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「君か、炭鉱の大穴からやってきたネクロマンサーとは」
「はい、ネクロマンサーのファナと申します」
門番の責任者であるらしい山人族の男性が、食い入るように私を見つめます。
そんなに珍しいんですかね、大穴から降りてくるひとは。
「あのー、何か問題がありますか? できれば街の中に入れてもらいたいのですが」
「ああいや失礼。問題はないというか、君の存在自体が問題というか。……ここ数百年もの間、地上から人が降りてきたことはなかったものでな」
「え、そんなにですか?」
「ああ……だからネクロマンサーも、山人族以外の人種を見るのも初めてで……とりあえず聞きたいのだが、何の目的でこの地底の大地に降り立ったのだ?」
恐る恐る、といった感じで上司の方は問いました。
「え? どうしてと言われましても。炭鉱を探索してたら大きな穴が空いていたので、降りてきただけでして。あ、しいて目的を挙げるなら、修行です」
「修行……?」
「はい。炭鉱は魔物の巣と化していたので」
「数百年も放置されていたのだろうから、当然だな。その……地上は無事なのか?」
「はい?」
問うている意味がよく分かりません。
「どういう意味でしょう?」
「まさか、私たちの祖が犯した罪も知らないのか」
「ええーと。はい、多分?」
「そうか……」
なにか落胆させてしまいましたが、彼らの祖先が何の罪を犯したというのでしょうか。
「ならば説明せねばなるまい。害意もないようなので、街の中に入ることは許可する。しかしまずは街の長に会ってもらいたい」
「はい、分かりました」
最初に街を訪れたプレイヤー向けのイベントということでしょうか。
まあ役得なのか、それとも単に面倒なだけかは、現段階では不明ですが、乗っておくのがゲーマーとしては正解でしょう。
◆
ガエルミュラントは山人族の街のようです。
山人族はいわゆるドワーフのような種族で、低い背丈に筋骨隆々、男は髭を伸ばし鍛冶に秀でています。
女はというと、いつの頃からかスタンダードになったロリ巨乳タイプのドワーフですね。
髭の生えた女性はやはり日本人男性には受け入れがたかったのでしょう。
いやそんな文化考察は置いておいて、ここガエルミュラントのドワーフはちょっと毛色が違います。
肌が青白くどこかどんよりとした陰鬱な雰囲気のある山人族ばかりです。
地上の街にいた山人族は職人気質で頑固者、でもお酒を飲むと陽気になるというスタンダードなドワーフ像を体現していました。
一体、何があったのでしょうか。
というかそもそも、ここはどこで、あの穴は一体なんなのか。
そんな疑問を抱えながら、街の長の館にたどり着きました。
ガエルミュラントの長の館は立派な石造りで、さすが山人族の技術の高さ、と思わず唸る造形です。
門番の責任者から館の家令に話が通り、あっという間に街の長との面会と相成りました。
「初めまして、地上から来た旅人よ。私がこの街の長を務めるゾーガダスだ」
「私は召喚士……ネクロマンサーのファナです」
ゾーガダスさんは立派な髭にやはり色白の山人族でした。
「ふむ。ネクロマンサーか」
「はい。それがなにか……?」
「ああいや。我が街、ガエルミュラントにはネクロマンサーギルドがないからな。既に聞いていると思うが、我らの祖が魔なる神の封印を破って善なる神の怒りを買って、この地に追放された折に、神々との交信が途絶えてしまったのだ」
いやいや、聞いてませんよ、そんな話!
「え、魔神の封印を解いたのはこの街の祖先の方々だったんですか!?」
「完全に封印が解かれたわけではない。地上にあった封印の要を壊してしまい、……ここ魔なる神を封じる地と繋げてしまったのだ。この街の者らはここと地上とを繋げる大穴を空けてしまった咎人の末裔なのだよ」




