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151.決着

 

 ただの貝の集合体と思いきや既に2~3メートルの見上げるほどに巨大な魔物と化したそいつは紫色のオーラで全身を囲っていて今はもう貝っていうかデカい鎧を纏った化け物だ。


「ねぇねぇレオン……ここからでも威圧感を感じるんだけど、大丈夫……?」


「そんなこと言っても今更逃がしてもくれないだろうな」


「ふむ……お前さんは予想外の事をするから拍子抜けな結果に落ち着くかとも思っとったんだがなあ。まぁ、経験上はなぁ、こういう時の戦闘ってのは避けられんもんじゃ。面倒だがやるしか無い。レオン慎重に行くぞ。これまでのやつとは勝手が違う」


「分かってるよ」


 ここで突っ込んでいくような馬鹿じゃねーって。どう見ても力比べでは分が悪そうだしな。


「ふふっ。慎重なのは大切ですが、ここでは意味がないですよ!」


「うおおおおおっ!?」


 しっかりと距離を取っていたはずなのに化け物がこっちに手のひらを向けたと思ったら俺もボン爺も急に引き寄せられる。凄え力だ……ってやばい、吸い寄せられる!


 ドッガァァァァァーーーーーーーンッ!!


 化け物の目の前まで引き寄せられたところを思い切り殴られた。

 その衝撃で、俺とボン爺は壁まで吹き飛ばされる。


「ちょっとレオ! 気を付けてっ!!」

 

 って、体勢を整える暇もなく飛び込んで来やがった!


「あぶねっ!!」


 ドッガァァァァァーーーーーーーンッ!!


 なんとか紙一重で躱したけど……化け物が突撃してきた壁のあたりは崩れているじゃねーか。

 何てパワーだ。


「痛でで……」


 あちこちの骨が折れてるのが分かる……化け物から視線を外さずに速攻で回復をかける。

 奴の呪いの力で、腕と足に軽く鱗が生えている程度で済んだ。

 アイゴンが瞬時に呪いを吸収してくれたんだろう……俺もボン爺も若干鱗が残ってるけどそれは後回しだ。


 「ちっ外しましたか。まぁせいぜい足掻くが良いでしょう。それにしてもこの身体は素晴らしい……力が溢れてきますよ。この力があれば今は一つの部隊長に過ぎない私でも更なる高みに上がれるでしょう」

 

 くそっ……結構ヤバ目な状況なはずなのにどっかの地球外生物みたいな話し方が気になって集中できねー。

 にしてもあの攻撃はあのねずみが得意としている重力魔法の応用だよな……なんだよあんな使い方があったのかよ。

 ってことはあの貝……取り込んだ魔物ねずみの力を使ってんのか?


「ねぇ! あいつのお腹のところを見て!?」


 さっきの鼠じゃん……大分ぐったりしてて意識も無さそうだが。

 一見デカい鎧のコクピットにねずみが収まってるみたいな構図になっているんだけど、あいつは養分にされてるだけなんだよな。

 あのねずみのステータスだって充分強かったのに……まずいな。


「ちょっと! ねずみさんが可哀想でしょっ!」

 

「ふふふ。お嬢さんはこいつとは関係ないでしょう」


「関係あるわよ! 私たちお友達になったんだもん」


「それなら貴女も私に喰われるが良い。この雑魚ねずみを使って魔王様の力を復活させるための力を集めさせていましたが、こ奴を核にすることで私も力を発揮出来るのです。さあ、お嬢さんもいらっしゃい」


「ふふーん。嫌に決まってるでしょ! 閉じ込められるのなんてウンザリなんだから」


「活きが良いのは嫌いではありません」


「やだぁ。活きが良いって、ふふっわたし死んでるのよ?……じゃなくって、レオ早くぶっ倒して!!」

 

「……お、おう。援護たのむぞ」


 ボン爺と二人がかりで何とか攻撃をいなしているが、スピードだけでなくパワーもこれまでの魔物の力を凌駕しているせいか、いいのを何度か喰らってしまっている。

 化け物の攻撃を真似して重力魔法を駆使して威力を軽減してはいるものの防戦一方だ。

 

「レオン! 攻撃が効いている様子がないぞ!何か無いのか!」


 おいおい……隙を狙ったボン爺の攻撃も効いていないのかよ!?


「何かって言っても、身体を纏ってるあの呪いが邪魔なんだよな……ルッカどうにか出来ないか?」


「うん。私もお手伝いしたいところなんだけど、ちょっとこの状況が騒がしくて妖精が集まらないのよね……ごめん」


「また来るぞレオンよけろっ!」


「ひっ!!」


 ドガガガガガガガガガガガガガッ


 攻撃は大分見切れる様にはなったが、さっきからの激しい攻撃により壁が抉られ続けてこの洞窟自体が持ちそうにない。

 早くケリをつけないといけねーのにこっちの攻撃が効かないんじゃ……どうすりゃいいんだよ!


「人間如きが足掻いた所で無駄ですよ。そろそろ諦めなさい」


 こいつ、ただの部隊長って言ってたよな……魔王軍ってこいつより強い奴がいるってことだろ。

 ……出来ることなら今後関わりたくないぜ。


「ねぇ、ねずみさんの顔色が悪いわ。早く助けないと……」


 ルッカだけは余裕だよな……って待てよ。化け物のエネルギー源のねずみを切り離すことが出来れば弱体化狙えるんじゃね?


「おいっねずみ! 起きろよ! お前どんどん力を吸い取られてるんだぞ!」


「呼びかけたって無駄ですよ。確かに私はこの鼠の力を利用していますが、そう簡単に何とかなるはずがないでしょう」


「私が何とかするわっ! ねずみさーんおきてーっ」


「ルッカ、無理すんなよ!」

  

 エネルギーをコアにしている鼠に集めて利用しているだけだったら、鼠をあいつの身体から取り出すしか勝機はない。そして今あの化け物に無謀に近づけるのはルッカだけだ……頼む。


「無駄だと言っているでしょうに……でも都合がいい、ククク」


「きゃーえっちー!!」


「ルッカ!! この野郎!!」


「レオン! 皆も、ここにいたんだね!」


「へっ……? あ、兄上……?」


 なぜにここに? あ、そういや連れてきたんだった……起きたのか、やっと。


「気が付いたら周りに誰も居なくてね……音を頼りにここまで来たんだが、会えて嬉しいよ。ところでこれはどういう状況なんだい?」


 周りに誰も居なかったって、あのうざい人魚たちがいたはず……いや、そういうことか。

 みんな魚になっちまったのか。

 で、光の申し子兄上だけは無事だったと……まあでも良かったっつーか助かった!


「ざっくり言うとあの化け物が人魚たちを魚にしてしまったんだ! あいつの纏う紫色のオーラは呪いなんだよ。兄上っ兄上の力であいつの力を弱体化させて欲しい!」


「うん、了解」


 何とか声を張り上げて状況を伝えると、アンドレは懐から宝石の付いた短剣を取り出し高く掲げたー瞬間ー光が洞窟内に満ち溢れた。


「ギャッギャアアアアアアアアアアアアッ!!」


「兄上、その短剣……」


 昔父上から貰ったやつに似てる気がする。

 つい、ポツリと言葉をこぼすと、「ああ、これかい?」と兄上アンドレは力を緩める事なく流し目で俺の方を軽く見た


「この剣は子供の頃に父上から頂いたんだ。力を蓄えたり増幅する効果もあるらしい。今までは只のお守りとして持っていただけだけど、大切な弟がこんなにボロボロな姿をしているのを見て剣の持つ力を思い出したんだよ……さっきは、倒れてしまってすまなかったね」


 兄として情けないよ……と自嘲気味に笑いながら言った兄の姿は自身の放つ光に覆われていてまるで神のようだった。

 って待てよ。もしかして俺が貰ったあの剣も同じ様な力があったんじゃね? 

 俺、あれ大分前に溶かしちゃったんだけど……


「レオンっ! ぼうっとしとらんで今じゃ! 早くねずみと切り離せ!」


「はっ!」


 そうだ。化け物の動きが止められている今しかない!


「うおおおおおっっ! ネズ公こっちに来やがれーーー!」


 ぐぐぐぐ……っとねずみの軀が化け物から離れ、そのまま猛スピードで俺に向かって激突した。


「……痛ってぇ」


 回復回復……ついでにこいつも回復させてみるか。


「おい、起きろねずみ!」


「うう……もう食べられないぞ……むにゃむにゃ」


 なんて呑気な夢見てんだよこいつ……ついでに数回軽く往復ピンタ。

 パンパンパンっ……


「いってぇなー……何するんだよ! ぶっころすぞ!?」


「あっ起きた起きた!」


「おっおい、なんだよおまえら……」


「お前、あの貝に殺されるところだったんだぞ? 分かってんのか?」


「はっなに言ってんだ? あいつらは俺の部下だぞ!?」


「……ねずみさん、あのねあなたは騙されていたの。私たちが助けたのよ?」


「そんなわけないだろっ!」


「ギャアアァ……はぁはぁ、ねずみ……早くこっちに来なさい」


「げげっ!? 貝がしゃべった!?」


「「……………………」」


「レオン、今のうちじゃ! 核を失って崩れ始めておる。ああなれば所詮ただの貝でしかないわ。お前押しつぶせるか?」


「余裕だよ!……オラァァっ!」


「グッギャアァアアアッッ…………」


 苦戦した化け物との戦いは……最後は圧力で思い切り押しつぶして粉々にする事で幕を閉じた。

 うまくねずみと切り離せたからよかったものの、ぎりぎりだった。


 貝の残骸は、元の形が微塵も残らない砂状にまで念入りに細かくすり潰してやった。

 そして洞窟の中はさっきまでの轟音が嘘の様な静けさを取り戻したが壁はもうボロボロだ。崩れるのも時間の問題だろう。

 とはいえ、まだまだやることは残っている。

 戦闘中免れずに受けた攻撃により鱗の生えた俺とボン爺の身体を元に戻すアイゴンの仕事が一段落したところで立ち上がると洞窟の外に向かって歩き出した。

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