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第152話 魔法研究室

 目の前の光景ほど、残酷なものを今まで見たことがない。少なくとも、オレは。取り返しのつかない現実を前に、オレ達の誰もが絶句していた。二人の哀れな子供が苦しそうに息をする時の、ひゅうひゅうという音だけしか聞こえなかった。


「何よ、これ。アンタ、これはどういうことなの?」


「見ての通りよ。オードリー・モンローが禁忌を犯して、エルフの子供とブルースライムの生命を融合していたのよ。どうしてこんな事をしたのか、あいつを問い詰めないといけない。でも、その前に」


 掠れた声で問うアンヌに、ツバキは怒気を含んだ声で答えつつ、床に片膝をついて二人の子供と目線を合わせた。すると、片方の子供の目に理性の光が戻った。初めは口をぱくぱくさせるだけだったが、次第にはっきりと言葉を紡ぎ出した。


「悪い奴らが、俺と弟を、こんな姿にしたんだ。あいつら、幻覚の魔法で、誘き寄せていたんだ。俺、いなくなった弟を探して、それで」


 不意に兄の言葉が途切れた。がくん、と頭が下がって動かなくなった。何の反応もしなくなった。弟の方も相変わらず意思疎通が出来ないままだ。それから兄弟は虚ろな目で、体をゆらゆらと揺らすだけだった。


「残念ですが、限界がきたみたいです。ほんの一瞬でも理性を取り戻せた事自体、この子達の状態を考えると、奇跡以外の何ものでもありませんから」


 エマニエルはそう言ってすぐに俯いてしまった。これから起きること、その結末が分かっているからだろう。ツバキも、オレ達も、兄弟からゆっくりと離れていく。そして、こちらの動きの意図を察知したのか、兄弟はそろって顔を上げた。


 濁った瞳で見つめ返された時、オレは歯を食いしばって剣を抜いた。それが合図だとでもいうように、兄がオレに、弟がツバキに襲いかかった。時間が奇妙に遅く流れ出す。その中で、オレは最も慣れ親しんだ動きをした。


 オレの右腕が、剣の先端が、兄の胸元へと伸びていく。そして、手に硬い感触が伝わってきたのと同時に、時間の流れが元に戻った。兄は声もなく床に崩れ落ち、人としての形を保つことなく、床に吸い込まれるかのように消滅してしまった。


 ツバキに核を破壊され、弟の方も同様の最期を迎えていた。ツバキは剣を鞘に納めると、目を閉じて黙祷を捧げた。そして、あまりにも重々しい沈黙の後、全員で研究室を隅々まで調べることにした。


 すると、部屋がそれほど広くないのもあって、開始から数分でジャックが何かを見つけた。それは、指で文字を打つ小さな部品が、ゆうに百を超える数で整然と並べられていた。その上には球体の籠のような装置が取り付けられていた。


 全員がジャックが見つけた機械を囲んだ。もはや、分かり切っていた答えを再確認することになっただけだ。何もせず何も言わず、ただそのタイプライターを改造して作られたそれを、再び訪れた重苦しい沈黙の中で見つめるだけだった。


次回は1月18日に公開予定です。

ツイッターもよろしくお願いします!

https://twitter.com/nakamurayuta26


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