第26話 ゴブリンの群れ(3)
剣ゴブリンCが倒された後、若い二人の助っ人を牽制していた槍ゴブリンBは、剣ゴブリンAを助けて逃げようとした。だが、剣ゴブリンAはもうすでに死んでいることを知ると同時に、若い二人の助っ人に追いつかれ、そのまま抵抗することも出来ずに殺された。
「おかしい。ある程度以上の期間、一つの場所で活動するような群れならば、少なくともあと何体かはいるはずだ。みんな、分かっているとは思うがまだ気を抜くなよ。戦利品の回収も迅速に終わらせるように!」
戦闘が終了してすぐにアレックスはそう言うと、剣ゴブリンCが使っていた剣を拾い上げた。それからオレ達は、戦利品の回収という名の死体漁りを開始した。人間に近い姿をしているからだろうか、ブルースライム討伐の時よりも遥かに気分が悪い作業になった。
罪悪感で吐きそうだ。でも、生きるためにはやるしかない。これは仕方がないことなんだ。心の中で自分にそう言い聞かせながら手を動かしていると、突然、アレックスが大きな声を上げた。
「みんな、これを見てくれ。ゴブリン金貨だ。このゴブリン、やはりこいつらの中ではリーダーだったようだな。この金貨一枚だけで、今日の全員分の交通費を支払っても、かなりのお釣りが出るぞ!」
大喜びでそう口にしたアレックスの右手には、太陽の光で輝く一枚の小さな金貨があった。オレ達はその黄金色の輝きに心を奪われ、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ気を緩めてしまった。そのほんの一瞬が取り返しのつかない事態を招いてしまった。
全員が金貨の輝きに目を奪われていると、唐突に誰かが呻き声を上げて地面に倒れた。オレは誰が倒れたのか慌てて確認すると、若い二人の助っ人で先輩と呼ばれていた方の男が、背中に短い槍が突き刺さったまま、俯せの状態で地面に倒れていた。
オレは状況が理解出来ず棒立ちになったまま、赤い水溜りが広がっていくのをただぼんやりと見ていた。すると、誰かに右手を強く引っ張られてその場に倒れそうになり、その直後に腰に鋭い痛みが生じた。矢だ。弓ゴブリンが後ろから攻撃してきたのだ。
立て続けに今度は弓ゴブリンとは反対の方向から、剣ゴブリンDと槍ゴブリンCが茂みから飛び出し、二体同時にアレックスに襲いかかった。オレの右手を引っ張ったアンヌは、エマニエルに負傷したオレの治療をするように指示しながら、弓ゴブリンに向かってクロスボウを素早く構えて矢を放った。
しかし、機敏な動きでアンヌの矢を避けると、そのまますぐに弓矢で反撃してきた。狙いはオレだ。オレに対する弓ゴブリンの明確な殺意に、恐怖で体が硬直して動けなくなりそうだったが、なけなしの勇気を振り絞って体を無理矢理動かし、ギリギリ反撃を回避することが出来た。
だが、体を無理矢理動かしたせいで、矢が刺さっているところの痛みが酷くなってしまった。そのことに気付いたエマニエルは、すぐに魔法による治療を始めてくれたが、戦況は悪くなるばかりだった。
次回は7月16日に公開予定です。
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