第29話「王妃の恐怖、世界に拡散」
──ヴェルガルド領都・黒鋼工廠、崩壊直後。
施設の術式中枢が破壊され、人格抽出術式は逆流。
術師たちは記憶混乱に陥り、錯乱状態で自我を失っていく。
セレナはレオンを抱えながら、瓦礫の中を進む。
「もう大丈夫。あなたを奪ったものは、すべて焼き払った」
レオンは弱々しく笑う。
「君が怒った世界は……誰も忘れないだろうな」
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──帝国艦隊・通信制御室。
セレナは術式衛星《アストリアの瞳》を起動。
敵国首都の焦土化、黒鋼工廠の崩壊、術師たちの錯乱——
それらの映像を、世界各国の魔導通信網に強制送信する。
「帝国は、奪われた者を取り戻す。
次に奪う者には、言葉は与えない。
ただ、焼き尽くす」
副官が震えながら報告する。
「世界各国、受信完了。各議会が緊急招集を開始しています」
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──各国・魔導議会。
- 北方連合:「帝国は交渉を超えた。あれは“災厄”だ」
-南海同盟:「セレナ・アストリア……あの名は、外交文書ではなく戒めとして記録すべき」
-西方神聖国:「彼女を怒らせるな。それが、我々の新しい外交方針だ」
セレナの名は、もはや王妃ではない。
“災厄の剣”として、世界の秩序に刻まれる。
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──帝国帰還・王宮前。
セレナとレオンは帰還。
民衆は歓声を上げるが、セレナは演説を行わない。
代わりに、王宮塔から魔導波が発信される。
> 「帝国は、誰かの命を交渉材料にはしない。
> 奪われた者は、取り返す。
> それが、私の誇りであり、怒りであり、愛です」
レオンは彼女の隣に立ち、静かに言う。
「君の怒りは、世界を変えた。
でも俺にとっては、ただの“君らしさ”だよ」




