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132.スライム


 マールが鼻息荒くドヤ顔でアピってた『逃げ魔法』ってやつは…あれだ。

 簡単に言えばスピード特化型の魔法だ。

 ステータスにもどやどやと『逃げ魔導士』なんて肩書きをひけらかしているがどう考えてもただ速いだけなんだよな。

 

 まあ、それでも特化してるだけあってすげえことになったわけだけど。

 マールはルッカほどじゃないけどさすがエルフだけあってレベルも高いし保有MPも多い。

 その威力は尋常じゃなかった。

 どのくらい凄かったかというと、海面を突っ走っていた俺たちの小舟は宙に浮いて飛んだ。

 吹っ飛んだ。

 そしてとんでもない速さで海を移動していった。

 

 前回、メイの故郷であるビュイック諸島に辿り着いた時の記憶はないが、ディアーナやみんなから聞いた話の通りだった。

 ボン爺が風を起こして対抗し、俺もみんなが吹き飛ばない様に魔法で抑えつけた。

 それでもぐっすりと眠るメイをアイリスが抱きかかえ、さらに二人をディアーナが守る。

 どうやってバランスを取ってんのかマールだけが舟の淵に片足を乗せて「いっけぇーーーー!」とテンション高く飛ばしている。

「やー! やっぱり飛ばすのって最っ高ですねーっ! たくさん力も使うから気分よくなってきましたっつ!」


「調子が良くなったんならもう止めろって。ディアーナ、二人を守ってくれてるのはありがたいけどちょっとマールを押さえつけてくれよっ」


「ごめんなさい。それは無理なのよ」


「なんだって⁉」


「こうなったらもうマールを止めた方が危険なんじゃ! 前回でそれは分かった!」


「兄さまが怪我されたのも無理に止めようとしたのが原因なんです」


 なるほど……だからマールは俺に敬語なのか。

 みんな前回のマールの暴走で何かを学んだらしい。

 しかもすでに適応してる感すらある。

 表情で分かる。ボン爺もディアーナももうすでに諦めたかのような顔をしている。


 現状レールから外れた暴走トロッコに乗っているような気分だ。

 周りには海しかないから基本変わらないんだけど確実に景色がぐんぐん後ろへと遠ざかっていく。

 

 これ、このまま死ぬんじゃね?


『それがねー。残念ながら大丈夫そうよ? もうすぐ目的の島が見えてくるわ。私としてはみんながここで死んでくれれば仲間が増えるから嬉しいんだけど、残念だわ』


 ルッカの言う通りだった。

 あっという間に島のへりが見えたと思ったら…みるみるうちに陸地が近づいていった。


「このまま乗っていたら危ない! 全員飛び降りろっ!」


 ボン爺の叫び声を合図に俺たちは全員飛び降りた。

 

 島のみんなとボン爺とで作り上げた思い出の小舟はそのスピードに耐えかね島が見えてきたところで木っ端みじんになった。

 風を操作してなんなく着地することでなんとか島に辿り着いたけど……なんだここ。


 沼地が一面に広がっているだけなんだけど……


 何もない。


 見渡すかぎり、島の端から端まで延々と広がる平地には街などどこにもみわたせないんだが。


 ここは、族長が言ってた島じゃなかったのか……?


『いえ、この辺りで島といったらここしかないわ。ここで合ってるわよ?』


 でも、何もないぜ?


「ほう。こんな島は初めてだ。人っ子一人おらんじゃないか」


「魔物の気配もとくにないわ」


 いや……そんなことはない。

 俺の鑑定にはびしばしとひっかかってるぜ?


 沼のなかにみっしりと……『スライム』という文字がな。


「みんな沼に近づかないで! あの沼に隙間なくスライムがいるんだ」


「なんだと⁉」


 見渡す限り、沼の面積が大きく俺達が歩けるようなスペースの方が少ない。

 スライムは鑑定を持ってしても名前となぜか年齢だけしか分からない。

 あとは『みないで』という表記。

 そこはせめて『????』とかにしろよといいたい。

 かつて出会った魔族はちゃんとそれやってたのに。


『うーん。ってことはつまり意思を持ってステータスを見られない様にしてるってことなんじゃない?』


 なるほど。ってことはつまり……


『強い……のかしらねぇ?』


「ボン爺! スライムってどんな攻撃してくんの!?」


「いや……すまんがしらん。若い頃にちとしくじって手首を失った事があったんだが、あやしい婆の店で売られていたスライムを食った事があってな……ほれ、見てみい? 手首が生えたんじゃ」


 表情も変えずに左手首をひらひらとふってみせるボン爺。


「へっ?……それすげーじゃん。えっじゃあここでスライムを生け捕りにしたら父上の腕も治せるってこと?」


「そうかもしれんな。スライムなんて希少な生き物の情報は本当に少ないからな……こんな島に生息しとったとは。わしも長年旅をしてきたが驚いたわい」


「私も初めて見たわ。はっきり言ってただの泥の水たまりにしか見えないからどこにいるか分からないけど」


「ディアーナも知らないんだ……マールは? マールも結構ひとり旅長かったじゃん」


「えっ私ですか? そうですねー。むかし見たような見てないような……っていうか私の場合は旅じゃなくて逃げだったのでそんな余裕はありませんでしたし」


 うーむ……。


 見た感じ、メタルな感じはしないんだよなー。


 それなのに希少…とはこれいかに。


 スライムっていえば一番最初に出会うやつって思って生きてきたんだが……既成概念をとっぱらわなきゃいけねーのか。

 ルッカ先生はなんか知ってる?


『えっ私? 知らないわよー。私が何年蛇のお腹の中にいたと思ってるの?』


 そうだよなー。そういやルッカは何百年も閉じ込められてたんだったよな。


『なんで訂正するのよ。何年のままでよかったじゃない』


 おっとすまん。つい。

 となると、頼みはマリア様なんだけど……おーい。マリア様聞こえますか?


『聞いてますよ。スライムは人見知りが激しいのでそっとしておいてあげなさい。むやみに捕まえようとすればすぐに食い殺されます』


 えっ? さっきボン爺がスライム食べたって言ってたけど……


『おそらくスライムの”一部”でしょう。この生き物の再生能力は……私並ですから』


 はあ……


『とにかく沼地を避けてどこかひらけた場所を見つけたらそこで夜中までじっと待機していなさい。絶対に火は起こさない事。敵とみなされますから気を付けなさい』


 分かった。ありがとうマリア様、助かるよ。


『ほほほ。そこらのエルフの子供よりも役に立つでしょう?』


『……私だって知ってたもん』


『嘘おっしゃい、小娘が。それでは私は忙しいのでこれで。また何かあれば呼びなさいね』


 おお。分かりました。じゃ。


『……ねえ、レオってなんであのひとには微妙に敬語なの?』


 ん? いや別に……年上だからじゃね?


『……私も年上だもん。それなら私も敬語がいい』


 あー……っつってもやっぱマリア様って妙に威厳ある声だし喋り方だからなー。

 ルッカが変な訳してたせいでずっとひょうきん者の虫かと思ってたら”太古からこの世界に棲まう神の使い”だったんだぜ? 敬語にでもなるだろ。

 ルッカはもういいじゃん。逆に。


『それならアイゴンにも敬語使ってよー。あのひとの同期の……なんかあのひと……私にトゲがある言い方ばっかりするのにレオが敬語使うのがいや』


 ……それもうはルッカが悪かったんじゃね?

 あんな変な意訳ずっとしてたからだろ。そりゃ怒られると俺は思うけどな。


『なによー。あれけっこう分かり易く訳してあげてたのにー。私よりもずうっと年上なのに遊び心も分からないのってつまんないわよねー』


 ……っていうかさ、ルッカとマリア様とで年齢の話されてもピンとこないんだって。

 それよりも陽のあるうちに夜まで野営が出来る場所を探そうぜ。


 沼地の範囲が大きすぎるため、ボン爺が開けた場所を探すべく風を巻き起こしながら飛んでゆき数キロ先に小さくひらかた場所を見つけてきた。

 比較的みんなでくっついてないといけないがなんとか座って足は延ばせる感じだ。


 さて、これから夜を待てって言われてもなあ……と思ったが俺はマリア様と話しててほぼ昨夜から寝てなかったしみんなも早朝から活動していたせいか、沼地の湿気にそぐわぬ爽やかな風に眠気におそわれ、待機時間はあっという間に過ぎて気が付けば陽が既に落ちていた。


 一本も草木の生えていない島全体は、火を焚かずとも星の光だけで十分に明るかった。

 泥沼もきらきらと反射している。


 心地よい風も相まってゆらゆらと揺れているように見える。

 ……みえるっていうか、揺れている。

 すげえ揺れてる。


「ねぇ……泥が盛り上がってきたみたい」


 ディアーナの言う通りだ。


 視界で確認出来る限りの沼という沼が大きく揺れて盛り上がり……そしていくつものぶよぶよした人のような形となったスライムが動き出てきたのだった。

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