50.手紙
2通の手紙が俺の元に届いた。
1通は父上から。
もう1通は・・何も書いてないな。
父上からの手紙から読もう。
何だろうな。
またパーティー出席連絡かな。
俺はベッドに寝そべりながら手紙を開いた。
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レオン、久しぶりだな。
ロイからの手紙でやんちゃぶりに拍車がかかってきたと聞いているぞ。
またハンナを派遣した方が良いかな?
ははは。冗談だ。
元気なのは良い事だぞ。
ただ怪我には気をつけなさい。
実は王都では色々あってな。
お前が王都を去る時に話した北の山脈に潜む魔物が未だ退治出来ていないのだ。
アンドレとアイリスは無事だ。
安心してくれ。
魔物は2人の力で一度は封印が叶ったのだが、
何者かによってその封印に使った聖石が壊されてしまったのだ。
王国議会より私に討伐指揮の命が出た。
私は行かなくてはならない。
レオン、私はおそらく帰ってくる事は出来ないだろう。
一線に立っていた頃とは違い、もう私も大分年だからな。
レオン、リリアをお前の母上を頼む。
そして、アンドレやアイリスの事も気にしてくれると助かる。
家族全員が揃ったのは、お前が王都に来たほんの短い間だったが、私は嬉かった。
レオンには、離れ離れになった家族を集める事が出来る力があるのではないかとすら思う。
可能ならばまた皆で会いたいところだが、今度の命は本当に危険だ。
私が死ぬ事になったら、まずはリリアの側に向かって欲しい。
神殿は危険だから近づかなくて良い。
ただ、アンドレとアイリスが戻ってくる事があれば快く迎え入れて欲しい。
まだお前は子供だから爵位を継げるかどうか分からないが、
王にお前の事だけは嘆願してある。
お前の母上は元皇女だ。
王は、お前の祖父でもあるんだ。
だからきっと何とかなる。
王を頼るんだ、いいな。
子供のお前に頼みごとばかりですまない。
昨年、レオンが王都に来た事がつい昨日の事のように懐かしいよ。
また会いたかった。
いや、また会えるといいな。
父は、遠い地で1人立派に育ったお前を誇らしく思っている。
愛するレオンの父、ガルム・テルジア
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な、な、な、
なんだよこれ!
・・・これなのか?
予言まで、まだ予定まで半年もあるのに?
そうだ。
予言はまだ先なんだ。
兄も妹も無事だったじゃないか。
父上もきっと無事だ。
ただの杞憂だ。
気持ちとは別に不安が襲う。
心臓がドクドクと早鐘を打っている。
今すぐにでも王都に行きたい。
だけどまずは、ボン爺に話そう。
慌てて部屋を出ようと起き上がると、もう1通の手紙がヒラリと落ちた。
もう1通の手紙。
封に送り主のサインがない。
誰だ?
兄か?
俺はもう1通の封を破った。
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私は、我がナリューシュ国の偉大なるヨハン皇子様の近しい者だ。
今日は貴重な時間を使い、ヨハン皇子様の代わりにこの文をしたためている。
レオン・テルジア。
貴様を特定するのに時間がかかったぞ。
聞けばド田舎育ちらしいな。
確かに礼儀のなっていない城下の下民よりも
田舎臭い奴だったな。
まぁ、それでも貴様の様な下級貴族にもかの偉大なる皇子は寛大な処置で許してくださる様だ。
有難く思えよ。
尊大なヨハン皇子の側近のドゥルム公によれば、
テルジア家というのは国王に取り入るのだけが得意な無能な輩が多いと聞く。
光の御子と月の御子とやらのお陰で偉そうな顔をしているが、所詮は下級貴族なのだ。
その2人も我がナリューシュ国の重要な任務に失敗したようだな!
全く、親も親なら子も同じで無能なんだな!
だが失敗をしたのなら仕方がない。
次期国王になるのも間違いないと言われるほど優秀なヨハン皇子様が、
再度チャンスをお前の父親に与える様に進言して下さったようだ。
レオン・テルジアよ、貴様は極刑に値する失礼な奴だ。
神の如き寛大なヨハン皇子様の措置に感謝するんだな!
我がナリューシュ国最高の皇子ヨハン様に近しい者より。
ヨハン・ドゥ・ナリューシュ
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・・・わざとなのか?
・・・思いきり本人じゃねーか!
マジでバカ皇子だな。
っていうか、父上の遠征は全てコイツのせいじゃないか!
俺は腹の底から怒りが燃えてきた。
すぐに2通の手紙を持って部屋を飛び出すと、ロイ爺が目の前にいた。
「ロイ爺! 大変だ! ボン爺も見つけなきゃ」
俺は有無を言わさず、ロイ爺を引っ張りボン爺の小屋に駆け込んだ。
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「ふむ、これは。」
「あの時のガキか。
頭の弱い奴ほど無駄に執念深いからな。」
「俺、王都に行くよ。っていうか、北に行く!」
「待て、今行ってどうなる話でもない。
まだ半年はあるはずだ。」
「予言がずれたかもしれないじゃないか!」
「予言が外れる事はない。」
「そうですな。まだレオン様は旦那様に加勢出来る程ではないでしょう」
「そうだ。しょうがない。わしが行くか。」
「待ってよ! 僕も行く! 絶対に行く!」
「・・・・行っても無駄でしょうが、仕方がありませんよ。ボン、連れて行って差し上げなさい。」
「仕方ないか。おい、レオン! お前は今から貴族の子供じゃない。
ただの子供だ。わしの弟子だ。分かったな!」
「・・・!! はい!」
「・・・ねえ、話は見えないんだけど魔族退治なら私も行こうかしら。」
振り向けばディアーナがいた。
いつからいたんだろう。
「そうですなぁ。まだ得体はしれておりませんが。
レオン様の護衛もお願いできますかな?」
「いいわよ。レオ、足手まといにならないでね!」
俺は、ボン爺とディアーナの3人で北の山脈へ向かう事にした。
王都を経由せず、ここから真っ直ぐ北へ迎えば馬で3日程で行けるらしい。
「まずは準備だ。・・・お前の旅の装備が全くないな。」
「私も手筈を整えておきましょう。この屋敷と王都は私にお任せを。」
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この領地の街へ来るのは2回目。
今回はボン爺と俺の2人だ。
去年の城下町が懐かしいな。
あの時にメイに出会ったんだ。
メイとしばらく会えなくなのは寂しい。
ボン爺は、旅服、胸当て、盾、ブーツ、手袋、マント、を迷いなく選んでいく。
俺も『鑑定』を使ってみたが、どれもその店中で一番丈夫な素材のものだった。
「最初はゴワつくかもしれんが、時機に慣れる。我慢して着ろ」
ボン爺に手渡された荷物を貰った袋に入れて自分で持った。
ボン爺が持っている魔法道具の袋じゃない、ただの袋だ。
こんな時に考えてはいけない事なんだが、どうしてもワクワクしてしまう。
この装備を身に付けたら、まるで本当の冒険者みたいだ。
ボン爺は自分用にもいくつか品を買い、街を出た。
舗装された田舎道をゆっくりと馬を進めていると、この辺りの景色が良く見渡せる。
のどかでとても平和な風景だ。
これから魔物退治をしに行くなんて実感がわかないな。
おっと、
よそ見していると馬が頭を振って道を逸れた。
「うわっあわわわ、、」
とっさに馬の首を抑えて馬にしがみついた。
馬はかなり穏やかな性格だから、振り落とされる事はなかった。
ふぅ、
「・・・お前さん、まだ馬の乗り方が下手くそじゃのう。」
「しょうがないじゃないか。全然乗ってないんだから!」
「ははは。ま、今回の旅で嫌っていう程乗るからな。
そうそう尻当てもあった方がいいな。
確か納屋にあったから、後で馬に付けておくとしよう。」
ボン爺の口調ものんびりしている。
まるでちょっと遠乗りにいくだけなんじゃないかって錯覚しそうになる。
だけどボン爺の表情はずっと厳しい。
ディアーナにも言われたけど、足手まといにならないようにしないとな。




