第147話 この瞬間を
「ごめんなさい、取り乱したりして。でも、もう落ち着いたから大丈夫。話の続きをするわね。『凶兆の流星群』が発生した原因だけど、未だに誰も分からないの。少なくとも、『星の円卓』の中では」
ツバキは涙を拭ってそう言うと、虹色の欠片を再び懐にしまった。もういつもの彼女だ。少なくとも、表面上は。彼女は一度大きく息を吸って、目を閉じてゆっくりと吐くと、背を向けて肩ごしにオレを見た。
「そろそろ、戻りましょう。歩きながら、話すわ。みんなを、待たせ過ぎている」
それから二人で帰り道をのんびりと歩きながら、しばらくの間は静かに景色を見回していた。心中未だ穏やかざる彼女が再び話し始めるのを、付かず離れずの距離でオレは待つ。
すると、歩いて数分は経った頃だろうか、森の異変を見つけたのは。行きの時は何の変哲もない、小さな小さな花畑だった。それが、帰りの今は枯れ草の大きな集まりになっていた。
「嘘だろ。ついさっきまでこんな風じゃなかっただろ。今までに見聞きした早枯れ現象でも、ここまで酷いものはなかった。どうしてこんなことに――!?」
「――おそらく、『星の円卓』がまた動き出したんだわ。どういう原理かは分からないけど、あの騒動の後からずっと、神殿に引きこもっているから、そうに違いない。そうに違いないわ!」
ツバキはやや声を荒げてそう言った。やはり、彼女はまだ冷静にはなれていない。落ち着かせるために何と声をかけるべきか、迷っている間に彼女は帰り道を先に進んでいく。オレは慌てて彼女の後を追った。
かける言葉が見つけられないまま、とうとうシャーウッドに戻ってしまった。エルフの子供達はまだ、エマニエルとマキナと一緒に楽しそうに遊んでいたが、戻ってきたツバキの姿を見たとたん静まり返ってしまった。
自業自得ね。そう呟いてその場を離れようとするツバキを、誰かが呼び止めた。声の主はロビンだった。彼はツバキの服の袖をつまんで、エルフの子供達の方へと引っ張っていった。何をするつもりだろうか。
「ねえみんな、聞いて欲しいんだ。このお姉さんはあの騒動を収めるために、『星の円卓』が支配する神殿から命の危険を犯してまで、大事な人を助け出したんだ」
ロビンの言葉にざわめきが起きるが、邪魔をしようとする者は一人もいない。戸惑いつつも、少年の純粋な訴えに誰もが耳を傾けている。
「もうみんな気付いているだろう。『星の円卓』はシャーウッドを、自分達の物にしようとしているって。その証拠に、あいつらは黄金の森で好き勝手するし、偉い人達はそれに対して何もしないでいる!」
ロビンは憤りと興奮で顔を赤くした。周囲にはただ呆然としている者や聞き入っている者、密かに頷く者など様々だ。ツバキも今はじっとロビンを見ている。
「ロビンの言う通りだ。彼女は『星の円卓』の支配、そして差別問題の解決のために、我々『暁の至宝』に陰ながら協力してくれた。どうか、彼女のことを信じてはくれないだろうか?」
ツバキがかつて、『星の円卓』の幹部であったことは、すでに村中に知れ渡っている。おそらくは『星の円卓』による腹いせだと、ロビンから教えられていた。それだけに、オレの言葉が彼らの心に響くかどうかは賭けになる。でも、言わずにはいられなかった。
ざわめきはもうなく、静かな緊張だけが残った。お互いをせっつくような視線が飛び交うが、誰も何もしようとしない。そんな中、一人のエルフの少年が前に出た。さっき、エマニエルと親しくしていた子だ。
「ボクは、お姉さんを信じる。『暁の至宝』が、お姉さんを信じるみたいに」
少年の言葉にツバキの瞳が揺れた。他の子供達も次々と一歩前に出る。つられて大人達も歩み寄る。――ようやくだ。これで、作戦を最終段階まで進められる。でも今は、この瞬間を見守ろう。
次回は12月14日に公開予定です。
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