第81話 不穏な動き
新世界暦一〇一年十二月。アンカラッドの住民は、新年を祝う聖夜祭の準備に追われていた。この時期はあらゆる物資の需要が高まるが、特に食材と木材はその傾向がいちじるしく、当然ながら開拓者ギルドに届く依頼も、その多くがそれらの調達を依頼するものになってくる。
今、オレ達『暁の至宝』が、北東開拓前線へ向かう準備をしているのも、そのことが大きく関係している。北東開拓前線は『白銀の塔事件』の終結、『永遠の炉火』の破壊によって邪神の呪いから解放され、新たに開拓が可能となった土地である。そこには、手つかずの資源が山ほどある。
「みんな、北東開拓前線への遠征の日程が決まったわ。期間は移動日を含めて二週間。出発は三日後よ。もう知っているだろうけれど、今の時期、アンカラッドから北の地域は地獄のような寒さだから、防寒具の用意はしっかりしておくこと。いいわね?」
キャロラインはテーブルの上に地図を広げ、依頼書の束を置いた状態でそう言った。メンバーの反応はそれぞれ違ったが、その中でも特に、アンヌの気合の入った表情が目立った。キャロラインはアンヌの顔を見て、一瞬だけ微笑み、すぐにテーブルの上に視線を戻した。
「私達『暁の至宝』が今回受けた依頼は二つ。一つは食材と木材の調達。これは今の時期、よくあるものね。問題はもう一つの方で、これがちょっと面倒なことになりそうなのよね」
レベッカがキャロラインの手元に紅茶を置いて、すぐに別のテーブルへと走り去った。開拓者ギルドの中は時期が時期だけに、非常に混雑していて騒々しい。忙しく走り回るレベッカの背中を、キャロラインはちょっとの間だけ見守っていたが、またすぐに話に戻った。
「どうして面倒なことになりそうかっていうのはね。北東開拓前線から東南東の位置にある、竜王諸島っていうところに生息するドラゴン達が、最近になって活発な動きを見せているの」
ドラゴン。神を除けば、この世界で最強と考えられている種族だ。その鱗はあらゆる攻撃を弾き返し、その爪と牙は鉄すらもたやすく切り裂き、その翼は超長距離の移動を可能にする。
だが、何よりも恐ろしいのは、口から吐き出される炎や冷気の方だと言われている。その威力は極めて強力で、まともに受ければまず助からないという。過去のドラゴンとの戦いで最も開拓者の命を奪ったのは、この特殊な吐息だと記録されている。
「新たな縄張りが得られそうとなると、強欲かつ強引になるのはどこも同じね。ドラゴン以外にも、ゴブリンやオークも動きが活発になっているし、ドワーフ族とエルフ族は軍と開拓者を派遣したわ。現地ではまず間違いなく、揉めごとになるわ。覚悟しておきなさい」
キャロラインはため息をつきながら、依頼書の束を広げた。依頼のほとんどは食材と木材の調達なのだが、それだけに一枚だけ、他とは大きく内容が異なっているのでよく目立つ。『北東開拓拠点の防衛及び周辺警備』。キャロラインが言う問題の依頼はこれだろう。確かにこれは、厄介そうだ。自然とオレもため息が出た。
次回は10月13日に公開予定です。
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