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第23話 真の“民意”

 拳を握り締め、魔力を蓄積させてゆく。既に、“(くさび)”は打ってある。先ほど壁を崩落させた際に、この建物の壁面全体へ予め術を施しておいた。


「最早こんな選挙には何の意味もない。金で人心を操り、暴力で脅しつけ、挙句の果てには投票用紙そのものを廃棄して勝手に結果をいじくり回す、だとっ!? これのどこが公正なんだ? お前らに言ってるんだぞ、見届け人ども!」


「わ、我々は……」


「どうせお前らも買収されたんだろ、そこのチビデブに。予想してたよ」


「貴様、レオンハート! 見届け人の皆さんまで愚弄する気かっ!?」


 短い手足をバタバタさせてイーノが抗議してくるが無視。


「所詮、世の中は金なのか。権力がある者は好き勝手して、人々の本当の想いには耳を傾けない。その投票用紙には、真の結果が示されていたんだろ!? アクラッツとゼンノ、どちらが勝ったのか」


「有り得ないね、こんな結果! 僕は認めない! 有り得ない! 無し! この選挙無し! やり直しを所望する!!!」


「そうか、選挙のやり直しがしたいんだな? いいんだな? じゃあお望み通りやってみようじゃないか」


「……何だと」


「こんなくだらねぇやり方での勝負じゃなく、本当の、ちゃんとした、民意を問うてみようじゃないか」


 俺の髪が魔力を受けて逆巻く。右の拳は赤々と光る。


「何をする気だ!? グレン!!」


「その濁りきった目を見開いて、よく見ておけよイーノ。これが……これこそが!」


 俺は拳を振りかぶり、壁面へと叩きつけた!

 瞬間、強大な魔力が接点から建物全体へと流れ出し、無数のヒビが壁面を伝う!


「貴様! これは一体!?」


 事前に仕掛けておいた魔素分解の術式を加速させて投票所の建物の構造を完全に分解、その全てを砂塵へと変える!

 更に俺は風魔法を使って瓦礫と砂を上空高く舞いあげて吹き飛ばした!


「真の“民意”だ!!!」


 突風が巻き上げた砂のヴェールの向こう、大勢の人々の姿。まるで投票所を取り囲むようにして、アイオミ区の住民が、リンチ区の、ヘイレン区の農民達が、更にワイルド区とローズ区からは多くの兵士と、エロフの美少女達までもが、この場に駆けつけていた。

 そして全員の顔が一点に、イーノに対して向けられていたのだ。


「何なんだよ……これは!」


「選挙の結果を見届ける為に集まってくれた、本当の意味での“見届け人”達だよ。さぁ、言えよイーノ。もう一度、選挙をやると。今回の結果を全て破棄して、改めてアクラッツ候補とゼンノ候補、どちらを選ぶか市民に問うと」


 エリナも、ホーリィも、ゼンノさんも、そしてエロフ達と共にローリエの姿も、そこにはあった。俺は、彼女に微笑みかけた。


 今、兵士とエロフ達との間には特殊な信頼関係が結ばれていた。そして、


「ちょ、ちょっと待てよお前達……国境線の守備はどうした? まさか仕事を放棄してここまでやってきたんじゃないだろうな!?」


 イーノの顔が怒りで見る見るうちに紅潮していく。


「仕事を、放棄?」


 一人の兵士が歩み出た。ローズ区の指揮官をしている男だ。彼は俺が訪ねた当初、エルフに対し頑強な偏見を持っていた。だが今ではすっかり、理解してくれていた。


「エルフ達は我々の敵ではありません、総督。充分に共存してゆくことが可能な、理性のある種族です」


「バーカ! いいんだよ、そういうのは! そこのアホに(ほだ)されてるんじゃないよ! 職務を放棄して勝手なことしてるのを問題視してるんだよこの僕は! 分かれよ、この無能がっ!!!」


 呆れたように首を振り、指揮官は俺の方を見た。俺は苦笑しながら彼に歩み寄って、肩を叩く。


「どうしようもないでしょ、コイツはね。後は俺に任せてください」


「グレン様、お願いします」


「あぁ」


 イーノへと一歩、また一歩、距離を詰める。


「おっ、何だよ、やる気かぁ!? おい、お前ら!」


 イーノの傍に控えていた投票所のスタッフ達が懐に隠し持っていた短剣を抜いて構えた。どうせこいつらもイーノの息のかかった連中なんだろうな。ったく、ここまで腐りきってると選挙なんていっその事、止めてしまったらいいのにと思っちゃうな。


「その“オモチャ”で、俺をどうにか出来るつもりか」


 俺がイーノに近づくにつれ、遠巻きにしていた人々の輪も徐々に狭まってきた。先頭にいる兵士達がおもむろに剣を抜き、弓を構え、盾を構えた。全員が怒りの眼差しをイーノに向けていた。


「く、来るな来るな、貴様らっ! 処断するぞーーー!!!」


「やれるもんならやってみろ、クズ野郎! この人数を、この民意を相手にこの場から生きて帰れると思うのか!?」


「ぐ、ぐぬぬっ……」


「どうする? 選挙をやり直すか? それとも潔く、負けを認めるのか!?」


「ぐっ、ぐううううっ!!!」


 俺は目の前に立ち塞がる目障りなスタッフの短剣に、指先を触れさせた。途端に短剣は分解して砂に変わった。イーノを囲っていた彼らは怖気づいて輪が乱れ、俺はその間を通ってイーノの元へ。


「どうするんだ? え、イーノ総督さんよぉ!!!!」


 大きく、拳を振り上げる。真紅の魔力をぎりぎりを練り上げて。


「や、止めろ! 止めてくれ! 僕が悪かった! 認める! 認めるから!」


 腰を抜かして慌てふためくイーノを見下ろし、俺は笑う。


「お前、まさか謝ったら許してもらえるとか甘いこと考えてるんじゃないだろうな?」


「……え」


「お前の手は汚れきっている。そしてその頭は、反省するにはあまりにもポンコツだ。今更、謝罪の言葉を並べ立てたところでもう遅いんだよ!!!」


 容赦なく、俺は拳をイーノの顔面へと振り下した。

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