第145話 ツバキの秘密
淀みのない足運びで先を行くツバキを、オレは茂みをかき分けながら必死に追いかける。今のオレは鎧を着ていないし、剣と盾だって持っていない。なのに、どうしてここまで差がつくのか。スキルか、それとも純粋な経験値か。
「ここなら、大丈夫。何を話しても、誰にも聞かれない。昨日は大変だったし、明日からも大変だろうから、次の機会はいつになるか分からない。だから、まずはこれを渡しておくわ」
ツバキがそう言ってオレに渡したのは、ご神木の神殿内部の詳細な地図だった。兵士の配置と巡回ルートまであるが、二か所だけ不明となっている場所がある。それぞれ、『神殿奥の間』と『魔法研究室』という記載があった」
「そこだけ見張りの数が、他よりも極端に多かった。知られたくないものは、間違いなくそこにある」
ツバキはそう断言すると、目をそらしてぴりぴりとした緊張感をさらに高めた。口元がきゅっと結ばれたり、ぷるぷる震えたりしている。話をいつどう切り出そうか、迷っているようだった。
「あのさ、他にも話したいことがあるなら、言ってみなよ。あるからオレを、ここに連れてきたんだろう。力になれるなら、力になりたいんだ」
思い切ってオレから切り出してみた。すると、ツバキは再び視線をこちらに向けて目を見開き、くすっと笑顔をこぼした。予想とはちょっと違った反応にオレがどきっとしていると、彼女はふうと息をついて肩の力を抜いた。
「ただの昔話。私が『ツバキ』になった理由。私は地元では有名な一族の、本家の長女として生を受けてから、その立場にふさわしい立ち振る舞いを、周りから常に求められてきた」
ツバキはそこで一度口を閉ざし、顔をしかめた。オレはじっと黙って、彼女が葛藤を乗り越え、再び話し始めてくれるのを待った。すると、オレの様子に気付いた彼女は微苦笑を浮かべた。
「当然、ただの凡人でしかない私に、そんなことは不可能だった。ことあるごとく罵倒され、蔑視され、排斥された。だから私は、周りに認められたくて、受け入れられたくて、完璧であることを目指した。――この世界でも」
ツバキは赤い花の髪飾りにそっと触れた。転生前の世界で、『椿』と呼ばれていた花を。
「でも、私は間違っていた。完璧になんてなれるはずないのに、完璧であることに固執した結果、たくさんの人をないがしろにしてしまった。今、私がしていることは全て、そのことに対する償いなの」
ツバキはまるで吐き出すようにそう言うと、空を見上げて唇を固く結んだ。そのまましばらくの間、風が枝葉を揺らす音を二人で聞いていた。
「私が自分の過去を語ったのは、一番伝えておきたかったことに、つながっているからなの。これを、貴方に見せておくわ。これが、私の愚かな夢の始まりで、過ちの始まり」
沈黙を破ったツバキが懐から何かを取り出し、オレの前に差し出した。その何かを目にしたオレは、衝撃のあまり思わず息をのんだ。彼女の手には、全ての混乱の元凶、虹色の欠片が握られていた。
次回は11月30日に公開予定です。
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