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78.帰宅


 貴族街は城下町ほどの荒れた様子は見当たらず、以前と変わらず豪華な屋敷が並んでいる。

 違いがあるとすれば、灯りが少ないという事だ。夜だからなのかそれとも人がいなくなったのか。


 テルジア家の屋敷も立派な外壁や家の中の豪華さも変わりなかった。

 ただ、出迎えは以前よりも簡素なものだった。

 事前にロイ爺から連絡が行っているはずだし、夜更けだし偽装してるし当然ろう。

 俺達が門に近づくと、馬が通れる程度わずかに開いたのみで密かに隙間を縫って入った。

 屋敷に入っても1人の執事とハンナ、数人の女中メイドが迎えたのみ。

 ま、俺にとっても儀礼的な派手な出迎えよりその方がよっぽど楽だ。


 「レオン、よく帰ってきた!」


 父上に抱擁された時、右腕が無い事を実感した。

 あの時は生きてさえいれば、足があるからとあまり何も思わなかったが時が経って少し前のあの惨劇を思い出すと、胃がズシリと重くなった。


 「父上、お久しぶりです。お体は大丈夫ですか?」


 「なぁーに! 大丈夫だ。さあ、お前の母上も待ちかねているぞ」


 父上が俺の背中に手を当てて促すように母上の待つソファーに向かう。

 母上は何だか痩せてしまったようだ。顔色も良くない。


 「レオン……! 会いたかったわ」


 母上はソファーに座ったまま目の前に立つ俺を抱きしめた。

 腕が細い。抱きしめる力もとても弱々しい。


 「只今帰りました。……母上? お加減が優れない様ですがどうなされたのですか?」


 「大丈夫……お母様はどこも悪くないわ。帰って来てくれてとても嬉しいわ」


 全然大丈夫そうじゃない。

 病気か? それなら俺の回復魔法がある。泉の水だって持ってきてるぞ。


 俺に付いてきたディアーナも父上、母上に挨拶をしている。

 そのさまは、いつもの剣士然とした男らしさは影をひそめ、優雅な貴族のような立ち振る舞いだ。

 っていっても本物の貴族あんま見た事ないしな。

 でもすごいなディアーナ。俺は『貴公子』スキルで何とかなってるけど素では出来ないのに。

 

 父上の人払いの合図により、使用人達と同じく部屋を出ようとするディアーナを父上が引き止め、部屋に4人だけになった。


 誰もいない事を確認すると、俺はさっそく母上に回復魔法を施した。

 回復の綺麗な緑色の光を浴びた母上は、顔をほころばせ嬉しそうに「ありがとう、レオン」と言ったものの全く元気になった気配はない。何ていうか覇気が無いんだよ。

 ソファーから立ち上がろうとするとふらつき、父上の介助なしでは歩けなさそうだ。


 回復魔法が効かないのか?


 ルッカ、呪いは?


 『……それは私の担当じゃないんで……って嘘よ。ウソウソ。アイゴンが起きないんだから呪いじゃないわよ。分かるでしょ』


 ぐ……そ、そうか良かった。

 でもさ、じゃあ母上はどこが悪いんだよ?

 病気にでもかかったのか? 

 いや、俺の回復魔法は筋肉疲労にも怪我にも効くし、ひき始めの風邪から頭痛腹痛にも効くなかなか良スキルなんだぜ?

 ……父上の足をくっつけたんだぜ?


 『うーーーーーーん。……年長者の私からみていわせれば、これは単に気持ちの問題よ』


 メンタルか。


 『そう、あなたのお母様は心を痛める出来事が多かったんじゃない? まあ、蛇に食べられて死んで数百年を孤独に過ごした私に比べたら大したことないと思うけどねー』


 ……案外冷たいよな、ルッカって。


 『いいえ。私より不幸なエルフがいないだけです。あっ同情とか求めてないわよ? それはマジで500年は早いわ』


 お、おう。分かったよ。

 ルッカからみれば母上も子供みたいなもんだろうしな。

 でも、気持ちの問題か……泉の水なら効果あるかな。

 

 袋から凍らせた泉の水を少し砕き、母上に渡す。


 『母上、これは領地近くに出来た”神の創りし泉”の水を凍らせたものです。突然こんな物を出して不審に思うかもしれませんが、一口食べてみて下さい』


 微笑んだままだが明らかに戸惑っている母上の為に、まずは実演とばかりに俺も欠片を食べてみせると、「リリア怖がることはない。レオンが持ってきてくれた物だ。どれ私も食べてみよう」と父上も氷の欠片を口に入れた。


 「おお……これは、疲れが取れるな! なんだか心も晴れやかな気分になったようだ。リリア、お前も食べて見なさい」


 まるで実演販売のサクラのような父上の言い回しに、持ってきた俺の方が胡散臭く感じたものの、父上は俺の手から氷を受け取ると、母上の口元に氷をあてがい食べさせた。


 「……まぁ! 本当だわ。さっきよりも心が軽くなったみたい。どうもありがとう」


 ほんとかいな。

 母上は喜んではくれたものの、いまいち効果があったのかは分からない。いや、ないな。

 相変わらずソファーの上に小さく座り、俺の手を力なく握っているだけだから。

 母上のステータスはさっきから全快だから、あとはその……なんつーか見えない気持ちの部分が良くならないと本当の意味で元気にならないんじゃないかな。


 老婆の店で買ったあの薬草は廃人用らしいし、母上は元気がないだけで心が死んでいるわけじゃない。

 それを今使って良いものか。


 他に心を癒すものと言えば……


 『メイちゃんじゃない?』


 だよなあ。こんなことならメイを連れてくれば良かった。


 『……だけどこんな荒れた王都だと知った今は?』


 メイを連れてこなくて本当に良かった。

 ……って俺で遊ぶなよ!


 「レオン、さっきから一人黙ってどうしたんだ?」


 やべやべっ! 


 「……母上が何かに悩まれているご様子なのが心配で。良ければ話してくださいませんか? この王都の変化についても、一体……何が起きているのです?」


 「もちろん、レオンお前には全てを話すつもりだ。……結論から言うとだな、この国はもうだめかもしれない」

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