幕間III
装着していたFMDを外すと、冷たい空気が目元を撫でた。汗ばんでいた皮膚が乾いていく。
「…………」
激闘、と呼んでいいのかはわからない。だが、当人からすれば、確実に本気の戦いだった。
お互いに全力と全力をぶつけ合い、そして、フィアレス――亮が勝ったのだ。
総合的な実力は拮抗していた。純粋な戦闘の腕前なら雲雀が上回っていたが、亮はそれを補うゲーム的な知識があった。
双剣士の昇華能力、ダメージの計算、そして、最後の飛来剣。
いや――と、亮は自分の考えを改めた。
ラストの飛来剣は、あの時では最後の悪あがきに近かった。この『The Earth』では、対人戦のダメージ値はほぼ定数だ。そのため、最初のダメージの数値を覚えておけば、そこから自分が何発耐えられるかを計算できる。そのため、雲雀の最後の攻撃は耐えられるとわかっていた。
だが、飛来剣が手元に戻ってこられるかどうか、その確信はなかった。剣が飛び、戻ってくる条件は、相手にダメージを与えたときか、もしくは何にもヒットしなかった場合だ。
あの時雲雀が避けず、弾いてしまえばそのまま亮は負けていた。さらに技自体の飛翔距離だ。あの戦闘空間は狭かった。距離はある程度記憶していたが正確ではない。かなりギリギリだと思っていたが、なんとか足りていたようだ。
結局、最後は運だ。雲雀を圧倒できたわけではない。だが、不思議とそれが悔しくはなかった。勝ったことに変わりはないからか、それとも、彼女のそばにいる雲雀の強さに、安心しているからか。
イスから立ち上がり、窓を開けた。外気に触れると、顔にぴりぴりと刺激が走る。そのわずらわしい感覚に、自分の中の、心を焦がす禍々しい炎が燃え立つ。そのことが、亮を痛ませた。
だが、そればかり嘆いてはいられないと頭を振った。
頭の中では予感が渦巻いていた。事態は着々と進んでいる。その時が来るまで、そう時間はかからないだろう。
この日のために準備をしてきた。思い返せば悲しくなるほど、亮は『The Earth』に心酔した。来る日も来る日も、ただひたすら。
すべては強くなるために。
すべては守るために。
すべてを、懸けて。




