第21話「静かなる外交、忍び寄る影」
──帝都グランゼル、王宮中庭。
帝国再建から数週間。王都はようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
セレナは巡回を終え、王宮に戻ると、レオンが技術顧問としての会議を終えたところだった。
「《ノイズ・ブレイカー》の応用案が出てる。都市防衛用に転用できるかもしれない」
「あなたの理論が、帝国を守る盾になる。誇らしいわ」
レオンは照れたように笑い、セレナの手を取った。
「でも、技術は誰かに奪われる可能性もある。それが怖い」
---
その日、帝国の西方同盟国・ヴェルガルドから使節団が到着した。
宰相アルマンドは冷静な現実主義者として知られ、帝国の復興を祝福すると言いながら、こう切り出した。
「《ノイズ・ブレイカー》の技術、我が国にも共有いただけませんか?
魔核兵器の脅威は、もはや帝国だけの問題ではない」
レオンは慎重に答えた。
「技術は共有すべきだと思っています。ただ、段階的に進めるべきです。安全保障の観点からも」
アルマンドは笑みを浮かべたまま、言葉を残した。
「なるほど。では、我々も“段階的に”対応させていただきましょう」
セレナはその言葉に、冷たい違和感を覚えた。
使節の護衛の一人に、魔力の気配がまったくない。
それは“魔力を持たない者”ではなく、“魔力を遮断する装備”の可能性だった。
---
夜。
王都近郊で、魔力を吸収する“偵察機械”が回収される。
それは魔導ではなく、完全に物理技術で構成された“対魔装備”だった。
「魔力の匂いがしない……これは、魔法を封じるための技術」
セレナは警戒を強め、王宮の警備動線を再編成。
レオンは、技術共有の理想と現実の狭間で悩みながらも、セレナの判断に従った。
「君が守ると言うなら、俺は信じる。俺の理想より、君の直感の方が正しい気がする」
セレナは静かに頷いた。
「あなたは、帝国の希望。だから、誰にも渡さない」
---
だがその夜、王都の空に、誰にも気づかれない“静かな包囲”が始まっていた。
ヴェルガルドの黒衛士隊が、王都の影に潜み始める。
彼らの目的は、レオンの誘拐——帝国の頭脳と象徴を奪うことだった。




