第11話 アンカラッド(2)
「本当にギルドマスターに会わなくてもよかったのか。だって、この町に着く前に、早くギルドマスターに会わないといけない、みたいなことを言っていたじゃないか」
アンヌと共に大勢の人々が行き交うアンカラッドの目抜き通りを、人にぶつからないように気を付けながら港に向かって歩いていた。オレの言葉を聞いた彼女は立ち止まって、心配そうな、あるいは呆れたような複雑な表情になりながらオレの顔を見上げた。
「アンタねえ、今どれだけ自分の顔色が悪いか分かってないでしょ。宿に着いたら自分の顔を鏡でちゃんと見てみるんだね。そうすれば私が、アンタをギルドマスターに会わせるのを明日にした理由も分かるはずだからさ。とにかく、今は明日のために宿でゆっくり休んで、元気になることだけを考えるんだよ。いいね?」
アンヌはそう言うとオレの服の袖を掴んで再び歩き始めた。オレはまだ少しぼんやりとした意識の中で必死になって彼女についていくと、そのまましばらくしてから彼女は一軒の宿の前で立ち止まった。
それは木造で二階建ての、一見しただけで安宿と分かるほど、かなりの年季が入っていそうな建物だった。そんな建物を目にしたオレが不安な気持ちになりながらアンヌの方を見ると、彼女は苦笑を浮かべつつこう言った。
「まあ、見ての通りの安宿ではあるね。実は今ちょっと懐が厳しくってね、あまりお金が使えないんだよね。でもまあ寝るだけなら問題ないし、明日になればギルドから支援金が入ってくるからさ、今日だけは我慢してくれないかい?」
申し訳なさそうな顔をするアンヌを見て、さすがに文句を言う気にもなれなかったオレは、彼女の言うことに素直に従うことにした。
そして、オレとアンヌはこの安宿に一晩宿泊することになったのだが、確かに彼女の言葉通り、外観だけではなく宿の内装と家具も、安宿らしいやや粗末なものではあった。しかしながら、一晩寝て一日の疲れを癒すくらいなら問題はなさそうでもあった。
オレは自分の部屋に入ってすぐにベッドの上に倒れると、そのまま気絶したかのように深い眠りに落ちてしまった。誰かが部屋のドアをノックする音で目が覚めた時には、外はすっかり暗くなっていて、夜空には無数の星々が瞬いていた。道を行き交う人々の数も随分と少なくなっていた。
夢じゃなかったのか。悪い夢であったならどんなによかったことだろう。こんなにも熟睡するくらい疲れていたら、健康に問題が生じたとゲームのプログラムが判断して、対象となるプレイヤーを強制的にログアウトさせるはずなのに、それがなかった。
やはりこれは現実なのだろうか。昼間のゴブリン達との戦闘の後に、唐突に頭の中に浮かんだ恐ろしい考えが、今度ははっきりとした実感を伴って、頭の上からずっしりと重々しくのしかかってきた。
そんな恐ろしい考えを頭の中から追い出そうと、オレは目を閉じて長く長く深呼吸をした後に、何度も何度も必死に頭を左右に振った。それでも、一度は実感してしまったそれを容易には振り払えそうにはなかった。
次回は12月25日に公開予定です。
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