143.裏切り
話の通じない人魚たちにどうやってここを出してもらうか……力づくで突破とか無理だよな、人魚達強えし。
奴らの言葉の端々から「逃げるなら殺す」みたいなのは伝わってくるし。
どうすっかな。
食事を無理に食わされなかっただけマシだったけどな。
あの後、人魚たちからきらきらと光る謎の欠片を渡されて飲み込むように言われた。
人魚たちの鱗だった。
それを飲めばこの深い海の中でも陸地と同様にいられるらしい。
昨日無理やり喉に突っ込まれたやつは鱗だったのか……本当に身体に影響ないよな?
マジで不安なんだけど。
『ねー。ママぁ、この子なんでぐったりしてるの?』
ルッカがいつの間にかママの座る長椅子の上に乗って気軽に馬鹿王子の事をつつく素振りで聞いた。
何してんだよルッカ。
「ああ、この子かい? ここに連れて来た時はとても威勢が良かったんだけどねぇ。いつの間にかこうなってしまったのよ。困っているのよ? この子はどこぞの国の次期国王で身体の中に変な物を持っているみたいだから気に入っていたのだけど、残念だけどこのままじゃもうすぐ死ぬわね……」
『そうなの? 可哀想だね。面白そうな子なのに』
「おや、ロッカは分かる子だねぇ。可愛らしい顔立ちなの子供なのにヘンテコなぐらい偉そうでねぇ、こんな姿になってしまって腹立たしい日々を送っていた最中の私の慰みだったのよ」
『ま、わた……僕みたいに死んでもエンジョイ出来ることもあるし、しょうがないんじゃない?』
「そうだねぇ。今まで私達の元に来て死んでしまった殿方はロッカのようにはならなかったみたいだけど……この子はどうだろう」
『うーん。それはいっぺん死んでみないと何ともいえないんじゃない?』
「ほほほ。そうね、ロッカは気持ちが良いな。とても気に入った。ずっと傍にいておくれね」
『それがねー。わ、僕もママ好きだしそうしたいんだけど難しいんだ。地上でやらなきゃいけないことが多くって』
「そうなのかい? でも私達は数百年も深海で寂しい思いをしていたんだ。せめてほんの数十年ぐらい良いじゃないか」
スケールがデケエな。
深海に数十年もいられるかよ。
『うんっ! あのね、だからまず僕達でママをこんな姿にした魔物を倒してくるよ! それで人魚の姿に戻ったら今度はみんなで一緒に僕達と旅をすればいいんじゃない? レオン家ってお金持ちだから人魚さん達のお家くらい近くに作れるって』
ルッカ……?
話が違うじゃん!
「それは……考えても見た事がなかった。なるほどそれも面白いねぇ!」
『じゃ、決まりね! よーし! レオっ! とっとと遊びに…じゃなくて魔物の調査にいっくぞー! えいえいおー!!』
「ちょっと、ちょっと待てよルッカ!!」
『えっ? なーにー? だって昨晩そうしようってみんなで話し合ったじゃーん!!』
ルッカの野郎……今回は穏便に穏便に話をつけてここを脱出する話で纏まってたじゃねーか!
ボン爺が反対して、ふてくされてたけど大人しくしてたわけはこういう事かよ。
作戦が台無しじゃねーか!!
兄貴は突然のルッカの提案にぽかんとしているだけだけど、ボン爺は違う。
珍しく殺気がだだ漏れだ。肩が震えてるけど怒りを必死に抑えているのが分かる。
ボン爺……これがルッカって奴なんだよ、分かってくれ。
「おお……なんと……!!」
「もしかして貴方達、昨晩寝ずに話し合ったっていうのは……ママの事もだったのね」
「信じられない……素敵だわ」
「……やだ。どうしよう身体が熱いわ」
「だめ!私もう……一生この男達しか愛せないかもー」
「私もよ、私も。さっきから不思議なくらい胸が苦しいの」
「娘達! とっとと魔物を殺しに行くよ!!」
「「「「もちろんっ!!!!!」」」」
……えっ?
「この殿方達に危険なことをさせる訳にはいかない! 早く魔物を殺して引っ越しだ!!」
「「「「きゃあああああああああっ!!!!!」」」」
……えっ?
『あっ! ダメダメ! ボン爺さんはともかくっここのレオンとお兄ちゃんは絶対連れて行かなきゃ! たぶん役に立つから。僕も面白そ……じゃなくてある意味不死身だから一緒に行くよ!!』
……へっ?
「……わしが役に立たないというのか……?」
あ、あれ……?
『そーゆーわけじゃないけどー。やっぱり無理しないで欲しいなってねぎらい?』
「……小娘が馬鹿にしおって。このわしが一撃でぶった切ってやるわ!」
「「「「きゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」」
「やかましいっ!……娘っ子どもは女らしくここで大人しくしとれ!」
「「「「いやーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!!」」」」
ぼ、ボン爺……?
「レオン……何をつっ立っとる! さっさと行くぞ」
明日朝早いのでちょっと短いですがここできります。続きは明日書きます。




