第23話「誘拐計画、零距離の罠」
──帝都グランゼル、王宮南棟・避難経路B。
爆裂幻術による騒ぎの中、レオンは護衛と共に避難ルートを進んでいた。
だが、ルートの先にはすでに“魔力遮断煙霧”が展開されていた。
護衛の魔導士たちは術式を封じられ、黒衛士隊が無音で襲いかかる。
「レオン・アストリア、確保」
非致死衝撃矢が放たれ、レオンの膝が崩れる。
彼は意識を保ちながらも、身体が動かせなかった。
「……セレナ……!」
その声は、煙の中に消えた。
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──王宮警備本部。
セレナは異常な煙霧の流れに気づき、即座に現場へ急行。
途中、風の魔導士カイ、弓使いリュナ、剣士ヴァルドが合流する。
「敵は魔力遮断装備を使ってる。魔法は通らない。物理で押すしかない」
「なら、俺が前を割る。リュナ、後方から狙撃。カイは煙を裂け」
セレナは短剣を抜き、王妃としてではなく“戦う者”として地下水路へ突入する。
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──地下水路・旧回廊。
敵は撤退ルートを確保済み。
搬送用の棺にレオンを収容し、転移門へ向かっていた。
だが、セレナたちが追撃を開始。
カイの風圧で煙霧が裂け、リュナの矢が棺の固定具を破壊。
ヴァルドが前衛を押し返し、セレナが棺へと手を伸ばす。
「レオン!」
棺を開ける——だが、そこにいたのは“替え玉”。
本物のレオンは、別ルートで転移門へ向かっていた。
「……くっ、二重搬送か!」
セレナは怒りを噛み殺し、転移門の座標を解析。
だが、門は“片道転送”に設定されていた。
彼女が飛び込もうとした瞬間、門は崩壊を始める。
「レオン——!」
彼女の叫びは、転移の光に飲まれた。
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──王宮外縁・廃塔屋上。
黒衛士の空挺艇が浮上。
その中に、拘束されたレオンの姿があった。
「帝国の象徴は、我々が預かる。交渉の場は、ヴェルガルド領都にて」
セレナは屋上に駆け上がるが、艇はすでに高度を上げていた。
彼女は拳を握り、短く言う。
「空を返してもらう。全部だ」




