第77話 謎の人物
まさに驚愕の一撃だった。ひび割れた床の上でカネキは、白目を剥いて大の字になっていた。戦いが終わったのだ。後始末はたくさんあるだろうが、これでひとまず落ち着ける。そう考えていたら、下の階からどたばたと、複数の足音が聞こえてきた。
「やっと追いついたわ。エマニエルちゃん、ヒロアキくんの手当てをお願い。ドワーフ騎士団と開拓者の皆さんは、反逆者の捕縛をお願いします!」
キャロラインは最上階に上がってきてすぐに、次から次へと指示を出していった。指示を受けた者達の動きは素早く、ドワーフ近衛兵は一人残らず捕縛されていく。オレはエマニエルの手当てを受けながら、どうやって石板を破壊するか考え始めていた。
「何を終わらせようとしているんですか。まだ何も終わってはいませんよ。ええ、そうですとも。終わらせて、たまるかあ!」
気絶していたはずのカネキが、異様な雰囲気を放ちながら絶叫した。その狂気に周囲が動揺している間に、カネキは懐からある物を取り出した。それは虹色に輝く美しい宝石のような物だった。
「カネキ、どうしてお前がそれを持っているのかしら。それがどういうものなのか、お前だって知っているはずよ。なのに、何故お前は正気でいられるのかしら?」
冷静なキャロラインの言葉を聞いて、オレはあることを思い出した。正式な開拓者になったあの日、スティーブンから教えられた、触れた者を発狂させる特殊な石。今、カネキの手にあるそれが、まさにその特殊な石なのだと気付いた。
「ええ、知っていますとも。ですが、貴方は知らないでしょう。この石の正体を。そして、隠された本当の力を!」
カネキは虹色に輝く石を高く掲げた。すると、石が放つ光がより一層強くなった。石はカネキの手からふわりと浮き上がり、フロアは虹色の光で満たされた。しかし、そんな中で不気味な影が一つ、虹色の光を遮るような形で、何の前ぶれもなく出現した。
「馬鹿な、早過ぎる。どうしてこんなに早く――!?」
カネキの言葉は最後まで続かなかった。口から血を吐き出し、床の上に崩れ落ちた。同時に、石が光を放つのをやめ、不気味な影の正体が分かった。全身を漆黒のローブで覆い隠し、顔に黄金の仮面を着け、手にしている黄金の杖の先端には、赤黒い光を放つ宝玉があった。
「愚か者め。これだけのことをしておきながら、気付かれないとでも思ったか」
腹の底まで響く重々しい声だった。男だろうか。いや、魔法で声を変えている可能性もある。謎の人物は黄金の杖の先端を、周りに誰もいなくなった巨大な石板に向けた。そして、宝玉から放たれた赤黒い閃光が、巨大な石板を貫き、轟音と共に粉々に破壊した。
「げほっ、ごほっ。何だい、あの馬鹿げた威力は。あいつは一体、どんな魔法を使ったのよ!?」
「あれはおそらく、闇の元素の魔法です。しかも、かなり上位の。それにあの人、詠唱を全くしていなかった――!」
四方を漂う煙の中で、動揺するアンヌと戦慄するエマニエルの声が、他の者達の声に混じって聞こえてきた。やがて、徐々に視界が晴れてくると、謎の人物は姿を消していた。あとに残されたのは、粉々に破壊された巨大な石板と、謎の人物に殺害されたカネキの死体だけだった。
次回は9月15日に公開予定です。
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