8.準備万端で異世界召喚
神様が初めて来た日から12カ月。
異世界召喚されるまで、あと0か月。
ある日、わたしが道を歩いていると、突然足元に金色の魔法陣のようなものが浮かび上がった。
見ると、前方を歩いていた高校生3人も同じ魔法陣の上に立っている。
大騒ぎする高校生3人をながめながら、わたしは思った。
とうとうその時がきたらしい。
1人が勇者で、あと2人は聖騎士と聖女なんだろう。
そして、わたしが巻き込まれた一般人。
わたしたち4人を乗せて、どんどん光を増す魔法陣。
その光景は、想像していたよりもずっとファンタジーだ。
そして、いきなり目の前が暗くなったと思うと、わたしは真っ白い空間に立っていた。
ここはどこだろう、とキョロキョロしていると、
「美月。よく来たね」
聞き覚えのある声がうしろから聞こえてきた。
振り向くと、そこには久し振りに会う神様が立っていた。
いつもの白っぽい現代服ではなく、ギリシャ神話に出てくる神様のような服装をしている。
わたしは思わず駆け寄った。
「こんにちは。神様。ここでわたしはスキルをもらうんですか?」
「ああ、そうだよ」
わたしの問いに、神様はゆっくりとうなずくと、どこからか金のメダルのようなものを三枚取り出した。
「これがスキルだ。一番右側が<忍者>。他の神様に相談したら、隠密と変身は<忍者>でいいんじゃないかってことになって、1つのスキルになった。それと、こっちが<経験値20倍>。そして、最後が<幸運100倍>」
最後の<幸運100倍>を聞いて、わたしは思わず噴き出した。
「20倍も大概ですけど、100倍って明らかにチートですね」
神様は無言でニヤッと笑うと、わたしの首元を指差した。
「あと、君のしてるネックレス。特殊効果を取り消した状態で良ければ、向こうに持って行ってもいいよ」
わたしは、ネックレスを握りしめた。
思い込みとはいえ、このネックレスには本当にお世話になった。
「じゃあ。頂きます。ありがとうございます」
神様は軽く頷くと、少し寂しそうな顔をして言った。
「さて。質問がなければ、君はこれから異世界召喚されることになる。何か質問はある?」
「1つあります。神様が最初に来た時、わたしがこの世界で " ちょっとばかり大きな功績を残すことになってる " って言ってたと思うんです。それって、何だったんですか?」
神様の言葉がずっと気になっていたのだ。
今はまだしも、12カ月前のわたしは、悲観的で諦めの早い臆病な人間だった。
そんな人間が、”ちょっとばかり大きな功績”なんか残せたんだろうか。
神様はにっこりと微笑んだ。
「君はね、10年後に突然部屋の片づけを始める予定だったんだ。その時に、色々決心してね。会社を辞めて、家族と決別して、海外に長期旅行に行くんだ」
わたしは目をパチクリさせた。
もしかして、この12カ月でやったことを、10年後にやる予定だったってこと?
わたしの心を読んだように、神様が頷いた。
「その通りだよ。そして、11年後、君は自分の体験を元に小説を書くんだ。それが異例のヒットになってね。ドラマ化されて、多くの人が生きる勇気を与えられるんだ。・・・ね? ちょっとした大きな功績だろう?」
わたしが黙って頷くと、神様は微笑みながら掌をわたしに向けた。
「それでは、行ってくると良い。人生に幸あらんことを」
その瞬間、目の前の神様が消え、意識が遠のき……。
気が付くと、わたしは教会のような場所の冷たい地面に座り込んでいた。
「やりましたな!」
「勇者様達の召喚に成功したぞ!」
どっと沸き起こる歓声。
周囲を見回すと、見たことのない服装の大人たちが涙を流しながら盛り上がっている。
そして、前方から、第1王子と思われる顔立ちの整った男性が、微笑みながら近づいて来た。
彼は手を差し出すと、これ以上ないほど美しく微笑んだ。
「ようこそいらっしゃいました。勇者様方」
これで完結です。お付き合い頂きありがとうございました。
実は、この話の半分は実話で、私は園子のポジションにいた人間です。
ある日意を決して家族や会社のしがらみを捨て、外国へ旅立っていった友人に感銘を受け、この話を書きました。
気が向いたら、この続きを閑話的な感じで投稿しようと思います。




