122.家族
俺が起き上がってボン爺たちと話しているのを見つけたメイとマールが駆け寄ってきた。
めちゃくちゃ早い。
「にーにっ! だいじょうぶ? おけがしたんだよね?」
「お怪我をさせてしまってごめんなさいっ。レオンさま! 大丈夫でございましたでしょうか?」
「大丈夫だよ。アイリスがいたから余裕余裕! 心配かけてごめん。あとマール……一体どういう心境の変化か分からないけど、俺に”さま”はいらないっての。レオンでもレオでも好きに呼んでよ」
「命の恩人だから敬称は必要かとっ! ニンゲンだと思って悪い奴だと思っててごめんなさいっ! かしこまりましたっ! 好きによばさせていただきますっ!」
「……そんな風に思ってたのかよ。別にいいよ。ルッカからは聞いてるけど、エルフって相当苦労したんだろ? 誤解ならそのうち解ければいいし」
「なんとーっ! そのうち私を売っぱらう悪の手先かと思っててごめんなさいっ。あの時に庇ってもらえなかったら私までルッカさんみたいになるところでしたっ!」
『ところどころ失礼な子ねー』
「まあまあ。ま、俺は元気だし問題ないから。それより、それそろ辺りを調べないとなー」
うるうるした涙目でべったりと俺にくっついてるメイは名残惜しいが、これも珍しく怪我した特典!
立ち上がった俺の腕にがっしりとしがみつくメイをいつもと違ってボン爺もディアーナも引き剝がしに来ない。
グッジョブだぜ、俺!
これで女風呂の件はチャラになったはずだっ‼
「うんっ! はやくママとパパにあいたいな!」
「そうだよなっ! って、へっ? どういう…」
「あっなんかメイのお家が近いみたいです。ここ」
「へっ⁉︎」
なんと、俺たちの漂着先は…ここはビュイック諸島だった。
マジで? 俺、地図見た事あるけど、かなり遠いぜ?
ビュイック諸島なんて、南も南じゃんか。
ボン爺とディアーナも驚愕の表情で言葉を失っている。
どうなってるんだよ、マールの逃げ魔法。
『そうよねー。なんか、特殊能力よね。羨ましいわ……ずるいわ。私もなんか裏技ほしいっ! レオ、何かいいスキルない?』
ルッカはもう幽霊だし、色々視えるじゃん。俺が死霊使いのスキル使ったら魔法も使えるようになったし最強じゃん。
『うーん。でも、私だって何かもっとスキル欲しいんだもん。若い子には負けてられないわっ!』
ルッカとマールがいると、何が若さなのか分からなくなってくるよな。
さてと、気持ちを切り替えてメイの家にでも行くとするか。
俺の義理父親と義理母親に挨拶しないと。
「にーにっ! こっちだよ! はやくはやくーっ」
「こら、メイ。駄目よ。レオは負傷していたんだから走らせちゃ」
引き続きディアーナが俺に優しい。なんてこった。
「まあ、大丈夫だよ。なんか結構出血したはずなのに大丈夫なんだよね。光魔法ってすごいな」
「いえ、そんな。大したこと……でも、兄様がご無事で良かったです」
地図通りなら、ビュイック諸島はかなり小さな小島の連なって出来ている。
一つ一つはそんなに大きくないはずだと思っていたら、本当に小さな島だった。
海岸をてくてくと歩いて行くと、すぐに藁で出来たような簡素な家が立ち並ぶ村に入った。
様々な姿の獣人が遠くから俺たちを気にしているように見ているのが分かる。
「わあっ‼ メイのお家っ‼ ママーっ‼ パパーっ‼」
かなり強い力で引っ張られているが、俺の腕を離そうとしないメイから俺への愛情を感じる。
……感慨深い。なんか、泣きそう。
良かった。俺、転生できて。
「……メイ? メイなのか……⁉」
「あっ! パパだぁっ! パパーっ‼」
空いている手で大きく手を振ると、喜びを隠せずにぴょんぴょん飛び跳ねるメイ。
可愛いうさ耳も思いっきりピンと立っている。
メイの父親らしき人物は、体長2mほどもあろうかという程の大きなクマだった。
クマ。
そう。見た感じ、どう考えても熊だ。
喋ってるけど、熊だ。
メイの父親は、数メートル離れている俺達の地面にまで伝わるほどの振動を立てて力強く走ってきた。
ちょっと怖い。
ディアーナも何となく腰の件に手を当ててるし。気持ちは分かる。
この迫力は、いつ戦闘が始まってもおかしくはない。
しかし、彼はメイの父親だ。敵ではない。
むしろ、大切な義理父親だ。
「メイ、お父さんなんだろ? ほら」
名残惜しい気はしたが、俺の腕に巻かれたメイの手をそっとはなし、背中を押してやる。
幼児期に誘拐されていてずっと離れ離れだったんだ。
メイも義理父親もさぞかし会いたかったに違いない。
俺に背中を押されたメイは、ダッシュで父親の元へと駆けて行った。
速い。
そして、大きくジャンプすると、父親にしがみついた。
「パパっ‼」
「メイっ! メイっ! ……本当にメイなんだな⁉ ……夢みたいだ。……おお、神よ」
メイの耳や頭をわしわしと撫でながら愛おしそうに、しがみつくメイに怪我がないか確認する姿は、残された俺達にもなにか熱いものを感じさせた。
「メイっ‼ メイなのっ⁉」
大きな躰の義理父親の姿で見えていなかったが、後ろからうさ耳を持つ獣人の若くて可愛らしい女性も駆け寄って来た。
「ママっ‼」
なんとお姉さんじゃなく義理母親っ‼
「メイっ! メイなのね……ぅぅっ……ぅぅぅぅ」
「メイ……。良かった、本当に……本当に無事で。良くぞ無事で……メイ……」
「パパ、ママ……うっ、うっ……うわぁぁぁぁぁあああああんっ」
気が付くと、村の獣人がこぞって集まって来ていた。
だけど、俺たちも含めてみな、感動の再開を邪魔しないよう、じっとその場を動かずに見守っていた。




