第6話「幻術の檻と聖なる覚醒」
──帝国地下、封印の間。
クロード・ヴァレンティアは、古代魔導書を前に静かに魔法陣を描いていた。
その指先は迷いなく、禁忌の術式をなぞる。
「転生者を“元の世界”へ引き戻す……《幻界返還術》。精神を揺さぶり、現実との接点を断ち切る」
彼の瞳は冷たく、そして焦燥に満ちていた。
「レオン・リュミエール。君はこの世界に不要だ。セレナの心を乱す異物……ならば、消えてもらう」
魔法陣が淡く光り、術式が発動された。
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その瞬間、レオンは激しい頭痛に襲われた。
視界が歪み、意識が遠のいていく。
──気づけば、彼は“現代日本”の街に立っていた。
「……ここは……俺の世界?」
人々がスマホを見ながら歩き、電車が走り、空には高層ビル。
懐かしく、そしてどこか空虚な風景。
「戻ってきた……のか?」
だが、何かが違う。
周囲の人々は誰も彼に気づかず、声も届かない。
まるで“幽霊”のように、彼は世界に存在していなかった。
「これは……幻術だ。クロードの仕業か」
意識を取り戻そうとするが、幻は強く、記憶を引きずり戻そうとする。
──講義室。
──教授の声。
──事故の瞬間。
「……やめろ……俺は、もう戻らない……!」
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その頃、セレナはレオンの異変に気づき、彼の部屋へと駆け込んだ。
ベッドの上で苦しげにうなされるレオン。
彼の魔力は乱れ、体からは異質な気配が漏れ出していた。
「レオン……!」
セレナは彼の手を握り、魔力を流し込む。
だが、幻術の力は強く、彼女の魔力では届かない。
「お願い……戻ってきて。あなたは、私の世界に必要な人なの」
その言葉に、セレナの魔力が共鳴し始めた。
彼女の感情が、魔力に乗ってレオンの精神へと届く。
──そして、レオンの体内で何かが“弾けた”。
光が溢れ、幻術の世界が揺らぎ始める。
「……これは……聖魔法……?」
レオンの体から、柔らかな光が放たれた。
それは、幻術を打ち破る“聖なる力”——純粋な意志と絆によって発現する魔法だった。
「——聖光ルミナス・ブレイク!」
幻の世界が砕け散り、レオンは目を覚ました。
目の前には、涙を浮かべたセレナがいた。
「……君の声が、届いた。俺は……帰らない。ここが、俺の世界だ」
セレナはそっと彼に抱きついた。
「ありがとう……戻ってきてくれて」
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その頃、クロードは魔導陣の崩壊を見つめていた。
「聖魔法……まさか、あの男が覚醒するとは」
彼は拳を握りしめ、静かに呟いた。
「ならば、次は“この世界そのもの”を揺らしてやる。絆など、幻想だと証明するために」




