第111話 氷雪嵐舞
新世界暦一〇二年二月。最も寒さが厳しく、過酷な季節が訪れた。水の元素の力が最も強まるこの時期になって、アイスドラゴンの動きはさらに活発化した。『砕氷の牙』が討伐を決めたのは、活発化の報告を受けてからすぐだった。
「偵察によると、この辺りにあるはずなんだが。――あった、あれだな。話には聞いていたが、思っていたよりもでかいな。それじゃあ、手筈通りにいこうぜ」
拠点を出発してから約一時間、北東へゆっくりと静かに、何者にも気付かれぬよう進んだ『砕氷の牙』一行は、巨大な鳥の巣に辿り着いた。いや、正確にはアイスドラゴンの巣、か。巣の中には奴のエサとなった動物の骨しかないが、人族の骨が仲間入りするのも時間の問題だ。
アイスドラゴンの巣に着くやいなや、キャロラインは松明に火を点け、それを巣の中へ投げ込んだ。たちまちに火は燃え移って、巣の中から煙が上がる。積雪の影響もあって燃え広がりこそしなかったが、役目は十分果たしてくれた。
遥か遠くから何かが急接近してくる。西の空の黒い影は翼を羽ばたかせ、暴風雪と共に巣の中へ舞い降りた。己の巣が脅かされた怒りを、空と大地が震えそうな咆哮で吐き出した。その場にいた誰もが、自分の体が硬直するのを感じただろう。
そう、人族ならば。例外というのは存在するのだ。オレの背後に控えていた二体のガマガエル君が、同時に腕を構え、アイスドラゴンに狙いを定めた。しかし、射出したのは油ではなく、一本のワイヤーだった。
ドワーフ製の、強度としなやかさを両立した、特別製のワイヤーが二本。それぞれ片翼を絡め取り、アイスドラゴンを地上に磔にした。奴は拘束から逃れようと必死に暴れるが、ガマガエル君達も懸命に抑え込む。
「今よ。全員、攻撃開始!」
キャロラインの号令の元、『砕氷の牙』が一斉に動き出す。オレも剣を抜き、走り出し、奴の右前足に剣を振り下ろした。剣は硬い鱗に弾き返されたが、めげずにもう一度振り下ろした。同時に、新たなスキルを発動していた。
上段から真っすぐ、全身全霊で一気に振り下ろす剛の剣、『落雷斬り』。
今度は何枚かの鱗が砕けて飛び散り、剣先が僅かに食い込んで血を滲ませる。だが、それだけだった。むしろ、こちらの右手首のダメージの方が大きい。鈍い痺れと痛みで剣を落としてしまいそうだ。
他の者達も同様だった。斬っても、突いても、殴っても、びくともしない。そればかりか、体のどこかを痛めて次々と後退していく。そして、ついにアイスドラゴンはガマガエル君達を引き倒し、拘束から解放された。
奴は力を誇示するかのように両翼を大きく広げると、怒りの咆哮を上げて羽ばたかせた。すると、積雪が舞い上がり、氷の嵐が発生する。体温が急速に奪われ、加えて強風によって身動きが取れなくなる。
アイスドラゴンは容赦しない。オレ達の動きが止まったのを見て、たまたま奴の正面に一番近い場所にいた、凍えて地面に倒れてしまった不運な開拓者に、鋭い爪を振り下ろそうとした。
しかし、再び射出された二本のワイヤーが、今度は奴が振り上げた右前足を絡め取り、逆に引き倒してみせた。彼らはただ、主の命令を遂行しているだけなのだろうが、その勇姿に凍てついた体が、勇気の炎で熱くなっていくのを感じた。
次回は4月13日に公開予定です。
ツイッターもよろしくお願いします!
https://twitter.com/nakamurayuta26




