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第10話「心の距離と選び取る未来」

──魔物襲撃から一夜明けた帝都グランゼル。




王宮は静まり返っていた。


広場の修復が進められ、民衆はまだ混乱の余韻に包まれていた。


だが、誰もが知っていた——この帝国を救ったのは、王族でも貴族でもない。


一人の転生者と、一人の“氷の皇女”だった。




「……それが、問題なのだ」




帝国議会では、保守派の貴族たちがざわめいていた。




「聖魔法? 異世界の力など、帝国の根幹を揺るがす」


「皇女殿下が感情に流されている。王族としての自覚が足りない」


「このままでは、帝国の秩序が崩壊する」




その言葉は、セレナの耳にも届いていた。


彼女は玉座の間で一人、静かに魔導書を見つめていた。




「……私は、間違っていたの?」




彼女の心には、王族としての責務と、レオンへの想いがせめぎ合っていた。




---




一方、レオンは王宮の外で民衆の声を聞いていた。




「王子殿下が魔物を退けたんだって」


「皇女様が氷の花を咲かせたらしい」


「二人がいれば、帝国は変われるかもしれない」




その声に、レオンは静かに微笑んだ。


だが、セレナの沈黙が気になっていた。




「……彼女は、今どんな顔をしているんだろう」




彼は玉座の間へと向かった。




---




「セレナ」




レオンの声に、彼女はゆっくりと振り返った。


その瞳には、迷いがあった。




「私は……王族として、あなたを選んでいいのか分からない」




「君は、誰かに選ばれる存在じゃない。君自身が、選ぶんだ」




「でも、選んだ先に帝国が崩れるかもしれない。あなたが異世界の力を持っている限り、私は……」




レオンは一歩近づき、彼女の手を取った。




「俺は、君の隣にいたい。帝国を変えたいんじゃない。君と一緒に、未来を築きたいんだ」




セレナは目を伏せ、そして静かに頷いた。




「……なら、私は“皇女”としてではなく、“セレナ”として、あなたを選ぶ」




その言葉は、彼女自身の“意志”だった。


誰かに決められた運命ではなく、自ら選び取った未来。




二人は静かに抱き合い、広場の鐘が静かに鳴った。




---




その頃、帝国地下の封印の間では、崩れた魔導陣の残骸が静かに脈動していた。


クロードは姿を消し、誰もその行方を知らなかった。




だが、魔物の残滓はまだ完全には消えていなかった。




──物語は、契約から始まった絆が“選択”へと変わる第一章を終え、


新たな試練と覚悟の章へと歩みを進める——。




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