第90話 秘密基地
魔物の死体処理をしているうちに、六日目の朝を迎えてしまった。死体処理を終えてテントに戻り、ベッドの上で横になった次の瞬間、なんと夕方になっていた。疲れ切っている自覚はあったが、こうなるとまでは思っていなかった。
幸いにも、しばらくの間は魔物達も大きな動きは出来ないだろうと、今日と明日の朝の巡回警備は免除されていたので、起きてすぐに慌てることにならずにすんだ。テントの外に出てみると、拠点の雰囲気がいつもより少しだけ穏やかになっていた。
「あ、ヒロアキ。やっと起きたんだね。まあ、昨日は大変だったし無理もないか。ああ、そうそう、それとね。昨日の戦いとその後始末の両方に参加していた人は、まだ疲れているだろうから、今夜の見張りはなしで良いってさ」
やっと少しゆっくり出来るねえ。アンヌはそう言ってぐっと背伸びをした。オレはアンヌから渡された軽食を口に運びながら、沈みゆく夕陽と暗くなって姿を見せ始めた星々を見つめた。よく晴れていて空気も澄んでいるから、今夜は特にきれいな星空が見られそうだ。
しかし、昨夜の戦いで活躍した『ガマガエル君四号』、あれには驚かされた。ベルンブルクの人型の機械兵を、独自に改造したものなのだろうが、ドワーフ族の技術は門外不出のはず。一体どうやって改造したのだろうか。
軽食を食べ終えた時には、夕陽はほとんど沈んでいた。かがり火が風に揺られながら、拠点の暗闇を照らしている。だが、わずかに残っている暗闇の中を、誰かがこそこそと素早く歩いていくのを、オレは偶然にも目にした。
後ろ姿からしておそらく人間だと思うが、暗くてよく見えなかったので断言は出来ない。なので、オレとアンヌは不審な影を追うことにした。不審な影はこちらの存在に気付いた様子もなく、拠点の指令室の裏側に、まるで隠すかのように設置されたテントに入った。
何故こんなところに、こんなテントがあるのか。武器なら用心のために常に持ち歩いているから、万が一戦うことになったとしても問題はない。アンヌがハンドサインを出した。やはり、彼女もテントの中へ突入する気のようだ。オレ達は忍び足でテントに近付き、一気にテントの中へ突入した。
「うわあっ。え、何、誰。ああっ、待って。誤解しないで。秘密基地で秘密の研究をしていただけで、怪しいことは何もしていないんです。本当です、信じて下さい!」
テントの中にいたのはメリッサだけだった。彼女は慌てふためいて、何の弁明にもならないことを口にしてしまっていた。テントの床にはたくさんの機械部品が散らばっていて、隅の方には工具と何かの設計図が乱雑に置かれていた。
「何となく想像はつくけど、あえて聞いておくね。ここで何を作ろうとしていたんだい?」
「むふふ、よくぞ聞いてくれました。ズバリ、『ガマガエル君四号』の改造パーツです。今は改造パーツに使う材料を研究して――ああっ、待って。帰らないで。話を聞いて!」
アンヌの問いに嬉々として答えるメリッサに、完全に呆れたオレ達はテントから出ようとしたが、彼女に泣きつかれてしまったので、しょうがなく彼女の話に付き合うことにした。自分のテントに戻るのは、遅くなりそうだ。
次回は12月15日に公開予定です。
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