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第13話 シャイア族とグレンの秘密

 その場には俺とヴァレリアと、俺の姉を名乗る女、モーラ・レオンハートがいた。部屋のすぐ外には何かあった時にすぐに駆けつけられるようヴァレリアの近衛兵が控えている。


「アンタが俺の本当の姉だという証拠は何もない」


「あぁ、実際その通りだ」


「何か、証拠になるような物は持っていないのか?」


「無いね。アンタと離れ離れになった時、アタシらはどっちもまだガキだった」


 この供述は、俺の記憶と一致する。俺がエリナと知り合ったのはまだ幼い頃の事だった。多分、12歳くらいだったろうか。

 俺とモーラが実の姉弟(してい)であったなら、エリナと一緒の生活が始まる前はこのモーラと暮らしていたことになる。


「じゃあ、どうして俺は記憶を失くしているんだ? 教えてくれ」


 もう少し突っ込んだ質問をしてみる。俺が最近よく見る夢の内容がもし、過去に現実に起こったことであるなら、そして夢の中の少女がこのモーラの幼少期の姿だったら、彼女は何か知っているはず。


「そうするよう、王が命令したから」


「王?」


「アタシ達、“シャイア族”の王、アルトゥーラだよ」


「シャイア族……」


 そう呟いたのはヴァレリア。


「知ってるのか?」


「昔、ハイエルフの長老に聞いたことがある。太古の時代に存在したとされる人間の一族。この世界のどこかに、非常に高度な文明を築いていたらしいわ。単なる伝説に過ぎないと思っていたけど」


「さすがはエルフの王妃、詳しいね。けどシャイア族は実在したんだよ、伝説なんかじゃない。何千年に渡り密かにその血脈を受け継いできた。独自の方法でね」


 モーラは俺に向き直る。


「アンタはどうやって魔法を使うんだい? グレン」


「えっ? どうって……何となく、勘で?」


「だろうね。意識したこと、無いだろ? アタシもそうさ。何も考えなくとも魔力を操作できるし、体を動かすのも無意識だ。理由があるんだよ」


 手元で魔力を練り、禍々しい大鎌を作り出すモーラ。これも俺と同じく“何となく”でやってるってことか。


「シャイア族は、魔法の術式を体内に直接刻み込む。だから詠唱なんていらないし術式をイメージする必要もない。しかも、だ」


 大鎌をさっきみたいに黒い煙と化して消滅させ、モーラは言葉を続ける。


「アタシ等の術式は、先代の者達から“移植”されたものなんだよ」


「移植?」


「あぁ、親から子へ、あるいは師から弟子へ、シャイア族はその体内に刻んだ術式を受け渡しながらこれまで歴史の裏でひっそりと生きてきたんだよ」


「そんな事が、可能なのか?」


 体内に術式を刻むというだけでも俺の理解を越えた話だというのに、その術式を他人に移植までするとは。どれ程魔法に精通しているのか。現代の魔導師ですら、こんな芸当は不可能だろう。


「出来るから、アンタもアタシも魔法を使えてる。魔素分解くらいなら楽勝だったろ? 自分には天性の才能があるとか思ってたろ? え、グレン」


 モーラは、からかうように言った。ぐぬぬ……正直天性の才能あるって思ってた! だがそれは他人から与えられたものだったのか。


「その顔じゃ図星だね。まぁ過去の記憶を失ってるんじゃそう思うのも当然だ」


「そうだ! それだよ、俺の記憶はどうして消されたんだ? 話が逸れて忘れるところだった!」


 自身の魔法の才が天性のものでは無かった事に意外とショックを受けている俺。危うく肝心の話を聞きそびれそうになる。


「それはね、アンタとアタシに移植された術式のせいだよ。シャイア族、その数千年前の王の“武”と“知恵”……これがアタシ達に移植されたものさ。アタシは“武”、アンタは“知恵”。だがアンタは適応し過ぎた。幼いアンタでは到底扱いきれない膨大な知識と魔力がその頭と体を滅ぼしそうになった。だから現王アルトゥーラはアンタの記憶と能力を封印し、機が熟するのを待つことにしたってわけさ」


「そんな事が……」


 だったらやはりあの夢は、俺の記憶が封印された時の光景だったということか。だがしかし、疑問が残る。あの惨劇は何だ? 血塗れの世界に散らばる人間のパーツ。あの意味は?


「夢を……夢を見るんだ」


 俺は言う。


「夢?」


「俺は血塗れになっていて……辺りには死体が転がっている。誰かが、おやすみなさいと俺に言って……」


「なぁんだ、そこまで思い出してるんじゃないか。だったらアンタの記憶に蓋をしていた術が解けかかっているね」


「そうなのか」


「全てを、知る覚悟はあるかい? あの日、何が起こったのか」


 モーラは鋭い眼差しを俺に向ける。心の奥底まで見透かされているような心持ちの中で俺は、首を縦に振った。どのみち、それを知らなければ俺は先に進めない。


「だったらアタシが、アンタを縛り付けている鎖を壊してやろう」

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