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第2章 まっすぐストーリー・7th Scene (2)

 7日目の、朝。

 ロイズさんは隣村に仕事があるとかで、朝早くから出かけていった。

 掃除も終わり、子供たちを迎えに行こうと、ロイズさんの家を出た。

 あ、フジサキも一緒にね。ロイズさんの秘書の仕事、今日は休みだから。


 そっか、ピスタさん達は、もういな……あれ?

 広場を見ると、まだあの荷馬車がある。


「ピスタさん!」

「おお、チヒロさん」


 広場では、ピスタさんがソールさんと話しているところだった。

 店を開けている訳ではないようだ。


「どうしたんですか? 昨日のうちに隣村に行くはずだったんじゃ……」

「ウェンデール王国より派遣された魔物討伐隊がローナ村に来るようです。村からの人の出入りをしばらく禁ずる、と言われまして……」

「えー?」


 ロイズさん、そんなこと何も言ってなかった気がするけど……。

 ロイズさんが出かけて行った後の話なのかな?


「しかし、そう長い時間ではないようなので、店を開くかどうかは迷っていましてね。ただ、出れるようになったらすぐに旅立ちたいと思います。隣村でも、私の商品を待って下さっているお客様がいらっしゃいますからね!」


 そう言うと、ピスタさんは胸を張った。

 他の町や王都の事、旅で遭遇した出来事を色々語ってくれたピスタさん達がいなくなるのは、ちょっと寂しい。

 まぁ、名残惜しいとは言っても3ヶ月後にはまた商売しに来るのだから、まだアタシがこの村にいれば会うことは出来るだろう。


「チヒロさん、これからお仕事があるのでしょう? 私どものことはお気になさらず、さ、さ」

「あ、はい……」


 アタシは会釈すると、二人の元を離れた。

 1軒目の家に向かって歩き出そうとしたら、『あ!』っと何かを思い出した表情をしたフジサキがピスタさん達の方に行ってしまった。

 何やってんだアイツ……全く、端末機が意志と体を持つと予想外の行動を取るから困る。


「フジサキ、何処行くの?」


 フジサキはアタシの呼びかけをスルーして、ソールさんに何やら話しかけている。

 最初、突然話しかけてきたフジサキに警戒していたソールさんだったが二、三言会話をした後、何故かフジサキと一緒にアタシの方を見てどこか納得したような表情で頷いていた。


 なになに? 何の話してんの? アタシには話せないことなの? 

 ハッ!! まさか、アタシの悪口? いや、フジサキに限ってそんな事……ないよね?

 信用してもいいのよね? 本当に悪口だったら、アタシ泣いちゃうよ?


「おーい! アタシ、仕事あるから先に行くからね!」


 フジサキにそう声をかける。フジサキはアタシに向かって会釈をすると、再びソールさんの方に向き直った。

 完全にハブられたアタシは、ソールさんとの会話が終わりそうにないフジサキを置いて、マルタさんの家に向かった。ルーシーが待ってるしね。


 こんな所で油を売っている暇は無い。アタシが来るのを首を長くして待っている人達がいる。

 巫女様ってのは結構、多忙なのだ。



 午前の子守りが終わり、アタシは帰路についていた。

 フジサキはいない。マルタさん家のルーシーちゃんが

「まだ遊ぶ~」

とグズってフジサキの服を離さなかったからだ。

 ちょっと時間がかかりそうだったから、「とりあえずなだめてあげなよ」と言ってフジサキをマルタさん家に置いてきた。

 さて、あの角を曲がって、ちょっと行けば村長さんの家だ。

 荷車を持ってこないとね。次は、『巫女様デリバリー』だ。


「ん?」


 村長宅の門前に、3頭の馬が路駐されている。

 荷車を出すのにちょっと邪魔な位置だな。誰か、違反切符とレッカー移動をお願いします。

 どう見ても農耕用の馬ではない。この村のお客さんではなさそうだ。


 歩調を速めて村長宅に急いだ。門付近の柵に手綱で繋がれていた馬を観察してみる。

 すると馬についた鞍に見覚えのある紋章が描かれていた。

 はて、何処で見たんだったか? うーん、思い出せない。


 首を傾げながらも門をくぐり、庭先の荷車のところに行く。

 すると、玄関先に人がいるのが見えた。白銀に輝く甲冑を着た3人組だ。

 その甲冑が太陽光を反射して、かなり眩しい。

 後光が差してるみたいで思わず、拝みたくなる様な神々しさだ。


 そこでやっと思い出した。

 この世界に来た日、森の中で魔物に追い詰められた時、魔物を撃退してくれた人達だ。

 間違いない。あの時は本当に助かった、ちゃんとお礼を言わないといけないな。

 確か、この辺一体の村々を治める領主が魔物討伐のために王都から派遣してもらったという討伐隊。

 そんな人達が、この村長宅に何の用だろう? 何かあったのだろうか?

 その中の一人が今まさに、玄関の扉をノックしようとしている。


「こんにちは、村長に御用なら今は留守ですよー」


 アタシの声に甲冑トリオが一斉に振り返る。

 うぉ、まぶしッ!


 3人の内、二人はフルフェイスのかぶとを被って槍を持っている。

 人様の家を訪問するのに物騒な連中だ。その2人に挟まれた人物だけが兜を脱いでいた。

 顎鬚を生やした厳つい、いかにも『俺は戦場で何人も敵兵をやったぜ』って感じのおじさんだ。

 眼光が鋭すぎて、一般人のアタシには刺激が強過ぎる。足が産まれたての小鹿みたいに震えそうになった。


「昼食の時間に申し訳ない。君はこの家の住人か?」

「えぇ、まぁ。住人というか、居候ですけど」

「申し遅れた。私はウェンデール王国より派遣された魔物特別討伐隊、隊長のエリック・レトリバーだ」


 キビキビとした口調で、そう自己紹介すると騎士特有の右腕を胸につく挨拶をしてくれたレトリバー隊長とその部下の人達。

 犬の品種みたいな名前ですね。ボールを投げたら喜んで取って来そうだ。

 あ、いやいや。そうじゃなかった。


「討伐隊の隊長さんが何の御用でしょうか?」

「ここに『終末の巫女』と名乗る人物がいると聞いてきたのだが、在宅しているか?」

「え? それ、アタシのことですけど……少なくともこの村の人達にはそう呼ばれてます」


 どうやらアタシに用があるみたいだ。『終末の巫女』って結構、知れ渡っているんだろうか?

 照れるね。アタシ、今話題の有名人になっちゃった。

 レトリバー隊長とは面識が全く無いけど、どんな用なんだろう? まさか、討伐隊にも『巫女様デリバリー』をして欲しいとかいう依頼だったりして……。


「そうか、お前が『終末の巫女』か。ならば、話は早い。貴様をティルバ連合のスパイ容疑で連行する!」

「は?」


 何だ。『巫女様デリバリー』の依頼じゃないのか……ん? 今この人、何て言った?

 ティルバ連合のスパイ?

 ティルバ連合……確か、ウェンデール王国と停戦状態なんじゃなかった?

 でも、停戦であって、終戦ではない……。


「ち……違います!」


 アタシは慌てて大声を上げた。

 つまり、敵国のスパイだと言ってるんだ、この人達。

 敵国のスパイが辿る末路なんて……いやいや、想像もしたくない!


「連行しろ!」

「はッ!」

「ちょっと、待って下さい! スパイって何のことですか? 何かの間違いじゃないですか!?」


 いきなり過ぎる現行犯逮捕宣言にアタシは慌てた。

 彼らが何を言っているのか、さっぱりだ。ティルバのスパイ? アタシはただこの村でアルバイトをして旅費を貯めているトリッパー女子高校生だ。

 レトリバー隊長の両脇に控えていた2人が弁解しようとするアタシを取り押さえようと槍を向けてくる。

 おい、丸腰の女の子にそんな刃物を向けるんじゃねぇやい! 騎士道は淑女を大切にするんだろ!? 村の男の子達がそう自慢げに言っていた。あれは嘘だったのか!


「お願いです、話を聞いてください!」

「何を……」

「違うんです。アタ……私は、ティルバ連合のスパイなんかではありません!」

「スパイは皆そう言うんだ!」


 うわ、何か刑事ドラマとかで聞いたような台詞……。

 この世界でも言うんだな。

 ……って、そんなこと考えてる場合じゃなくて!

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