25.王都
王都に到着したのは予定より早く夕方になる前だった。
まだ日が高く、遠くに見える巨大な白い王城とそれを囲む城壁が見える。
そこから広がる城下町と綺麗に整備された道が続いている。
これまで通ってきた街との格差に驚いた。
城下町は、景観にも気を使っているのかオレンジ調のレンガで建物が統一されており、観光地の様だ。
王都の入り口から様々な店が並び、しばらく行くと大きな広場があった。
噴水が綺麗だった。
魔法が使われているのか水の色が少しずつ変わっていて、色とりどりの水しぶきが跳ねていた。
広場から先は民家が建ち並び、さらに進むと貴族の屋敷と思われる豪華な屋敷が並ぶエリアに入った。
テルジア公爵家の屋敷もその中にあった。
俺の住むテルジア領にある屋敷ほどではないが、凄く大きな屋敷だった。
馬車から降りると、既に待機していた様で、大人数の使用人が出迎えた。
「レオン様、お帰りなさいませ」
一斉に俺に挨拶し礼をすると、そのままの姿勢で俺が通り過ぎるまでピクリとも動かなかった。
その整列の間を通らなくてはいけないらしい。
何だか怖い。
俺に付いて歩いているメアリかボン爺に助けを求めようとすると、両親の声が聞こえてきた。
「レオンはもう着いたのか!?」
「レオンが帰ってきたの!?」
おいおい、俺を呼んだのはそっちじゃねーのか?
俺はあれからずっと兄妹の件を根に持っている。
俺の中ではもう、両親なんかただのATMだ。
両親が現れた。
また何人もの使用人を引き連れている。
俺がいた屋敷にいた使用人の数を既に凌駕しているのだが。
ねじ曲がった俺の気持ちに反して、両親はかつて領地に来た時の様な熱い抱擁をした。
「レオン!大きくなったな。ロイやメアリやハンナから良く話は聞いているぞ。
なかなかやんちゃになったそうだな。うむ、やはり男の子はこうでいとな!」
「レオン、大きくなって。日焼けもしてとても元気そうで嬉しいわ。
ずっと会えなくてごめんなさい。さあ、旅は疲れたでしょう。
メアリ、久しぶりね。レオンの湯浴みと着替えをお願い。」
「旦那様、奥方様お久しぶりでございます。
・・それではレオン様の御仕度に一度失礼させて頂きます。
「・・・」
メアリは、固まっている俺を見えない様に引っ張り、屋敷の一室へと連れていかれた。
・・・あの両親、やっぱ調子狂うよな。
俺の事屋敷に放置しておいて、あの熱い出迎えはなんなんだ。
「あれ、メアリ?ここどこ?」
気が付けば、高そうなふっかふかの絨毯の上に立っていた。
天井には大きなシャンデリア、重厚感があり、金で刺繍でもされてんじゃないかって壁紙に、高そうな調度品の数々が並ぶ部屋で、
俺はメアリに服を脱がされているところだった。
最後の一枚だけは何とか守る事が出来た。
「この部屋は、王都でのレオン様の私室ですわ。
さ、浴室はすでにお湯の用意がされています。・・流石ですね。
旦那様も奥方様も首を長くしてお待ちですから、急いで出てくださいね!」
俺の部屋・・・?
それにしては、豪華すぎるだろ。
考えが纏まらず、これまた豪華な浴室でぼんやりしていると、
やきもきしたメアリが俺の入浴を手伝おうと入って来ようとしたので速攻で洗い終えた。
俺は女性に裸を見られて喜べるほどの成長はまだしていない。
メアリ、まだ未婚なんだしもっと恥じらわないと嫁の貰い手がなくなるぞ!
風呂から出た俺に用意されていた服は、ヒラッヒラのレースが何重にもなっている様な複雑怪奇なものだった。構造が分からな過ぎる。
大人しく服を着せてもらう間、メアリにぽろっと愚痴を言った。
「父上と母上は、僕の事が要らない子だから領地に置いていたはずなのに、
何だかすごく僕を待っていたみたいだよね。
メアリ、これからどうやって父上と母上に接したらいいのかな。」
俺としては、ハンナの愚痴を聞いてもらう程度の気持ちだったのに、
メアリは俺のシャツのボタンをかける手を止め、凄い勢いでバッと俺の顔を見た。
涙目だ。なんでだ?
「レオン様。
旦那様も奥方様もレオン様を守る為にずっと領地へお隠しになっていたと・・・・
この間も皆で申したではないですか!
旦那様も奥方様もレオン様のお口からそのような発言がなされたらきっとひどく苦しみます。
レオン様はとてもご両親に愛されておいでなのです。
だから、今まで一緒にいられなかった分を存分に過ごして下さいませ!」
「わ、わかったよ。メアリ。
なんだかごめん。ちょっと・・・兄様と妹の話だけしか頭に入ってなかったみたいだ。」
「いえ、大切なご兄妹の事もあまりお話しできず申し訳ありませんでした。
レオン様はお小さい時から我儘など言わずにいらっしゃいましたもの。
私どもの方こそ、レオン様に甘えていたのですわ。
・・・そういえば光の御子様と月の御子様がレオン様に会う為に、この滞在中に帰って来られるそうですよ。
良かったですね、レオン様!」
・・・・おい、なんだよそのふたつ名は。




