第11話 さまよう二人の絆
「エリナ!」
動悸が激しい。心臓の鼓動がうるさい。全身の血液が沸き立つような焦燥感に駆られ俺はすぐにエルフの里へ戻り、エリナが寝かされている病室へと駆け込んだ。
「お静かに! エリナ様はお休み中です」
エルフの魔導師達がベッドに寝ているエリナを取り囲み座っていた。治療はもう済んだようで、エリナは頭に包帯を巻いて、安らかな寝息を立てていた。
「生きてるのか、あぁ……良かった」
安堵したら足腰が立たなくなり、思わずその場に崩れ落ちる俺。
「治療は終わりました。ですが危ないところでしたよ。我々の魔法であれば致命傷を負ったとしても回復させることは出来ます。しかし即死してしまえば、当然我々ですら手の施しようが無いのですよ。この子にはキツく言いつけておいてくださいね」
毅然とした態度で魔導師は言い、
「では我々はこれで。どうかこの子の傍についてあげてください。譫言でずっとあなたの名前を呼んでいましたよ」
最後にそれだけ告げて部屋から去っていった。
俺はよろよろと立ち上がり、エリナの近くに椅子を寄せて座る。
「エリナ……」
こんな事がいつか起こるんじゃないかと危惧していた。やはりエリナは、自分の技量を過信して無茶な操縦をしたのか。
「何故なんだ、エリナ」
お前は何故そんなにまでしてワイバーンに、ペリルに乗り続けるんだ?
死ぬのが怖くは無いのか?
俺はお前を失う事が何よりも、怖いというのに。
「グレ、ン……」
か細い声がした。項垂れていた俺は顔を上げた。エリナは薄く目を開けて、俺を見ていた。
「エリナ、意識が戻ったのか」
シーツの下から伸ばされた弱弱しい手を、俺は両の手で包み込んだ。この腕にも、きつく包帯が巻かれている。手の甲にはまだ少し、赤黒い火傷の跡が残されていた。
「ごめん、ね」
「謝るなよ。大丈夫だ。お前が生きてさえいてくれたら」
「本当に、ごめんなさい」
「いいんだ。しんどかったら無理に喋らなくてもいいぞ」
かすかな力でエリナの指先が俺の手に絡む。
「私なら出来ると、思ってたの」
「何をやろうとしたんだ?」
「ペリルに低空飛行で火球を」
「……そうか」
一瞬、声を荒げそうになった。何という無茶を。だが今更言ったところでもう遅い。起きてしまった現実は覆らない。それよりエリナが無事に生還したことを喜ぶことにしよう。
「グレン、あなたの作ってくれたスーツのおかげだよ」
「あれが役に立ったか」
恐らく、ペリルの火球の爆発に巻き込まれて鞍から落下したのだろう。全身の火傷を軽傷に留めることが出来たのは俺のスーツの功績だろうが、これほど迅速に回復させることが出来たのは魔導師達の働きによるところが大きい。彼女らには感謝しなくては。
「だが、もうこんな無茶なことはしないでくれ。お願いだ。俺はお前が傍にいてくれさえすれば……こうして一緒にいられさえすればいいんだ」
「グレン……」
自分が傷つくことよりもずっと、エリナが傷つくことの方が辛い。俺はここまでの道中、生きた心地がしなかった。こんな思いは二度としたくない。だから、何とかして俺は自分の想いを伝えたかった。
「グレンは、本当に優しいね」
エリナは、泣いていた。
「でもその優しさが、とても辛い時があるの」
涙声のエリナは言った。優しさが辛い、と。
「言ってる意味が俺にはわからないよ、エリナ」
「ごめんね。私がこんな性格で、面倒だよね。迷惑をかけてるよね。ごめんね……ごめん」
何度も何度も俺に謝って、エリナは両手で顔を覆い隠した。俺にはもう、何も言えなかった。啜り泣きながら「ごめん」と呟き続ける幼馴染に対して、俺はあまりにも無力だった。
理解の及ばない事象と対峙する時、人は打ちひしがれ呆然とするより他ない。今の俺はそんな感じだった。
しかしまだ、終わりでは無かった。今宵、俺は更なる謎と遭遇することになる。
そして遂にこの俺、グレン・レオンハートの物語は最終局面へと突入してゆくことになる。
この時、“最後の来客”は静かに確実に、このエルフの里へと近づきつつあったのだ。




