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この情報、やっぱりカナコさんに連絡しないと駄目ですかね……。
私がそんなことを考えていると、ゾーガダスさんは苦しげに問いかけてきました。
「私たちの祖が犯した罪が、地上でどのような形で影響を与えたのか。それを知りたい。いま地上は無事なのだろうか、ファナ殿」
「へ?」
思わずマヌケな返答になってしまいました。
どうやら彼らの中では、魔なる神の召喚したデビルサモナーが跋扈し、地上が滅んでいてもおかしくないと考えているようです。
いやいや、無事ですよ地上。
「大丈夫ですよ。確かにデビルサモナーがたまに現れますが、概ね地上は平和です。いや平和ってほどでもないのかな? 魔物が溢れているのは確かですし……」
「ああ、やはり魔物が……」
うわ、ゾーガダスさんが頭を抱えて嘆き始めました。
そういえば魔神の復活の兆しでしたね、魔物の活性化は。
元をたどるとこの人達の祖先のやらかしが原因のようですが……。
「いやゾーガダスさん、気にしない方がいいですよ。祖先の罪を子々孫々まで継承する必要はないです。少なくとも私はそう思います」
「だが、すべての人が納得するわけあるまい。魔物がはびこるような地上の現状を作り出した者達の子孫として、何かできることはしなければと思っている。償いの方法を、考え続けているのだ」
うわあ。
何代にも渡って、この人達は常にそんなことを考えて生きてきたんですか。
そりゃ街も暗い雰囲気で満たされるわけですよ。
む、しかし困りましたね。
この人達が地上の様子を知らないということは……。
「あの、もしかして地上に戻る手段はないのですか?」
「……残念ながら」
えええ……それはちょっと困りますね。
ゲームクリア後に、こんな暗い街で生活する気はありませんよ?
……というかゲーム的にも、ここから地上に帰れないわけないのですよね。
なにか方法があるはずです。
「私が炭鉱から落ちてきた穴を、逆に登るのは無しですか?」
「あの暗雲の上からやって来たのですか? ……あの暗雲は無限につづいているかのように分厚く、やはり無理かと」
「ええと、じゃあこの封印の地に何か、街以外にはないんですか?」
「街以外にあるのは、魔の神の封印の楔となる六つの塔くらいなもので」
「その塔にはどうやって行けば良いんでしょう?」
その質問にぎょっとした顔でゾーガダスさんは言います。
「そんな罰当たりな! これ以上、封印に何か影響を与えるわけにはいかないのです!」
「ううん、そう言われましても……これでも善なる神に召喚された召喚士ですから、何か良い影響があるかもしれませんよ?」
「ええ!?」
あ、やっぱりこれがキーワードでしたか。
そうですよね、何百年も前から地上のことについて知らない彼らが、最近、善なる神によって多数のプレイヤーが召喚されたなんて、知るわけ無いですもんね。
「そ、それは真ですか!?」
「はい。証拠を見せろと言われると困りますが、確かに私は善なる神に召喚された召喚士ですよ」
「……ううむ。まさかそのような……しかし……」
煩悶の末、ゾーガダスさんは結論を出したようです。
「ならばファナ様には我が街で一番の戦士を付けて、塔にご案内しましょう。女性の方がいいでしょうから……ドナを呼んできてくれ」
家令の方にドナという戦士を呼ぶように命じました。
おっと、NPC同伴イベントですか。
ウルシラさん以来ですね。
素性の分からない旅人が現れて警戒していたのでしょう、ドナさんは一分と待たずに現れました。
ドナさんは私と同じくらいの身長で、ただし胸部に圧倒的な差があり、かつ筋骨隆々とまではいかなくても、ガッシリした体型の女性でした。
もちろん色白な山人族です。
鉄製の兜に鎧を身につけ、身長ほどもある戦斧を背中に吊っています。
ゾーガダスさんが立ち上がり、ドナさんを紹介してくれます。
「ファナ様、こちらが我が街の誇る戦士団の女戦士ドナです。……ドナ、そちらのファナ様は地上で善なる神に召喚された召喚士だそうだ」
「……! それは凄い」
目を丸くしたドナさんは、こちらに向き直って「初めまして。ドナです」と手短な挨拶をしました。
「初めまして、ネクロマンサーのファナです」
ネクロマンサー、のところで引っかかったようで首を傾げましたが、どうもその存在自体を知らないらしいです。
ウチの可愛い子たちを紹介するのは後でいいでしょう。
「ドナ、これから一隊を率いてファナ様を封印の塔にお連れするのだ。何か封印に影響を与えるかもしれないが、善なる神に召喚されたファナ様なら、その影響も悪くなりすぎることはないはずだ」
「は。……ファナ様、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。様は別になくてもいいですよ」
「いいえファナ様で」
どうも頑固なところは地上の山人族と変わらないようですね。




