第148話 成長と残骸
ツバキがエルフの子供達に囲まれ、あたふたとしているのを、微笑ましくオレは見守っていた。武装して来なかったのは正解だった。おかげで心の距離の縮まり具合が早い。ツバキも同じ意図だったのか、彼女も武装していない分、いつもよりとっつきやすい雰囲気だった。
「ヒロアキ、いいえ、誰でも良いから、見ていないで助けてくれないかしら」
困り果てた様子のツバキを見て、もうそろそろ助け舟を出そうと、オレは苦笑しながら立ち上がった。その時だった、ロビンとマキナがエルフの子供達に駆け寄って行ったのは。子供達の興味は二人に移った。
「みんな、マキナお姉さんがまた外の世界のお話をしてくれるよ。さあ、こっちに集まって!」
ロビンの呼びかけに子供達が動き、ツバキから離れていく。解放されたツバキはすっかりくたくたになっていた。マキナは子供達の注目が自分に集まっているのを確認してから、ゆっくりと話し始めた。
「そうですね、今度は港町アンカラッドのお話をしましょう。潮風が気持ち良くて、色んな美味しい料理がある、とても素敵な町なんですよ」
マキナが優しい声でお話を進めていくほど、子供達は夢中になって瞳を輝かせていく。外の世界との出入りが極端に制限されたこの村では、子供達にとって最高の娯楽になるのだろう。
「わあ、何度聞いてもやっぱりすごいや。ねえ、マキナお姉さん。僕が大きくなったら、『暁の至宝』に入れてよ。それでね、外の世界のことをもっと知って、他のエルフやハーフエルフのみんなにも、外の世界に興味を持ってもらえるように頑張るんだ!」
「そうなんですか。でしたら、まずは開拓者にならないといけませんね。ちゃんとお勉強をしないといけませんよ。開拓者として活躍するには、たくさんの知識が必要なんですから」
分かりましたね。マキナに諭されるようにそう言われ、ロビンは唇を尖らせた。子供達の間に自然と笑顔が広がる。子供達にお話をするマキナを見ながら、オレは彼女の成長を実感していた。
ブルク・ダム遺跡で初めて彼女と出会った時、彼女はまるで赤子のようだった。ところがどうだ、今や疲れ果ててオレの傍で寝ているエマニエルよりも、大人びて見えることさえある。
このままもう少しの間だけ、こうして見守っていたい。けれど、状況がそれを許してくれない。早枯れ現象がより悪化しているのが判明している今、すぐにでも切り上げさせて対応するべき、なのは分かっている。分かってはいるのだが。
新しい何かが生まれようとしているこの瞬間を前に、いつどう口を挟もうかオレは迷った。だが、脅威は予想を遥かに超える早さで牙を剥いた。周囲の草木が突然、急激に成長したかと思えば、あっという間に枯れ果ててしまったのだ。
それだけじゃない、枯れた茂みが不自然に揺れた。ちょうどオレの背後だ。オレは大慌てで後ろを振り向いた。そして、見つけたんだ。この村を、森を蝕む、悪意の残骸を。
次回は12月21日に公開予定です。
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