第22話「交差する諜報、静かな包囲」
──帝都グランゼル、王宮警備本部。
「魔力反応のない偵察機械が、また一体回収されました。今度は南端の水路沿いです」
セレナは報告書を見つめながら、眉をひそめた。
魔力を持たない機械——それは、魔法を感知できない“対魔装備”の証。
敵は、魔法に頼る帝国の盲点を突こうとしていた。
「……これは、魔導士を相手にしていない。私たちの“感覚”そのものを封じるつもり」
彼女は警備動線の再編を指示し、王宮内の巡回ルートを変更。
同時に、レオンの移動スケジュールを再確認する。
「彼の動線が狙われている可能性がある。護衛を増やしても、動線そのものが罠なら意味がない」
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その頃、王都の商業区では、ヴェルガルドの商隊が静かに活動していた。
だが、その中には“黒衛士”と呼ばれる特殊部隊が紛れていた。
彼らの目的はただ一つ——レオン・アストリアの誘拐。
「目標は、王妃の巡回時間と王子の移動ルートの交差点。魔力遮断装備は展開済み」
隊長ライサは、無表情で指示を飛ばす。
彼女の腕には、“虚環の枷”——魔力を外部に逃がす特殊装備が装着されていた。
「魔法を使わせるな。感覚を封じ、動きを止めろ。王都の空は、我々が奪る」
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夜。
セレナは王宮の南側を歩きながら、風の流れに微細な違和感を感じていた。
空気が重い。魔力の流れが、どこかで遮断されている。
「……風が濁ってる。誰かが“空間”を乱してる」
その瞬間、王宮の中庭で小規模な爆裂幻術が発生。
被害は軽微だが、警備動線が“避難経路B”へと誘導される。
「これは……囮。レオンの動線が、誘導されてる!」
セレナは即座に警備隊長へ連絡を飛ばし、自ら現場へ急行。
だが、そこにはすでに“魔力遮断煙霧”が展開されていた。
「レオン!」
彼女の叫びは、煙に飲まれた。
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その頃、レオンは護衛と共に避難経路を進んでいた。
だが、突如現れた黒衛士により、護衛は分断され、レオンは“非致死衝撃矢”で行動不能に。
「……セレナ……!」
彼の声は、誰にも届かなかった。




