第25話「境界の夜、奪われた王」
──帝都グランゼル、廃塔屋上。
夜の空に、黒い影が浮かんでいた。
ヴェルガルドの空挺艇。
その船体には、拘束されたレオンの姿があった。
「帝国の王子殿下は、我々が預かる。交渉の場は、ヴェルガルド領都にて」
黒衛士隊長ライサは、冷たく告げると、空挺艇を上昇させた。
セレナは屋上に駆け上がり、手を伸ばす。
だが、距離は届かない。
「レオン——!」
彼女の声は、夜風にかき消された。
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──王宮会議室。
帝国中枢は騒然としていた。
レオンの誘拐は、帝国の象徴を奪われたに等しい。
だが、敵国は「交渉の余地あり」と言い残している。
「交渉に応じるべきか、武力で奪還すべきか」
重臣たちが議論を交わす中、セレナは静かに立ち上がった。
「私は、交渉しません。奪われたものは、取り返す。王妃としてではなく、彼の隣にいた者として」
その言葉に、誰も反論できなかった。
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──夜、王宮の中庭。
セレナは一人、空を見上げていた。
レオンが攫われた空。
彼が残した最後の言葉が、耳に残っていた。
> 「セレナ……俺は、君の記憶の中にいる。だから、諦めるな」
彼女は拳を握り、静かに呟いた。
「必ず、取り戻す。あなたの記憶も、あなた自身も」
風が吹き抜ける。
それは、始まりの合図だった。




