表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/169

144.出陣


 周りに群がる人魚達を煩わしそうに蹴散らして「おい、レオンさっさと行くぞ! アンドレも早く来い! 全く女みたいに真っ白く痩せこけおって……見ていて苛々するわい。わしが叩き直してやる!」とボン爺が鼻息荒くずんずんと外へ向かって大股で歩を進める。

 

 ……これってさ、ボン爺はルッカの挑発に乗った演技してるのか?

 

 今なら、ボン爺に思いきり張り倒されて床に転がってる人魚達も恍惚の表情で悶えてるだけだし手強そうなママもうっとりた表情で長椅子ソファーにもたれ掛かって俺たちを眺めているだけだ。

 これは……好機ととらえていいんだよな?

 逃げるなら今だよな!?


「レオンの師匠に私も鍛えて戴けるなんて……光栄です。頑張ります……師匠!!」


 頑張らなくていいっつーの。

 兄貴はもうそのチートだけで十分だって。


『よーっし! それじゃーーれっつらごー! あっお兄ちゃん、馬鹿皇子さんをママの所から持ってきてね!』


「”ばかおうじ”とは何だい?」


『やっだー! お兄ちゃんったら! ママのところに転がってるお友達のことよー』


「ああ! ヨハン君のことか。そうだね、体調は悪そうだけど彼だけ蔑ろにするみたいで可哀想だよね。連れてくるよ、私が担いでいこう」


 えっ? ちょっと待てよ馬鹿王子あいつはいらないって!


『うふふっ!……ちょっとーレオンだけノリが悪くない!?』


「そっそんな事ねーよ! 俺はもう魔物退治なんて珍しくねーんだって。まあ仕方ないからやるけどさ」


「いやだ……小さな勇者様みたい」

「「「「「……きゃああああああああああああああああっ!!!!!!」」」」」


 おおっ!!?

 と、とうとう俺単体に向けられた黄色い声が!!

 わっ悪くねーな。

 本当にいっちょ倒してくるかって気になってくるな!


 っていかんいかんいかんいかん。

 こんな処で浮気してねーでとっとととんずらして早くメイ達のもとに戻らねーとメイに顔を合わせられない悪い男になっちまうぜ。


「じゃあ行ってくるから! みんなは女の子なんだし危ないから待ってるんだぞ!!」


 ドームの出口で振り返り、念押しで人魚達に向かって声を上げる。

 来るなよ、絶対付いて来るなよ!?


「「「「「きゃあっ……はーーーーーーーーーーーーーーいっ!!!!!!」」」」」


 うむ。元気の良い返事でなによりだ。


--------------------------------


 人魚達から貰って飲み込んだ鱗のお陰で海底だろうと陸地と同様に歩くことが出来る。

 泳ごうと思えば泳ぐ事も出来る。便利なもんだぜ!

 

「おいっ! お前ら待て! 先に行き過ぎだ」

「ロッ…ルッカは何となく速くても不思議ではないんだけど、レオンがそんなに速く泳げるなんて知らなかったよ」


「えっ? あれ、二人が遅いんじゃないの?」


「いや、お前が速過ぎる。海に入ったこともないお前がなぜそんなに泳げるんだ!」


「ボン爺、そんな怒らなくっても……でもそういえばそうだな。俺、泳ぎの才能があったのか?」


『うーん。その人魚から着せられてる布が怪しいわねー。魔道具マジックアイテムなんじゃない?』


「マジか!?」


 確かにそうかもしれないな。

 歩くよりも妙に泳いだ方が楽だし。

 ラッキー! 長く着古した思い出の服が奪われたままなのは寂しいけど、こんな魔道具いいもんゲット出来たなら別にいいか!


「ほら! 二人とも俺に捕まって進めば早く逃げられるぜ! 兄上! その皇子は残念だけどここに置いていこう……後で迎えに来るって手もあるしさ」


「……逃げるとはどういう事だ? レオン」


「え? ルッカの挑発に乗ったふりして逃げる作戦なんでしょ?」


「はっ! 何を言っとる。あの小娘の挑発などハナから乗っ取らんわ。だが、長年死と隣り合わせで生きてきたわしを馬鹿にしおった事は我慢ならん。わしがまだまだ現役じゃと見せてやるわい」


『よっ! 見せてもらおーじゃなーい!?』


 ボン爺が、歴戦の冒険者で俺の師匠の……尊敬してるボン爺が、まんまとルッカに乗せられてるなんて、見ていて辛い。


「ボン爺、あのさっ。ルッカはふざけてるだけなんだよ。ずっと一緒にいたから分かるんだ。ボン爺も冷静になれば分かるだろ?」


「なんだ、レオン。小僧の分際でわしに何を言うか!」


 駄目だ……おそらくもう何を言っても通じないだろう。

 俺、無駄な戦闘は回避してスマートに逃げたかったのになー。


「レオン、このまま逃げるなんて世話になった人魚達に失礼だろう? 君は賢い子だから私達の事を考えて危険を回避しようと考えてくれているのは分かるよ。でもこう見えて私も少しは旅をして体力もついたんだ。大丈夫だよ」


 アンドレが、優しくそして誇らしげにローブをまくり白く細い腕を曲げてささやかな力こぶしを披露してくれた。

 兄貴、まじで細いな。下手すると鍛えてる俺のほうが太いんじゃねーかな。


 なんかもう、俺の意見なんてきっと通らないんだろうな。

 メイ、俺がいなくて寂しくて泣いてないといいんだけど。

 ……こうなったらとっとと倒して冷静になったボン爺を説得してその足で帰るしかねーか!


 メイ……待っててくれよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ