少し前、フィルは迷宮核を通じて『罠』から『モンスターハウス』を迷宮内に仕掛けていた。

そして結果的に、偶然その部屋に立ち入った五人組を葬むることが出来たのだ。

 ただこの五人組のパーティーの中にいたバルスターと呼ばれていた金髪の男が『スキル』を所持していたことに、フィルは内心非常に焦ったものだ。


 『スキル』とは神から与えられた才能のこと。世の中にはありとあらゆる種類の『スキル』がある。極少数しか使えない『スキル』もあれば、大多数が使える『スキル』もある。

 もちろん神とは建前で何故使えるのかはよく分かっていない。

 

 バルスターが持っていた『スキル』は『罠感知』だ。このスキルは大多数が持つことが出来るスキルに分類される。

 スキルは努力よりも運の要素によって使えるようになるものが多い。スキル『罠感知』も基本的に使えるようになれるかは運に左右される。そのため冒険者でない一般人でもこのスキルを持つ者もいる。

 ただし基本的には、だ。理由は不明だが冒険者の、特に上位の者ほど使えるようになる確率が上がる。

 スキルが使える者はほとんどの者が自覚している。直感的に理解するのだ。

 またスキルは完璧ではない。バルスターのように油断していたことにより直前まで気が付かないことあるし、高ランクの感知出来ない罠もある。

 ただし、スキルは成長する。例えばスキル『罠感知』が成長すれば高度な罠でも感知は可能になり、範囲も広がってくる。

スキルにより成長する法則や早さは異なるが大体のスキルは使えば使うほど成長する。もちろん個人差はあるのだが。


 多くの冒険者達が持つ比較的簡単に入手出来るスキルとして、有名かつ重要なスキルがある。

『迷宮感知』と呼ばれるスキルだ。そしてこのスキルがある故に、フィルは現状外に出ることが出来ない。

 『迷宮感知』は迷宮及び迷宮核の魔力を感知するスキルであり、もしもフィルが外出でもすればこれに引っ掛かり、簡単に正体がバレるだろう。

 また極稀に、その人物しか使うことの出来ない特殊なスキル(・・・・・・)も存在する。


 罠によって始末したパーティだが、ゴードンとジェイクを倒して蓄えた魔力はその日の内にほぼ使い果たしたはず。なのに何故罠を創れたのか。それには迷宮核の持つ魔力の自然回復機能が大きく関係している。

 

 性質として、迷宮核は自動的に周囲の魔力を吸収し自らにその魔力を蓄えることが可能だ。

 ただしこの自然回復はフィルの迷宮核のように――フィルの場合は強制的に肉体及び精神と結合したため――魔力が極僅かな状態のものにはあまり意味をなさない。

迷宮核の個体さにもよるが、蓄積した魔力がある一定の量よりも少なくなった場合、早いもので数日、遅くとも数週間で迷宮の維持が不可能となり、その迷宮核と迷宮は崩壊する。

 また、魔力が少なくなりすぎると防衛本能(・・・・)により、迷宮核自体が縮小し崩壊を防ごうとする。これがフィルと結合した時に小さくなっていた理由だ。


 話が逸れたが、つまりフィルは五人組の冒険者パーティーが来るまでの三日間で蓄えた魔力で罠を造り出したのだ。あのパーティーを始末出来た時は嬉しさのあまり少し興奮してしまったがそれは思い出さないようにしている。

 そして次の侵入者が来たのはこのすぐ後だ。三人組のパーティーだったがホブコブリンに手こずり、逃げた挙げ句守護者によってなぶり殺しにされていたが。

 結果フィルの迷宮核には、余裕があるわけではないが階層を増やせるほどの魔力が蓄積されている。これに関してフィルは、五人組のパーティーにいたアイシャと呼ばれていた少女が関係しているのだろうな、と推測している。


 一組目、二組目といい、なかなかの強運を持っているフィルではあるが、しかしその幸運はそう長くは通じないだろう。人が死んだのだ。もちろん死と隣り合わせの危険な職業ではあるのだが、それでもこう立て続けに全滅させていてはギルドが動くかもしれない。

 そうなってくると不味い。守護区域まで創ってしまっているのだ。それが知れればフィルでもその後どうなるのか検討がつかない。

 驚異と判断され潰されるか。

 迷宮を攻略し自分を生け捕りにし実験されるか。

あまり想像したくはないものだ。


 そしてその最悪の想像を避けるためフィルが考えているのは、当然と云うべきか、魔力の運用方法である。

 これだけ大量の魔力があると運用方法は始めのときよりも相当に増えてくる。

 まず始めに考えなければならないのは迷宮の階層を増やすかどうか。

迷宮の階層を増やせばもう魔力残量が幾ら少なくなろうとも、拡張した層に与えた魔力が残るため、新生だと認識されることはなくなり、はれてEランク迷宮となる。もちろんこれは冒険者達の作った区分けのようなものであり迷宮自体にそのようなランクは無いのだが、あながちその区分けは外れている訳でもないのだが。


 迷宮の階層を増やすメリットとして大雑把に五つある。

 まず一つ目が、外から怪しまれることが無くなることだろう。

これによりフィルは迷宮核の魔力残量を特に気にすることなく――元々大して気にしてはいないが――使えるようになる。


 二つ目は安全性の向上だ。階層が増えればその分最深部まで辿り着く可能性も減るだろう。それにこの迷宮の構造は迷路型だ。守護地区も合わせて、この迷宮の安全性だけで云えば他のEランク迷宮よりも遥かに高いといえる。


 三つ目は階層拡張によって増える、四層と五層

に生み出す魔物の能力値を増加させる。

増加と云っても劇的に変わるわけではないがそれでも冒険者から見ればなかなかに質が悪いと感じるはずだ。場合によってはそれが生死を分けることもあるだろう。


 四つ目は魔力の自然回復する魔力量が増加すること。これによりこれまで以上に迷宮拡張、防衛能力の向上が出来る。迷宮を拡張すると云っても、ただ魔力を迷宮に与えて階層を増やすだけではない。元々迷宮核は迷宮をも通じて魔力を吸収している。それにより自然回復する魔力の量が増えるのだ。


 五つ目は生み出せる魔物の種類を増やせること。これは階層を増やすと同時に迷宮の構造自体が僅か変化するからだ。いや、変化よりも迷宮の維持を抑えるために敢えて封印していたものを使用出来るようにする、と云ったところだろう。

これはフィルからすれば非常に助かるものだ。どの魔物が解禁されるのか実際フィルにも分からないが、もしもオーガ以上の魔物が選択可能になれば守護者の強化ができ防衛力も上がるも云うもの。


 デメリットの方は二つほど。

 一つ目は冒険者達から見とEランク迷宮が突如として出現したように見えることだ。

 しかしEランク迷宮が突如出現することは自然でも大して珍しいことではない。それについては特に

問題ないはずだ。

 二つ目は、拡張によって必然的に大量の魔力が無くなってしまうこと。

これは現状魔力が崩壊などし得ないほどの安全な量

を保っているが故に、わざわざリスクを負ってまで迷宮を強化する必要があるのだろうか? と、そのような思考に陥るのは仕方ないことだろう。

リスクを負ってまだ強化した挙げ句誰も来ませんでした、ではお話にならない。


 以上のメリット、デメリットをフィルは吟味した結果フィルは――


「階層を増やす、か」


 ――決断した。





 結果的に生み出せることが出来るようになった魔物は三体。

『スライム』、『スケルトン』、そして『トロール』。


「スライム、スケルトンは置いておくとして……トロールが使えるようになったのは運がいい。

これがもし私のいない普通の迷宮なら宝の持ち腐れになるところだったが」


 冒険者達にとってトロールとは非常に恐ろしい相手だ。

 オーガを悠に超す三メートルクラスの巨躯と、その体格からは想像も出来ないほどの身体能力、そしてこの魔物が保有する特殊な能力が理由だ。

 更にブラッドウルフを超える迷宮徘徊速度と一度見つければ侵入者の臭いや音で見つけ出し追跡するこの魔物はEランク迷宮には規格外過ぎるものだろう。


 この迷宮はフィルがいること以外は普通の迷宮だ。迷路型の迷宮など他にも山ほどある。

 その迷宮でトロールが生み出せるのだから他のEランク迷宮でも生み出せるようになっている所もあるはずだ。

 しかしEランク迷宮でトロールと遭遇した例は確認されていない。

 その理由は、Eランク迷宮で生み出すには消費が多すぎるからだ。たった一体生み出すだけでランク一のオーガ二十五体分に相当する。

 これでは基本的に数を重視する通常の低ランク迷宮ではまず生み出すことはない。


「トロールは守護者よりも迷宮に放った方が効率が良さそうだな。取り敢えず一層に生み出しておくか」


 これにより現在一層にはゴブリンが三十二体、ブラッドウルフが二十四体、ホブゴブリンが八体、オーガが二体、トロールが一体となった。

 

 




アドバイスありがとうございます!


今後も感想、アド等いただけると嬉しいです

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