第31話 流れ星の子
キャロラインからチーム加入の条件を出されてから、あっという間に一週間が過ぎた。あれからオレは、アンヌと共に配達の手伝いで町中を走り回ったり、エマニエルと一緒にギルドの倉庫の清掃で埃まみれになったりと、実に様々な依頼を受けた。今日はジャックとペアを組んで、再び大量発生したブルースライムの討伐をしていた。
「ああ、面倒くせえなあ。倒しても倒しても、すぐに次から次へと湧いて出てきやがる。おい、ヒロアキ。お前の方は今どうなっているんだ。俺はさっき、やっと半分くらいってところまでいったんだが、また増えやがった。ああ、クソッタレ。本当に面倒くせえなあ」
ジャックはブルースライムの討伐を開始してから、最初の三十分くらいは黙々と真面目に作業をしていたのだが、段々と愚痴を言うことが増えてきていた。仕事中の態度としては良くないが、口には出さないだけで、オレもジャックと同じ気持ちだった。とにかく終わりが見えてこないので、うんざりしてきているのだ。
それにしてもどうして、オレ達以外の開拓者がこの場にいないのだろうか。ブルースライムの数が多くて、二人だけではかなりの時間がかかってしまう。今の時刻は正午を少し過ぎたところだが、このままだと夕方遅くになっても終わらないだろう。とりあえず、ジャックにそのことを伝えてみた。
「そんなこと言われなくても分かってんだよ。俺達以外いないのは、西の開拓前線で『星の円卓』の連中が、好き勝手なことばかりしてるせいで、前々から人手不足に悩んでるってのに、それがさらに悪化しちまったからだよ。って、転生したての『流れ星の子』のお前が知ってるわけねえか。悪かったよ」
ジャックは作業の手を止めた。この炎天下の中、終わりの見えない肉体労働をするのは、精神的にもやはり辛かった。なので、少し休憩することにして、その間にあることを質問することにした。それは前から何度も耳にしている『流れ星の子』についてだ。すると、オレの質問を聞いたジャックは驚いたような、あるいは呆れたような表情を見せた。
「お前さあ、さすがにそれは知ってると思ってたぞ。しょうがねえなあ。『流れ星の子』っていうのはな、簡単に言うと、生みの親も育ての親も存在しない、さらに過去の記録と記憶も存在しない、まさにお前のような奴のことだ。お前さあ、情報収集とかちゃんとやってんのか。これは一般常識なんだぜ?」
ジャックの生意気な言い方には腹が立ったが、情報収集がおろそかになっていたのは事実だ。転生してから今までずっと忙しかったから、などというのは言い訳にもならない。だが、情報収集といっても、具体的にどうやっていこうか。
そうだ、この機会にジャックともっと交流を深めてみよう。聞きたいことをもっともっとたくさん聞いてみよう。オレは急いで聞きたいことを次々と頭の中に思い浮かべては、それらをちゃんとした質問の形になるように整理しようとした。
「お前ってさ、マジで運が良いよな。普通はそこまで何でもかんでも上手くはいかないんだぜ。むしろ逆に、どっかで野垂れ死ぬか、犯罪に手を染めることの方が多いくらいだ。それくらい『流れ星の子』は社会的に不安定な立場なんだぜ。――俺だって、キャロラインさんに出会ってなければ――」
しかし、オレがあれこれ考えている内に、ジャックはそう言って先に作業を再開してしまった。最後の呟きの意味を知りたかったが、彼の暗い表情を目にした瞬間、さっきまで考えていた質問も含めて、聞こうという気は完全に消え失せてしまっていた。
次回は9月24日に公開予定です。
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