第11話「封印の再発と聖なる誓い」
──帝国王宮、夜。
魔物襲撃から数日が経ち、街はようやく静けさを取り戻しつつあった。
だが、王宮の奥では、誰にも知られずに“もう一つの異変”が進行していた。
セレナの魔力が、再び不安定になり始めていた。
「……また、感情が暴れてる」
彼女は鏡の前で、自分の瞳に映る“氷の揺らぎ”を見つめていた。
感情を解放したことで得た自由——それは同時に、かつて封印された“深層の感情”をも呼び起こしていた。
怒り、恐怖、孤独。
それらが魔力と結びつき、彼女の体内で暴れ始めていた。
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レオンはその異変にすぐ気づいた。
「君の魔力が……共鳴してない。むしろ、君自身を傷つけてる」
「……怖いの。私がまた、誰かを傷つけるんじゃないかって」
彼女の声は震えていた。
レオンはそっと彼女の手を握り、静かに言った。
「君はもう“道具”じゃない。君の魔力は、君の心と共にある。だから、俺が一緒に向き合う」
「でも、もし私が暴走したら……」
「その時は、俺が止める。君を守るためじゃない。君と並ぶために」
その言葉に、セレナの瞳が揺れた。
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その夜、セレナの魔力が暴走した。
王宮の回廊が凍りつき、氷の槍が無数に浮かび上がる。
彼女の意識は混濁し、かつての“氷の皇女”としての人格が表に出ようとしていた。
「……誰にも、触れさせない……」
その声は冷たく、感情を拒絶するものだった。
レオンはすぐに駆けつけ、聖魔法を展開した。
「——聖光結界ルミナス・ヴェイル!」
氷の槍が砕け、セレナの周囲に柔らかな光が広がる。
だが、彼女の魔力は止まらない。
「レオン……近づかないで……!」
「君を一人にはしない!」
レオンは彼女の手を取り、聖魔法の深層へと踏み込んだ。
それは、感情の奥底に直接触れる“心の魔法”だった。
「——聖心術エンパシア!」
光が彼女の胸に届き、封印された感情が一つずつ解けていく。
怒り、悲しみ、孤独——そして、愛。
「……私は……あなたに、触れてほしかった……」
セレナの瞳から涙がこぼれ、氷の魔力が静かに収束していった。
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翌朝、王宮の庭園には、氷と光が混ざり合った美しい花が咲いていた。
「これが……私の魔法?」
「君の心が咲かせたものだよ」
レオンは微笑み、彼女の手を握った。
「君が選んだ感情は、誰かを傷つけるものじゃない。誰かを救う力になる」
セレナは頷き、静かに言った。
「なら、私はこの魔法で、あなたと世界を守る」




