第63話 マリーナ(4)
夕食の後片付けが終わった頃、マリーナが『賢者の箱』を手に困り顔で、オレとマキナに駆け寄ってきた。そして、アンヌとエマニエルと共に、『賢者の箱』で遊ぶことになったのだが、これがまたなんとも難しい。
このおもちゃは、木や金属でできた何十ものパーツが、複雑に組み合わさってできた、いわば知恵の輪を立体的なパズルにしたものだ。五人で何度も、ああだこうだと知恵を出し合ってみたものの、パズルが解けそうな気配は全くなかった。
そうやって苦戦している間に、マリーナの体力が尽きてしまったので、別室から戻ってきたグスタフが、マリーナをお姫様抱っこで寝室まで運んだ。その後、宿へ戻ろうとしていたオレ達に、話しておきたいことがあると言ってきた。
「あの子は不憫な子でな。もうすぐ一年前のことになるか。あの子の両親は開拓者だったんだが、魔物との戦いで命を落としてしまってな。その後、あの子は親族の間でたらい回しにされ、最後に行き着いたのが俺のところだ。――どうか、これからもあの子と仲良くしてやってくれ」
悲しみの表情でそう語ったグスタフに、反対の声を上げた者は、当然ながらいなかった。それを見たグスタフがほっとした顔をしたところで、「私も別件で言っておきたいことがあるわ」と、キャロラインが挙手しながらそう言った。グスタフは表情を引き締め、無言のまま頷いた。
「本当は宿に戻ってから言おうと思っていたけれど、やっぱり今言っておくわ。――カネキ一派が釈放されたわ。『保守派』が関わっていることは確認済みよ。奴ら、そう遠くない内に何かしらの行動を起こすつもりね。それともう一つ」
キャロラインの顔がますます険しくなった。彼女の視線の先にはマキナがいる。マキナは視線に気が付いているようだが、初めて会った時のような、冷静で淡々とした態度でいた。
「カネキ一派と『保守派』が、私のことを狙っている。そう言いたいのですね。キャロライン様」
「そういうこと。旧ベルンブルクが滅亡する直前に、貴方と共に封印されたという、『永遠の炉火』の行方が分からない以上、せめて貴方だけでも確保しようって魂胆ね。自分達以外に、『永遠の炉火』の力が渡らないように」
部屋の空気が重くなり、沈黙に支配された。ほんの少ししてから、沈黙を破ったのはグスタフだった。
「実はな、機密漏洩と先日の強行命令に対して、アンカラッドの開拓者ギルドは調査員を派遣してきた。ベルンブルクの騎士団と連携して、今回の一連の事件を調査するつもりのようだな」
「グスタフからそのことを聞いて、私も機密の漏洩先について考えてみたのよ。それで、ブルク・ダム遺跡攻略に関わった魔法使いの内、その何人かは機密を知っていた可能性が高いと思ったわ」
キャロラインの言葉を聞いて、エマニエルは体をビクッと震わせた。それを見たキャロラインはすぐに、「大丈夫よ。貴方が関わっていないことは分かっているから」と、苦笑しながら言った。
「種族的に魔法の扱いが苦手なドワーフ族が、大扉の複雑な魔法をどうにか出来るとは考えにくいから。そのためにアンカラッドの魔法使いと、おそらく何かしらの取引をしたと考えられるわ」
証拠がない以上、動きようがないけれどね。キャロラインはため息をついた。それからオレ達は、もやもやとした気持ちを抱えたまま、グスタフの家を後にして宿へと戻ることになった。
次回は6月30日に公開予定です。
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