第50話 崩落
巨体がゆっくりと床に沈んでいく。オレが素早く離れると同時に目の光が消え、閉ざされた地下空間の隅々まで轟音を響かせて、『ガーディアン』は永久に停止した。しばらくの沈黙の後、歓喜の声が次々と上がった。
疲れ果てて座り込んだオレの元に、エマニエルが真剣な顔で走ってきた。怪我をしていたら魔法で治そう、と思っての行動だろう。そんなに大した怪我はしていないが、彼女の優しさは素直に受け止めよう。そう考えていた矢先だった。
ミシミシ。パキパキ。仰向けに倒れて停止した『ガーディアン』を中心に、不穏な音と共に床にヒビが走り、徐々に沈み込み始めた。まさか、床が崩れ落ちようとしているのか。だとしたらまずい。オレはもう逃げられそうにないが、せめて、エマニエルだけでも――!
「エマニエル、こっちに来るな。戻れ、戻るんだ!」
オレは必死にそう叫んだが、遅かった。彼女がオレの言葉を聞いて、どうするべきか迷い立ち止まった直後、一気に床が崩れ落ちた。体を支えていたものがなくなって、オレはエマニエルと、そして『ガーディアン』の残骸と共に、底の見えない暗闇の中へと落ちていった。
――暗闇の奥へと落ちていく最中、オレは死を覚悟していた。だが、見覚えのある金色の光が、再びオレの体を包み込んだ。視界の端にいるエマニエルが魔法の杖を振ると、彼女もまた金色の光に包み込まれた。そして次の瞬間、強い衝撃が全身を襲った。
肺の中の空気を全て吐き出し、意識を手放してしまいそうになったが、寸前で再び掴み取って起き上がった。全身の痛みに耐えつつ周囲を見渡すと、五メートルほど離れたところにエマニエルが倒れていた。
彼女も負傷はすれど気絶はしなかったようで、ゆっくりと起き上がってオレの顔を見るなり、すぐさま安堵の笑みを浮かべた。オレは何とかフラフラと彼女の元へ歩いた後、回復魔法をかけてもらいながら、光が差し込んでくる方を見上げてみた。
オレ達が今いる場所は丸い筒の底のような場所で、壁のどこを見ても梯子や階段はなく、あるとすればどこにつながっているか分からない一本の通路だけだった。あとは中央に崩れ落ちた床のがれきと、『ガーディアン』の残骸があるくらいか。
「ヒロアキさん、ここを見て下さい。ここに書かれている文字は元素魔法語です。意味は『永遠への鍵、ここに封じる』。ううむ、これは意味深ですねえ。気になりますねえ。調べたいですねえ。ヒロアキさん、どうしますか!?」
あ、変なスイッチが入っちゃった。いつの間にか回復していたエマニエルが、好奇心と期待で瞳を輝かせていた。こうなってしまうと、彼女に何を言っても無駄なのは、今までの付き合いで分かっている。なので、オレの方が折れることにしたのだった。
次回は3月31日に公開予定です。
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