4.寿命が1ヶ月延びました
神様が来た日から2か月。
異世界召喚されるまで、あと10ヶ月。
会社を辞めてから1週間、わたしは何となくボーっと過ごした。
やり切ったという思いと、やっぱり迷惑をかけたんじゃないかという罪悪感、今までされたことへの恨みが入り混じって、何だかモヤモヤしていたからだ。
しかし、異世界召喚まで限られた時間しかないという事実が、わたしを現実に引き戻した。
悩んでいても、モヤモヤしても、前向きに努力しても、時間は同じように過ぎていくのだ。
だったら、前向きに努力しよう。
そう考えながら、わたしは思った。
神様のネックレスは、もしかしたら、人を前向きにする効果があるのかもしれない、と。
そんなわけで、わたしは次々と習い事の体験レッスンに通い始めた。
流川先生に勧められたウオーキングレッスン、マナー教室、表情レッスン、話し方レッスン、ヨガ教室。流石は神様に効果20倍の特典をもらっているだけあって、わたしはどこに行っても「筋が良いですね!」と、褒められていた。
今まで褒められたことがほとんどないので、なんだかとてもくすぐったい。
この2カ月の成果は、
・8kgのダイエットに成功して、「太め」になった
・メイクが上達し、素早く綺麗になれるようになった
・生活態度の改善で、肌がつやつやになってきた
・歩き方や食べ方など、所作がキレイになってきた
鏡を見ると、自分でも驚くほどの変身ぶりだ。
ちょっとだけ「もっと早く頑張っておけばよかった」と思った。
*
その日の夜、わたしはネットで習い事を検索していた。
そろそろ異世界スキルにつながるような習い事をする必要がある、と考えたからだ。
「でも、異世界スキルにつながる習い事ってなんだろう」
武道系の習い事は、多分スキルにつながるんだと思う。
でも、魔法系はなにをすればスキルになるんだろうか。
わたしがウンウン悩んでいると、
ピンポーン
あの日の夜のように、インターフォンが鳴った。
開けると、そこには前と同じようにケーキの箱を持って立っている神様がいた。
神様はにっこり笑った。
「そろそろ相談したい頃なんじゃないかと思って来てみたんだけど、見違えたね!」
「ありがとうございます」
わたしは、照れて下を向いた。
自分でも変わったと思うけど、神様に言われると物凄く嬉しい。
前のように家に招き入れ、わたしがお茶を淹れて戻ると、神様はケーキの箱を開けた。
「これ、糖質制限ケーキだって。味は少し落ちるけど、夜食べても太りにくい」
さすがは神様、何でもお見通しだ。
わたし達はケーキを食べながら、今後の話をした。
「今、習い事を何にしようか悩んでいたんですよ」
「そうだね。そろそろ何か特技的なものを身に着けた方が良いよね。攻略本は見てみた?」
「はい」
この2か月。わたしは攻略本を読み込んだ。
わたしの召喚される世界は、剣と魔法の世界らしく、文明の発達具合は中世程度。よく見かけるラノベの設定と大体同じ感じだ。
「学ぶなら、剣とか魔法なのかなと思うんですけど、この世界でどうやって学んだら良いのか分からなくて」
わたしの問いに、神様が首を傾げた。
「君、自分のページ見てる?」
「……いえ、見てないです」
「どうして? 自分のステータスを確認することは重要だよ?」
わたしは、自分が城から追い出されて野垂れ死にする、というショッキングな文言を見るのが怖くて、どうしても、自分のページが見れないでいた。
その気持ちを察してか、神様が明るく言った。
「じゃあ、一緒に見てみようよ。何か変わってるかもしれないよ?」
そう言われたら見ない訳にもいかない。
わたしは、軽く息を吸うと、思い切って人物紹介の自分のページを開いた。
すると、そこには意外な変化があった。
2カ月前は、こんな感じだった。
『勇者の異世界召喚に巻き込まれて来た一般人。冴えない容貌と有用なスキルがないことから、城のメイドとして働く。しかし、4カ月後に無実の罪を着せられて城から追い出され、荒野で野垂れ死ぬ』
『スキル:<雑務処理>、<読心術>、<楽器演奏>』
それが、今は。
『勇者の異世界召喚に巻き込まれた一般人。戦闘用スキルがないが、美容に関する知識が深く、貴族専属の美容相談役になり、多くの支持を集める。しかし、5か月後に無実の罪を着せられて城から追い出されて、荒野で野垂れ死ぬ』
『スキル:<雑務処理>、<読心術>、<楽器演奏>、<美の伝道師>』
わたしは目をパチクリさせた。
荒野で野垂れ死ぬことに変わりはないけど、1ヶ月延命された上に、何かちゃんと仕事してるっぽい。
目を上げると、神様がにっこりした。
「良かったね。この2カ月で、ちゃんと成果出てるじゃない」
「でも、わたし、そんな<美の伝道師>なんて・・・・・」
「経験値20倍と能力アップの威力を舐めちゃ困るよ。それに、君、がんばってるじゃないか。その努力が実を結びつつあるってことだよ」
わたしの目に涙が浮かんだ。
野垂れ死ぬルートは変わらないけど、こんな風に成果が出るのは、生まれて初めてだ。
というか、もしかすると、ここまで何かを頑張ったのは初めてかもしれない。
涙をぬぐうわたしを、神様はまぶしそうな目で見ると、話を続けた。
「でだ。美の勉強は続けるとして、次の1手だよね。君はどう考えてる?」
「攻略本を読む限り、この国の王城って王族の力がすごく強いみたいなんですよね。だから、王族に保護してもらうようなスキルが欲しいなって」
「ふむふむ」
「あとは、護身術的なものは必要かなって。となると、やっぱり魔法か剣」
神様は少し考えると、口を開いた。
「そうだな。王族に取り入るなら、やっぱり美容系のスキルを磨くことが一番じゃないかな。護身術に関しては、剣だったら剣道。魔法なら寺での修行、なんかが良いと思う。君が本気でやれば、数カ月でスキル化できるところまで持っていけるかな」
わたしは思わず顔をしかめた。
反射神経を必要とする運動は苦手だ。
わたしの顔を見て、神様はクスリと笑った。
「大丈夫だよ。今の君は能力補正がかかってるから、大抵の運動は才能があるはずだよ。あとは、手に職系のものなんか良いかもしれない」
神様はにっこり笑って立ち上がった。
「とりあえず、またキリの良いところで来るよ。それまで、がんばって!・・・・・それとさ、そろそろ引っ越したら? ここって女の子の住むところじゃないよね? それに、そろそろ来るよ?」
*
神様が帰ったあと、わたしは改めて部屋を見回した。
木造2階建てアパートの2階。壁が薄く、廊下も外から丸見え。セキュリティは鍵1つのみ。
周囲は工場が多いため、夜は人通りが少ない。
まあ、確かに安さに惹かれて選んだけど、独身の若い女性が住む感じでもないよね。と自分でも思う。
それに、この2カ月来なかったのが異常であって、神様が言う通り、そろそろアレが来てもおかしくない。
わたしは、パソコンに向かうと、住みたい家の検索と、武術を教えてくれる教室を探し始めた。
今までは引っ越そうとは思いながらも、面倒で先延ばしにしてきたけど、もう先延ばしは止めよう。
「あ、この家良いな」
その日、わたしは夜遅くまでパソコンの検索を続けた。




