133.スライム2
……これじゃない。
なんだこの、これじゃない感は。
こんなのスライムじゃない……。
もっと友達になれそうなやつのはずなのに、青でも緑でもオレンジでもない。
ゼリーのようなぷるんとした透明感もない。
泥人形が動いているようにしか見えない。
「お……おおお……おおおおお……」
怖ええよ!
『ちょっとレオ、スライム達が何者なのか話してよ』
えっ? 俺がなんで。ルッカがやれよ。
『せっかく50万Pも使ってとったスキルを無駄にしないの。私はもう妖精さんとしかお話しないもん』
ちっ。ルッカのやついい年してへそ曲げやがって。
まあ、仕方ない。
『あの、こんばんは……』
『!!!!!』
『人間がしゃべったぞ!!!!』
『なっなんだこいつはっ!?』
『早く子供たちをっ』
大きさのまばらなスライムの群れが一斉に飛び上がりズザザザザッ…と引き下がった。
デカいスライムは小っこいスライムを庇う様に後ろに隠す。
……これじゃまるで俺たちが魔物みたいじゃねーか。
『ごめん……逃げないでくれ。俺たちは悪い奴じゃないんだ』
そしてこのセリフを俺がいう事になるとは。
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結論から言うと、スライムは無害な魔物だった。
躰の大半が水分で出来ているため、陽よけのないこの島では昼間は泥沼に入って躰をコーティングして密集して乾燥から身を守っているらしい。
そして夜になったらばらばらと動き出して海に入って固まった躰をのばし食料を取り込んだり散歩したりして過ごすんだそうだ。
こいつらの食料は基本的に海の幸だった。ミネラルが豊富な貝とかが好きらしい。
このスライムという生き物、本来は何でも食らう雑食で大昔は大陸の森の中に生息していたが、付近に住みついた人間の食料となる動植物を食い尽くしていたことで森を焼かれ追われたそうな。
でそういうことを繰り返した結果海を渡ってこの島に辿り着いたんだと。
ちなみに一部は海でクラゲの様に生活しているのもいるらしい。
突如到来した俺たちに恐怖したらしいスライム達は、もし俺たちから先に攻撃を仕掛けた場合は……逆に取り込んでしまおうと全員一致で決意していたそうだ。
やばかった。こんなところで全滅の危機に脅かされるところだったぜ。
ルッカだけは微妙な表情で『みんなも一度は食べられてみた方がいいのに〜』などと悪霊らしい発言を残したけどな。
貴重な活動時間だからと手短に話を終えるとスライム達はざぶざぶと海に入っていった。
そしてクリアな姿で戻ってきた。
透明のぶよぶよしたゼリー状の固まりで特に核みたいなものは見あたらない。
顔もないただの透明の固まりだ。
ちょっと愛嬌のある顔立ちがあれば俺のイメージ通りなんだけど……でもこれだよこれ!
やっぱスライムはこうでなくちゃ。
しかも俺たちが無害だと分かったスライム達は友好的で、俺たちの分まで貝を取って来てくれた。
焼いて食べようと火をおこそうとしたら尋常じゃなく慌てたので生で食った。旨かった。
メイとマールは早々に仲良くなり、とくにデカいスライムのぶよぶよした躰の上に乗っかってぼよんぼよんと飛び跳ねて遊び始めた。
スライムからみてもメイはとっても可愛いらしい。メイは最強だな。
「しかしおかしいな。クターシの奴が言っていた通りならこの島はかなり栄えているはずだろうが」
クターシってのは族長の事な。
「そうね。でも族長もあの島の皆も行った事はないって言ってたから適当に言ったんじゃない?」
それはあるな。
でもマリア様は? この島で物資調達してこいとか言ってたけどこの島何もねーじゃん。
マールのせいで海に出る手段もなくなったっつーのに。
『人間が棲む島ならあった……少し前に消えた』
『なんだって!?』
数か月前まで本当にこの近くにもう一つの島があったらしい。
この島とメイの故郷の中間あたりに。
だけどある日、いつもの様に朝を迎え泥の中で過ごしいつもの様に夜になり活動を始めるといつもなら遠くに見えていたはずの島が忽然と無くなっていたそうだ。
もとよりそんなもの無かったかのように。
その後から、海の魚が今までより大きくなり凶暴化し荒ぶるようになったという。
……確かルッカが海の魚が魔物だって言ってたよな。
あん時は別に気にしてなかったけど今のスライムの話と合わせると、島が消えたって話と……気になるな。
スライムにとっては島が消えようが自分たちの生活に支障がでるわけでもないから無関係なこととさして気にしてはいないようだった。
むしろ脅威となる人間の棲む島が無くなったことは喜ばしいことなんだろう。
話しぶりが嬉しそうだったからな。
でも世界中に仲間が豊富で情報収集が得意なマリア様がこの事を知らないはずがないから、物資調達をこの島でしろって事なんだとは思うんだよ。
……スライムしかいねーっての。
「ねえ、今度はこの島に足止めになるのかしら。それでもこの島には何もないもの。もう海に出る手段はないしどうすればいいのかしら」
ディアーナがいらついた声をあげた。
しかしその手には小っこいスライムを手の平にのせて撫でている。
あの大抵仏頂面のディアーナが口元のゆるみを隠しきれていない。
絶対嫌がってない。
この島にしばらく滞在したがっている、そんな表情だ。
まあでも確かにまた手段を考えるまでに時間がかかりそうだな。
俺たちの生活スペースが無さ過ぎなのが問題だけど。
さてどうすっか。
メイもマールもすっかりスライムの躰の中に入り込んで中で泳いでるみたいに遊んでるし、楽しそうだからしばらくはここでー……っておい!
メイたちがスライムに食われてる!?
友好的なふりして、やっぱり凶悪な魔物だったってのか! くそっ!
「メイっ! 大丈夫か!?」
今助けてやるからっ……
「? にーにメイのことよんだのー?」
ぽにょんっとスライムの躰からメイが顔だけ出した。
「へっ? 何って…メイ大丈夫なのか!? スライムに食われたんだろ?」
『食べてなどいない』
むっとしたスライムの声が返ってきた。
食事や外敵を倒す時は躰の中で猛毒を作り出し溶かして取り込むらしいが、意図しなければ中に入り込んでも問題ないらしい。
むしろ本来は特有の再生能力の固まりみたいなもんだから、なんつーか健康とかにもいいらしい。
よって、それを知ったボン爺とディアーナもすぐに志願してスライムの中へと潜り込んでいった。
取り残された俺とアイリス。
「アイリスも行ってきていいんだぜ?」
「え、ええ。でも……あの私はこの小さな子と一緒に見ています」
旅に出てアイリスもけっこう明るく喋るようになってきたとは思ってたけど、あれはまだ新鮮すぎたか。
ベテラン陣営もスライムに夢中となると、島を出る手段はみんなが落ち着くまで待つしかないか。
まてよ?
あのスライムの中って息できんのか?
中で遊んでいるメイとマール、明らかに何か喋ってるもんな。
あっそう。
なんだ、スライムの中に入って運んでもらえばいいんじゃん。




