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87.あの人の名前


 「嫌だ」


 『何だと?』


 「嫌です。お爺様から助けます」


 『私の事はよい。せめてデリアを助けてくれれば私はそれでよい』


 「王妃……お祖母様の事はもちろん助けるつもりです。でもお爺様が先です。早く魂を身体に戻さないと」


 『レオンよ、良く聞きなさい。……何度か身体に戻ろうとしたのだが、出来なかったのだ。』


 なるほど、そういう事か……全く問題ないぜ。

 なぜなら俺は『死霊使い』

 ルッカをオーブから出す事も国王をオーブに移すことも出来たんだ。

 それは俺のスキルによるものだ。

 出来る、俺なら出来るんだよ国王様おじいちゃん


 「……大丈夫です。お爺様を元に戻す事は可能です」


 『いや、難しいだろう。この城には禁書として保管していた本があってな、それがせめてもの頼みだったのだがそれも……何者かに既にほどかれてしまっていたのだ』


『頼みになる禁書? ねぇ、おじいちゃん。それってどんな本なのかしら』


『……その本には悪魔の力が封印されていると云われていてな、魂を操つるたぐいの力が込められていると云われている。何百年にも渡って禁書扱いにしていたものだ。幾重にも術をかけてあり、しかもその術を解く事が出来るのは代々国王にしか伝わっていないはずだった。……もうその力は何者かの手に入ってしまったようだがな』


 『へぇー! 魂を操るなんてなんだか最低ね! 私も霊体だからそんな事されたら本当に困っちゃう』


 なんだよ、ルッカ……なんでジト目でこっちを見るんだよ!

 俺、ルッカを操るどころか、出してやったんだけど?!

 しかも……ルッカよ、めっちゃ自由にしてるじゃんか。


 『ふーん。別に意味はないもん』


 『その本を紐解き、私自身の魂を操り……そして身体に戻る事が出来れば……いや、今更だ。私こそが禁書を解いた者にやられたのかもしれんからな……どうかしたか?』


 『ううん! なんでもないの。それよりっていうかそれなら本なんか必要ないわね。多分レオも出来るわよ』


「ルッカの言う通りで……出来ます」


 本の内容はいまいち分からないが、多分死霊使いと似たような力が手に入るってことか。

 スキルなんて使い道でなんとでも出来るし、確かに憎悪しかないような奴が手にしたら危ないよな。

 俺は今のところバカ皇子くらいしか恨む相手いないからなー。


 『それは本当か? まさかお前が禁書を……』


 「違います……最近ルッカを助けようとして、やってみたら出来たというか……お爺様をこうしてオーブへ移す事も出来たし、きっと身体に戻す事も出来ると思います」


 スキルの事は聞かれても困る。

 というか禁書レベルの力を持ってるなんて知られても大丈夫なんだろうかって気がしてきた。

 ルッカ適当にごまかしてくれ。


 『がってん! とにかくおじいちゃん、早く本体に案内してよ』


 強引に持っていったか、本体って……だが助かるぜ。


 『……お前の両親がお前をかくまい続けた理由が、分かった。お前もまた特別な力の持ち主なのだな』


 いえ、ポイントを使って取りました。


 「いえ、兄上と妹君のような力など私にはございません。私だけは役立たずのただの病弱な息子です」


 『水入らずだと言っておろう。レオン、お前が健康な子供だという事は初めて見た時から分かっておったわ』


 「え……」


 『こんなに日焼けして体力の有り余っていそうな病弱な子供がどこにおる』


 「それは……日光浴で……」


 『手には剣ダコ、小さな傷も無数あったな。よほどのやんちゃ坊主なのであろう? その手とその日焼けした肌だけ見れば、まるで貴族にもみえんわい』


 国王様おじいちゃんは潤んだような声でハハハハと笑った。


 『確かに貴族の坊ちゃんっていうか、気ままな道楽息子の方が近いわね』


 おい、俺のどこが気ままなんだよ!

 

 「と、ともかく! 早くお爺様の本体のある場所へ案内して下さい!」


 『えっちょっと! 本体って……』


 「ルッカがさっき言ったからだろ!!!」


 『ハハハハ、まったく……そなたらは仲が良いのだな。分かった、案内しよう』


 談笑はここで終わり。

 俺は再度しっかりとローブを着こむと、ルッカの力でオーブを透化させローブ越しに手に持って歩く。

 国王じいちゃんの霊体は、ルッカの様にどんな状態でも周囲を見渡せる訳ではないらしく仕方なくこの方法を取ったが、落とさない様に気を付けないとな。


 国王の声の指示のもと、暗い通路を延々と進み、とある部屋に入った。


 そこには寝台に眠ったように横たわる国王陛下の姿があった。


 『さ、とっとと戻しましょう』


 おうよ! ってちょっと待て誰か来るぞ。


 無数の数の足音が響くと勢いよく扉が開かれ、呆然とした様なうつろな表情の王妃殿下を支える貴族とそれに続く騎士が数人、国王の眠る部屋へと入って来た。


 鑑定……一番偉そうな細身で長身の奴がヴェンゲロフ公、そしてその配下の者達だ。


 こいつが……ヴェンゲロフ公……なぜだ? なぜか懐かしい感じがする。


 『むかし会った事があるとか?』


 いや、うん……多分前世で……見た事がある気がする。


 『前世で? 何かの縁かしらね』


 いや……外人の知り合いなんているはずないんだけど、なんか知ってるんだよ。

 ちょっと待って思い出すから。


 『時間かかるなら、私……興味ないんだけど』


 いや、ほんともうちょっとだから……

 

 『デリア……? なぜここに? ヴェンゲロフ! デリアを、私をどうするつもりだ!!』


 国王おじいちゃんの叫び声で我に返る。

 何やってんだ俺。


 『本当よ、ちょっと。しっかりして』


 ……くそっ


--------------------------


 『……デリア王妃、もうそろそろお時間です』


 『……ああ……ニコライ……』


 寝台の横に力なく座り、弱々しく国王じいちゃんの額をそっと撫でる王妃ばあちゃん


 『デリア! 私ならここだ』


 ……残念ながら、聞こえていない。


 『デリア様、ご安心を。先ほど申しました様に、国王はこれから神殿へお運びし、祈りを捧げます。きっと……きっと意識を戻される事でしょう』


 なんだって!!!!!!!!!!


 『神殿だと? あ奴……私の事をどうするつもりだ』


 『神殿神殿って……毎回思うけど本当に胡散臭いわ。あらかたおじいちゃんの身体に他の人の魂でも入れようとしてるのかもね』


 ありえる……ルッカ、冴えてるな。


 『でっしょう? だめよ。絶対に駄目。神殿に運ばせては駄目』


 じゃあ……どうするんだよ。


 『グッルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』


 なんてタイミングなんだよ! アイゴン!!!


 『なっ!!! なに奴!!! 魔物か!?』


 ガシャガシャと音を立てて機敏な動きで剣を構え出すヴェンゲロフの手下ども……おい、王妃様おばあちゃん放っといてなにヴェンゲロフ守ってんだよ。

 

 ルッカ、こいつら全員眠らせるぞ!


 『そのつもりよ!』


 ちょっと待って……片手がオーブ持ってて塞がってて……


 『早くして!』


 隠し通路近くの壁際に避難しながらごそごそとオーブをしまい耳を塞ぐ。


--------------------------


 ルッカ……ありがとう。

 国王おじいちゃん王妃おばあちゃんは守り切れなくて寝ちゃったけど、でも結果的には危機は逃れた……のか分からないけど、とにかく助かったよ。


 『どういたしまして! で、どうしようか。こいつら』


 警戒したままの姿で固まっているアホ面のこいつらを見てると……何かやってやりたくなるな。


 『落書きとか、したくなるわね』


 落書き……!!! そうだよ! ヴェンゲロフ……こいつザビエルそっくりなんだ!!!


 『……ザビ? ごめん。分からない』


 まじか。いや、そうだよな……すまない。ここじゃ通用しないのは分かっているのに、いったい何を俺は一生懸命……


 『うん……で、どうする? 落書きでもする?』


 いや、もういいや。

 その前に、国王じいちゃんの魂を元に戻そう。

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